そりゃあ、どんなにおっちょこちょいな人でも、さすがにそこまでストレートに言うわけがない。だが「経済人や学識経験者」にACCJも含まれていることは否定のしようがない事実で、意見書提出後の政権側の対応からも明らかである(「米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か」を参照)。

 そもそも「適用を望む企業や従業員が多いから導入するものではない」と認めている時点で、大問題だ。労働基準法は「労働者の生存権を保障するため」に存在し、経済人のいいなりで変えるものではないし、すべきでもない。

 ところが、国のトップが堂々と「あのさ、経済界が日本の経済成長には必要だから変えろって言うんだよ。だから、あとは一つよろしく! 過労死しないように自己管理してね~」と解釈できる答弁をした。

今後は年収制限も下がるだろう

 明らかに「して“しまった”」発言なのに、マスコミはスルー。全くこの発言を問題視しなかったのである。…労働者の人権はどこに行ってしまったのか?

 いずれにせよ「適用を望む企業や従業員が多いから導入するものではない」という発言は、「高プロのニーズ調査なんてやる必要ないけど、やっただけすごいじゃん!」と同義だ(ニーズ調査についてはこちら)。

 さらに、先の首相答弁をそのまま受け止めれば、それが意味することは、「高プロはあくまでもアリの一穴にすぎない」ってこと。今後は年収制限も下がり、対象も「事務職、営業職など」にも広がっていくことを示唆したことにもなる。

 なんせ「経済人や学識経験者」は誰一人として「1075万円以上を対象とする」とは言っていないし、多く見積もっても1割程度のエリートたちの残業代を削ったところで、投資家が儲かるわけがない。「1075万円以上」では要請に応えたことにならない。

 思い起こせばホワイトカラー・エグゼンプション(WE)を巡る議論が盛り上がった05年時の年収要件は「400万円以上」だった。

 当時の試算では、400万以上の労働者にWE導入した場合、総額11兆6000億円が削減される(参考記事:残業代11.6兆円が消失する?!)。

 つまり、最低でも400万円までは「脱時間給制度」の対象となり、専門の枠も無尽蔵に広がっていく。

 それが単に私の妄想ではないことは、今国会で提出された条文を見ればわかるはずだ。

 「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう)の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」(労基法改正案41条の2第1項2号ロ

 1075万円という文言はどれだけ目をこらしても存在しない。その代わり「3倍の額」「相当程度上回る水準」といった秀逸な書きっぷりを尽くした。先送りになった「定額働かせ放題プラン」(裁量労働制の拡大)も、条文をここまで曖昧にしておけばどうにでもなるはずだ。
 まさに「アリの一穴」。とにもかくにも穴をあけてさえすれば、なんとでもなる。実に残念なことではあるが「対象範囲拡大」前提で全てが進められているのだ。

 そして、ここからは私の妄想も含んだ推察である。

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