彼の会社では、数年前から成果主義を導入した結果、社内の人間関係が悪化。だが、社長はそれを問題視しながらも、成果主義をやめることはできなかったというのだ。

 「それまでの年功賃金か、成果次第の歩合制かを選べるようになった。歩合制は基本給が減る変わりに、トップセールスの社員には毎月10万円のボーナスが出る。ほとんどの社員が歩合制を選びました。10万は大きい。それに釣られたんです。

 成果主義で、確かに会社の業績は上がりました。

 みんな目の色が変わったし、社内の活気も出ました。給料が上がる人も結構いました。
 でも、ウツになる社員も増えた。互いの足をひっぱったり、密告が増えたり……、とにかく醜かったです。

 でも、社長は方針を変えないばかりか、競争を激化させた。成果主義の副作用を問題にしてるのにトップセールスのボーナスを上げたんです。また、ニンジンをぶら下げれば、事態が好転すると思い込んでいるのでしょう。

 しかも、社長だけではなく、社員も新たなニンジンに喜んだ。最悪の職場環境でみんな窒息しそうになっているというのに。わけが分かりません。

 結局のところ、成果主義(=競争)は麻薬です。味わった醍醐味が忘れられないんです」

有害な上司ほど従業員を“中毒”させる

 奇しくも、先日。彼の“麻薬発言”を裏付けるような調査結果が明らかになった。

 米国のコンサルティング会社「ライフ・ミーツ・ワーク」が、大卒従業員1000人を調査したところ、非常に有害な上司(=toxic leaders)の下で働く従業員は、そうでない従業員よりも仕事に忠実に入れ込む傾向が高いことが分かったというのだ。

 ここでの「有害な上司」とは、公然と部下をけなしたり罵倒したり、怒りを爆発させたり、他者の功績やアイデアを自分の手柄にしたりする管理職のこと。

 調査では「有害な上司」は、競争が激しく、勝つか負けるかといった雰囲気がある会社で多い傾向にあることもわかったとしていている。

 また、有害上司の下で働く従業員は、そうでない従業員より平均で2年も長く勤めるという、予想に反した結果も出た。

 なぜか? 

 有害上司は、権力も持っているので一見「有能」に見える。
 もともと仕事へのモチベーションが高い従業員は、「ここで踏んばれば、昇進するときに有利になる」と考え、「これは自分にとってチャンスだ。このチャンスをつかみ続けておかなくては」と自分に言い聞かせ、ひどい扱いに耐えるという、「過剰適応」に陥っているのだ。

 件の「成果主義は麻薬のようなもの」と語った男性は競争の渦に巻き込まれた結果、身体を壊し、2週間ほど休んだのち、競争を強いられる日常に戻るのが嫌になり退社した。

 「休んでいるうちに気がついたんです。競争、競争って、オレ、何やってんだろう、って」

 過剰適応の先にあるのは、バーンアウト。この男性はギリギリ燃え尽きる前に、立ち止まることに成功したのだ。

 「Reflecting On One Very Very Strange Year At Uber」というタイトルを、ファウラーさんがつけたのも、「私、何やってたんだろう」という気持ちがどこかにあるのではないだろうか。

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