(前回から読む)
気が付かないふり症候群
河合:楠木さんは、著書の中で、部下の不祥事がきっかけで左遷されたと書かれていますよね。
楠木:そうですね。
河合:その時は、やっぱりじくじたる思いだったんですか?
楠木:「今まで働いてきたのは何だったんだ」とかジタバタしましたね。ただ今から振り返ると、神戸で生まれて育ったので、阪神淡路大震災に遭遇したことが左遷より大きかったですね。40歳のときでした。そこから今までの自分の中の枠組みが揺らぎ始めました。
震災で亡くなった知人もいるわけです。一方で、社内を見回すと、定年までの"余生"を過ごしている人たちもいる。会社にぶら下がり続けることはできるかもしれないけれど、このままでいいのかなぁ…と強く迷い始めました。
河合:私のセミナーに参加されるミドル層の方々も、似たような悩みを持つ方が多いですね。会社組織において「承認欲」や「成長欲」が満たされなくなって、「このままでいいのかな」とか「もっと違う自分がいるんじゃないのかな」と考えるようになり、何か勉強を始めたりとか、会社の中で新しい仕事に挑戦するとか。最終的に転職する人もいますし。
楠木:40~50代で行き詰まった人の発言を集約すると、だいたい3パターンに分けられます。「成長している実感が得られない」、「誰の役に立っているのか分からない」、「このまま人生が過ぎ去っていいのだろうか」といった発言です。
河合:先ほども話に出ましたが、ごくごく一部のエリートを除けば、みんないつか左遷に遭遇するわけですよね。なのに、ビジネスパーソンの方たちは、意外と、「自分だけは左遷されない。大丈夫だ」と思っているんじゃないですか?
本当は自分でもわかっているはずなのに。「自分だけは」と思い込む。事実はそうじゃないのに。わたしはそれを、「気が付かないふり症候群」と呼んでいるんですけど。
楠木:う~ん。私なりに言いますと、長く組織の中で働いていると、「今日と同じような明日が来る」と信じ込んでしまいます。一方で心の中では、「このままでいいのだろうか」という不安を抱いているという感じでしょうか。
Powered by リゾーム?