これまでにも薄々感じていたことだが、いわゆる“エリート”が手に入れた社会的地位や高い収入といった物理的な豊かさは、私が想像する以上に人間の「たくましさ」を封じ込める。彼が発した「負け組」という言葉は、「勝ち組でいたい。今と同格の社会的地位を維持したい」ということと同義だ。
 彼は「自分の可能性を信じた」のではなく、ただ単に「○ ○さん、▲△に再就職だって。すごいね~」と賞賛されたかっただけなのかもしれない、なんてことまで思ってしまったり。

年収600万円以上もらって、負け組なんですか?

 いや、違う。おそらく誰にでもそういう気持ちはあり、私の中にだってそういう気持ちがあるはずなのに、それを真っ正面から突きつけられてドギマギしてしまったのだ。

 奇しくも、男性にお会いする数日前。「負け組について意見を聞きたい」と雑誌のインタビューを受けたのだが、「50代負け組社員のプロフィール」として渡された資料に書かれていた、「平均年収」に驚いた。
 な、なんと「平均年収620万円」と書いてあったのである。

  • 「これ……負け組のプロフィールですよね?」(河合)
  • 「はい。5000人にアンケート調査を行なった結果です」(編集者)
  • 「でも、600万円以上もらってて、負け組なんですか?」(河合)
  • 「はい。負け組だと自分では思っています。僕の世代からは、年収そんなにあって負け組とか、理解不能なんです。なので、そのあたりを是非、河合さんに分析してもらえればと思いまして…」(編集者)

 ……(沈黙)。
 とまぁ、あれこれアンケート結果を見てみると、出世競争に破れたり、同期より1円でも給料が安かったり、課長止まりだったりと、“負け組”とはあくまでも勝ち組の中の負け組で。本人たちが「オレはコミュ障だから……」とふて腐れている様子が浮かび上がった。

 ふむ。
 「働かないオジさん」問題は何度も書いてきたけど、社会的地位と収入を手にした、50代の「新中間階級」問題の根深さを突きつけられ、暗澹(たん)たる気持ちになってしまったのである。

 新中間階級――。

 これは日本社会の階級のひとつで、広義には「主に大企業などで働く賃金労働者で肉体労働に従事せず、頭脳労働に従事する事務職労働者」を指すが、『新・日本の階級社会』の著者橋本健二氏は、「専門・管理・事務に従事する被雇用者(女性と非正規の事務を除外)」と定義する。

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