「暗闇の中を全速力で走れ!って言われてるみたい」

 「本来、開発って『いついつまで』と期限をきられて、できるものではありません。試行錯誤を何度も何度も繰り返し、失敗を検証して、また試して。そうやって新しいモノが産まれるんです。でも、今は期限ありきです。すると過剰な長時間労働になる。私もそうですけど、もともと技術系の人間って、仕事が好きなんです。基本、マジメだし。家に帰るのもめんどうだって、車で仮眠を取ったり。よくないですよね」

 「昔は現場の仕事に集中して、『良いものを作る』だけで良かった。でも、今はマーケットのニーズを踏まえてやらなくてはなりません。顧客価値、市場価値、社会価値を理解しないとダメ。でも、そういう発想も知識も技術者にはありませんから、すごいストレスになる。暗闇の中を全速力で走れ!って言われてるみたいです」

 「人数もずいぶんと減らされました。40代前後の社員の負担が大きくなっているように思います。ひとりで抱え込ませないように、積極的にコミュニケーションをとるように言ってるのですが、みんな自分のことに必死で他人のこととかかまってられない。悪循環です」

 「会社はモチベーションを上げろ!の一点張りです。実は今日、河合さんには、ストレスとの付き合い方だけじゃなく、モチベーションの上げ方も話していただけると助かります。

 今回の講演会もモチベーションのことを話してもらうってことで、上から承諾もらったんです。勝手なことばっかり言ってすみませんが、みんな期待しているんでよろしくお願いします」

 以上が、今、私が思い出せる彼とのやりとりである。

リストラ、兼務…製造の現場へのしわ寄せ

 さきほど「当時は製造業などの現場の方向けの講演会が多かった」と書いたが、今思えば、さまざまな現場で問題が顕在化し始めた時期だったのだと思う。

 年功序列で賃金の高い40代以上の現場の方たちがリストラされ、

「うちの会社の技術は、工場で生まれました。技術の人たちの汗の結晶です。でも、今はすぐに数字に反映されない労働力は評価されません。それに対してどうすることもできない自分の力のなさに辟易しています」

と、やるせない気持ちを話してくれた“労働組合の委員長さん”。

 「社内試験を受けて他部署との仕事と兼務しろって。それができなきゃ、新人並みに給料下げるって言うんですよ。技術一筋でやってきた輩が、この歳になって営業だの経理だのできるわけがない」

と、会社が求める変化に戸惑っていた生産現場の“職人さん”。

 「現場の人たちの扱い方が難しい。会社としては採算が取れるかどうかが大前提なのに、現場の人はなかなか妥協してくれない。『上の指示』という切り札を出してやっとです。骨が折れます」

と、現場の頑さを嘆いていた“部長さん”。

 ……いろいろな立場の人たちが、それぞれの思いを話してくれたのである。

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