61年の開設から2011年までに3547人の受刑者が就業し、そのうちおよそ7割の2517人が仮釈放され、8割が鉄工の仕事、2割は飲食等の仕事に就いているそうだ(アムネスティ・インターナショナル日本より)。

 大井作業場で刑期を終えた全受刑者が再び刑務所に入る「再入率」は6.9%で、全国平均の41.4%と比べると大幅に低い。また、仕事に就いている人の再犯率が7.6%であるのに対し、無職者は28.1%と4倍も多いことから、法務省では積極的に受刑者たちのキャリア支援に取り組んでいる(平成21~25年度「保護統計年報」)。

“塀”の高さにショック

 以前、私が刑務所を訪問した時のことはこちらに書いた(“塀の中”で見えた「依存なき自立」観の罪深さ)。
 受刑者たちにキャリア教育を行なっている支援者の方から、「刑務所内でのキャリア支援は、再犯を防ぐためにとても重要です。もっと受刑者に効果的な授業をやりたい。そのために力を借りたい」といった内容のメールをいただいたのがきっかけだった。

 刑務所を初めて訪問したとき、私は“塀”の高さにショックを受けた。外からみるとただの物理的な塀が、中に入ると正に“壁”として存在し、その高さに圧倒されたのだ。
 受刑者たちの作業、キャリア教育の講義、塀の外の人(=刑務官や支援者)と受刑者の関係、そのすべての間にとてつもない高い塀(=壁)が立ちはだかり、私の感情は複雑に揺れた。

 「塀のない刑務所」脱走犯が「刑務官との人間関係がイヤだった」と言うような人間関係は、私が見た塀の中にはなかった。

 クリーニング、民芸品の作製、洋服の縫合などの刑務作業は、刑務官の監視する中で行われ、受刑者は決められた姿勢で、規律正しく、言葉を発することも許されず、ひたすら手を動かす。
 キャリア教育の60分間の講義中も、受刑者たちは足をそろえ、背筋を伸ばして、視線をそらすこともなく、講師の先生の話を聴く。時折、意見を求められ発言の機会を与えられるが、答えにも無駄がない。

 独特の空気感への極度の緊張から、私が受刑者に「仕事をしたいですか?」などと愚問を投げかけてしまったときもそうだった。

  • 「仕事をしてお金を稼がないと、生活できない」
  • 「仕事をして、自立したい」
  • 「仕事をして、普通の生活をしたい」
  • 「仕事をして、人を喜ばせたい」

と、回答の内容そのものは極めて普通だが、そのやり取りは良く言えば洗練、悪く言えば冷淡。私たちが日常経験する「関係性」とか「交流」というものとは明らかに異なる。

 ……温度感。そう、人と人の温度感。徹底的に“監視”されている塀の中では、日常私たちが人間関係を築くときに生じる「温度感」とは異質のものが漂っていたのである。

 それだけに今回の脱走犯が収容されていた「塀のない刑務所」には、再犯率の低さだけでは語りきれない、人が生きるための大切なモノが存在していると私は確信している。

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