なんと遂に「ネッシー」が発見され、死んだはずの「エルビス・プレスリー」がいまだに生きていたことがわかった。まさにミラクル! 凄すぎる! こんな信じ難いありえないことがおこるから、世の中はおもしろい!
何? 連休明けで、緩んでいた頭のネジが、遂にぶっ飛んだって?
いやいや、そういうわけではありません。
「ネッシーを見つけられたら500倍」「プレスリーを目撃したら2000倍(いまだに生存説がある)」という英ブックメーカーのオッズを遥かに上回る「優勝オッズ5001倍」という下馬評を覆し、チーム創設133年目でイングランド・プレミアリーグの覇者となったレスター・シティを取り上げようと思った次第だ。
といっても、サッカーについて書くわけではありません。
人の心模様を業とする私にとって、レスターというチームは実に興味深く。「やがて失速する」と誰もが信じて疑わなかったシーズン中に、ラニエリ監督や選手が語っていた言葉が、ステキすぎて。
そこで今回は、「レスターに学ぶチームのあり方」をテーマにアレコレ考えてみようと思う。
レスターってどんなチーム?
まずは「レスターって? ハンニバルかなんかかい?(おわかりにならない方は「羊たちの沈黙」で検索してみてください)」という勘違い+サッカー初級の読者の方のために(←優勝当日まで私はこのレベルでした。すんません)、レスター・シティの基礎的情報をざっとおさらいしておきます。
・イングランドのレスターシャー・レスターをホームタウンとし、1884年に創設されたサッカーチーム。
・昨シーズンの終盤、4月は最下位だったが、最後の9試合で強烈な追い込みを成し遂げ、見事プレミアリーグに残留。
・今年6月に、日本代表FW岡崎慎司選手が移籍。
・その4日後に、残留の立役者だったピアソン監督が解任。
・後任はかつてチェルシーFCなどを率い「ティンカーマン(いじくり回し屋)」と揶揄されたたクラウディオ・ラニエリ氏。ところが、レスターでは「いじらず」、継続路線を選択。
・今回の優勝の立役者とされるのが、ジェイミー・ヴァーディとリヤド・マフレズのアタッカーコンビ。
・ヴァーディ選手はプレミアリーグ新記録となる11試合連続ゴールを打ち立てたが、かつては工場でバイトしながら7部リーグでプレイしていた。
・マフレズ選手は現日本代表監督ハリルホジッチがアルジェリア代表監督時代に高く評価していた左利きの超絶テクニシャン。
・チームの汗かき役の異名を持つ、エンゴロ・カンテ選手は、プレミアリーグで最も多い93回のタックルを敢行(3月16日時点の情報)。
・我らが岡崎慎司選手は、献身的なフォアチェックやプレスバックで敵のパスコースを限定することで守備のスイッチ役として高評価
・サッカーチームの強さを示すポゼッション率(ボール支配率)はリーグ18位、パス成功率がリーグ最下位の20位。
で、元日本代表FWの中山雅史さんによれば、以下の3点が奇跡につながったそうだ。
1)タックル数リーグ1位の強固な守備力
2)タックルで得たボールを素早く前線につなぐという約束事が徹底されていたこと
3)マフレズとヴァーディの決定力
他にもたくさんの方たちが勝因を分析していたけど、私が調べた限りでは中山さんのモノとほとんど変わらなかったので、以上でサッカーに関する基礎情報は終わりです。
レスターの強さの秘密はSOCにあった!
さて、お待たせしました。ここからが本題です。そう。レスターというチームの「心=マインド」についてである。
「最後は気持ち!」というように、勝つも負けるも最終的には、メンバーたちのマインドで決まる。おそらくこのことを否定する人はいないはずだ。
だが、マインドはマインドでも、今回のレスターのように突発的な番狂わせではなく、シーズンを通して快進撃を続けるには、「勝ちたい」という気持ちを超えた、チーム隅々に行き渡る確固たる共通したマインド必要となる。
「全選手がチームに参加している気分でいるはずだ。だから、よくないプレーをすれば仲間を裏切った気分になるだろう。大切なのはとにかくハードワークをすることだ」
これはラニエリ監督がシーズン途中のインタビューで語っていたマインドを表した言葉だが、この中にこそレスターの真の強さの秘密があると私は解釈している。
つまり、レスターはSOCの高いチームだった、と。いや、正確にいうとSOCの土台をスカウト陣などの裏方や、ピアソン前監督が作り、ラニエリ監督が加わったことで、「SOCの高いチームになった」。
SOCとは、Sense of Coherence。イスラエル系アメリカ人の健康社会学者A.アントノフスキー博士が提唱した概念で、平たくいえば人間が持つ「たくましさ」のこと。SOCは人とその人を取り巻く環境で育まれる前向きな力だ。
これまで「個人レベルのSOC」についてはコラムでも幾度か取り上げてきたが、実は集団レベルのSOCも存在し、チーム力を高めるには集団のSOCを高めることが極めて重要だと考えられている。
SOCの高い集団を作るには、次の三つが必要となる。
●互いに信頼できる人と人のつながりがあること
●一貫した価値観とルールが共有されていること
●価値ある結果をもたらした集団の行動に、参加しているという意識をメンバー全員がもっていること。
少々わかりづらいので補足しておくと、最後の「価値ある結果をもたらした集団の行動」とは、たとえば「チームの勝利」だ。その勝利に補欠のメンバーであってもチームの一員として勝利に貢献したという意識を持てることを意味している。
「目標以外のことを話すのは、それを達成したあとだ」
で、この三つの実現に極めて重要なのが、リーダーの存在である。
どんなにメンバー同士が互いに信頼し合い、つながりのあるいい関係を築けていたとしても、リーダーが一本筋の通った価値観とルールを示してこそ、チーム力が発揮される。
「参加している」という感覚も、リーダーがメンバー一人ひとりと向き合い、「アナタは必要な存在だ」というメッセージを送り続けることによってもたらされる。
ラニエリ監督は、この二つを徹底的に行っていた。その自負があるからこそ、前述の言葉をごく当たり前に言えたし、どんなに記者たちから好采配について聞かれても「選手のおかげ」と、手柄を譲ることを忘れなかったのである。
では、どうやって行ったのか?
まず、一つ目に、ラニエリ監督は勝っても負けても、首位に立っても一貫して、1部残留の目安となる「勝点40」という目標を掲げ続けたことである。
リーグ前半戦で、勝ち点を28ポイント手にしたときも、
「私たち目標である40ポイントを達成すること。目標以外のことを話すのは、それを達成したあとだ。今、我々は完全に目標だけに集中している」
と記者団に答え、残留が確定したあとでさえも、
「これから我々は次の目標を達成しなければいけない。そして冷静を保つんだ。前半戦で我々は勝ち点39だった。だから、後半戦は勝ち点40を目指そう。難しいことは分かっている。だが、このリーグはクレイジーなんだ。我々は残留した。だから、トライしよう」
とコメントしている。
リーグが始まったときチームの目標は、「勝ち点40」をとって残留すること。どんなに快進撃を続けようとも、残留が確定しようとも、とことん「勝ち点40」という当初の目標を変えなかったことが、「一つひとつきちんと勝っていくぞ!」というチームで共有された一貫した価値観になっていたのだ。
メンバー一人ひとりの誕生日を必ず祝ったラニエリ
二つ目が、ラニエリ監督はメンバー一人ひとりの誕生日を必ず祝うという、実にマメな作業を行ったこと。
「誕生日だなんて……」と思われる方もいるかもしれないけど、誕生日とはその人が主役になれる唯一無二のイベントである。少々言い過ぎかもしれないけど、誕生日は自己アイデンティティの源なのだ。
そして、三つ目が、適切なタイミングで適切な言葉をかけること。
例えば、2月14日の第26節アーセナル戦での得点以来、無得点が続いていたときのヴァーディには、
"Come on Jamie, we need you! I need you!,"
(頼むぞヴァーディ、お前が必要なんだ!チームにも、そして私にも!)
そんな声をメンバーみんなの前でかけたそうだ。
もし、私がそんなことを言われたら、「何が何でも決めてやる!」と奮起するに違いない。しかも、このメッセージは「守備陣の徹底したタックルで得たボールを素早く前線につなぐ」という戦術が共有されていたレスターのメンバーにとっても、意味あるメッセージだった。
「自分MAXの力を発揮してやるべきことをやろう!」
と全員が「チームのカタチ」に集中したからこそ、ヴァーディが勝利をもたらすゴールを決められたのだ。
人から信頼されている、愛されている、見守られている、認められていると認識できたとき初めて人は、安心して目の前の難題に全力で取り組むことができる。その結果、個々人の持ち味が最大限に引き出され、集団内で相乗効果を呼び、とんでもないことがおこる。そのとんでもないことが、レスターの快挙だった。
「僕はこのクラブの一員として、特別な何かを成し遂げるため戦っていることを本当に喜んでいる。3年半前に初めてここに来たときから、僕に全幅の信頼を示してくれた。僕の成長にどれだけ大きな影響を与えたのかは計り知れない。クラブが僕に対して、惜しみない投資をしてくれたことに永遠に感謝し続けたいと思う。そして、それに報いるために毎日ハードワークをしたいと思っている」
これはヴァーディ選手が、昨年レスターと契約を延長した際に語った言葉だ。当時、すでに彼はストライカーとして頭角を表していて、レアル・マドリーなどが獲得に興味を示しているとの報道もあった。だが、彼が選んだのはレスター。その理由をこうコメントしたのである。
こんなことを言えるなんて、うらやましい。たくましくて、温かい。これがレスターというチームなのだ。
集団のSOCを高めると個人のSOCも高まる
今回、集団のSOCに注目したのは、それが個人のSOCに大きな影響を及ぼすから。個人のSOCを高めることだけにこだわっていると、どこかで限界がくる。だが、集団のSOCが高い共同体に属していると、自ずと個人のSOCも高められていく。
レスターのメンバーたちは、実にたくましく、前向きだった。
たぶん私を含めて多くの人たちがレスターに魅力されたのは、レスターというチームでチームメンバー一人ひとりが一丸となってゴールを奪いに行っているのを感じたからじゃないのだろうか。チームメンバーすべてがMAXで活躍し、互いにメンバーたちが信頼しているのを肌で感じ、たとえスーパースターになれなくとも、自分もあんな風にMAXの力を発揮したい。ああいうチームのメンバーになりたい。そう願ったのではあるまいか。
誰もが昨今の競争社会で、自分の強みを最大限に引き出し、確固たる「個」を確立させ、厳しい世の中を生き抜きたいと願う。
だが、人間は「個」として独立した生き物ではなく、互いに支えある関係性があるからこそ、個に内在する能力が最大限に引き出される。
競争社会で生き残るために求められるのは、周囲と対峙することでもなければ、競争しあうこともでもない。どんなに能力があろうとも、どんなに自分には能力があると信念を持とうとも、周囲と「いい関係」がない限り、その能力が生かされることはない。
SOCの高い集団のメンバーたちは、「周囲と共にある自己」を常に感じることができ、互いを攻撃しあったり傷つけ合うことがない。もし、そんな集団のメンバーになれたら、もうちょとだけ人生も幸せになるに違いない。
そのことを改めて教えてくれたレスターに感謝するとともに、何かと個人攻撃が横行する日本社会の私たちにも学ぶべきことが多いように思う。
最後におまけです。SOCの高い人は、疲労感が少なく、バーンアウトを起こしにくく、職務満足感が高く、さらには抑うつや不安、頭痛・腹痛などのストレス関連症状だけでなく、欠勤なども少ないことがわかっている。レスターの快挙の理由のひとつに、故障者が出なかったことを上げる人たちもいたが、こういったことにもSOCの高さが関係していたのかもしれません。
この本は現代の競争社会を『生き勝つ』ためのミドル世代への一冊です。
というわけで、このたび、「○●●●」となりました!
さて、………「○●●●」の答えは何でしょう?
はい、みなさま、考えましたね!
これです!これが「考える力を鍛える『穴あけ勉強法』」です!
何を隠そう、これは私が高校生のときに生み出し、ずっと実践している独学法です。
気象予報士も、博士号も、NS時代の名物企画も、日経のコラムも、すべて穴をあけ(=知識のアメーバー化)、考える力(=アナロジー)を駆使し、キャリアを築いてきました。
「学び直したい!」
「新商品を考えたい!」
「資格を取りたい!」
「セカンドキャリアを考えている!」
といった方たちに私のささやかな経験から培ってきた“穴をあけて”考える、という方法論を書いた一冊です。
ぜひ、手に取ってみてください!
『
考える力を鍛える「穴あけ」勉強法: 難関資格・東大大学院も一発合格できた! 』
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