また、企業は従業員の健康と安全を保障する義務があることが大前提で、たとえハラスメント予防の対策を導入していたとしても、モラハラを起こす社員が出た場合、その社員だけでなく雇用者にもその責任がある、としている。
モラハラ自体は個人間で行われるものだが、そういった言動を引き起こす責任は企業にある。「企業経営がモラハラを助長している」というイリゴイエンヌ氏の訴えが、法律で明文化されたのである。
フランスって……、すごい。「労働者は、その労働力を雇用者のために提供するが、その人格を与えるのではない」という哲学を徹底して貫いている。
日本に最も欠けている視点
「組織的モラハラ」という考え方は、日本に今もっともと欠けている視点であり、フランスに学ぶべき視点だ。
そもそも人は環境で変わるし、環境が働き方を作る。 そして、長時間労働だけが人を追いつめるわけじゃない。
現にフランスでは「たった週35時間労働」で追いつめられる人たちが、続出した。彼らはその「死」を「過労自殺」と呼び、社会問題化している。
昨年の5月に過労死防止学会が行った国際シンポジウムには、フランスの研究者も参加。フランスの過労自殺問題を報告した国立社会科学高等研究学院のS・ルシュバリエ教授は、「過労自殺は労働時間の長さではなく、密度の濃さに問題がある」と指摘。
その上で、以下のように述べた。
「週35時間労働は確かに生活の質を向上させ、ワークライフバランスを実現させた。ただ、問題はそう単純ではなかった。
従来の仕事量を変えず、労働時間だけ週39時間から35時間にしたことで、大きな問題が2つ起きてしまった。
ひとつ目は『すべての時間を生産的に過ごさなくてはならない』という考えが、労働者に広まってしまったこと。2つ目は経営側が、労働者に強いストレスをかけ労働者を管理し、仕事を増やして効率をあげさせようとしたことだ」と。
つまり、
- 労働時間 週35時間(年1600時間)
- 休息 次の勤務までに連続11時間のインターバルを保障
- 休暇 週1日(原則日曜日)、年間30週日(5週)の有給休暇(バカンス法)
と週単位、月単位、年単位で、「身体を休める」制度が整っていても、人はストレスに追いつめられる。
人をコストと考え、効率だけを重視する企業経営は、過度なプレッシャーとストレスを従業員に与え、それらのストレスに堪えられなくなったとき、人は「死」という悲しい選択をするのだ。
Powered by リゾーム?