クラッシャー上司の被害は、独りでは対処できない

松崎:なるほど。僕のところに来るうつ病になった社員、特に20代ですけど、仕事に意味が感じられない、意義が感じられない、それでうつになったという人がすごく多いんです。月に20人ぐらい、そういう人たちの話を聞いています。

 今、河合さんの話を聞いていて、若い時分、御巣鷹のJAL墜落事件の事故の救護に行かれた防衛庁幹部の方の話を思い出しました。そのときの作業は自衛隊の最前線にいる相当タフな人にとっても、本当に厳しいものだった。

 彼は、1日目で「俺には耐えられない。俺には自衛官としての資質がない」って感じて、「このミッションをやり遂げたら、自衛官を辞そう」と決意したそうです。だから2日目からは、何も考えず、無心で厳しい作業に取り組んだそうです。

 そしたら、2日、3日とやるうちに、「この厳しい作業ができるのは、俺しかない」と思うようになったというんです。「これをできるのは、俺たちの部隊しかない」って。その自信と誇りを持って、最後までやり遂げたと言うんですよ。

 だからね、こんな仕事は無理とか、こんな仕事に意味はないとか、絶対に適性はないというふうに思ったとしても、その有意味感が得られない仕事に自分で意味を与えられるようになるかどうかが、1つの壁というか殻であって。

 そこの殻を破るには、とにかくまずは没頭して……、没頭するしかないんですよね。

河合:その通りだと思います。もう本当、目の前にあることを、足元のことを、きちんとやる。それしかないんですよ。今って、こういうこと言うと「精神論だ」とか、「時代が違う」とか批判する人がいますけど、人間の本質って時代で急に変わるものではない。価値観は多少、変わるかもしれません。でも、本質は変わらないんですよね。

 だからこそ、先生が往年の人気ドラマ「岸辺のアルバム」で見たクラッシャー上司が、今もいろんな企業に存在するわけですよね。

松崎:そう、そのとおりです。

河合:上司って、部下に「ちゃんと見てるぞ」というメッセージを送って、有意味感を持たせることが大切だし、ひょっとするとそれくらいのことしかできないのかもしれません。

松崎:だから「守護霊」になることが大切なんですよね。

河合:では、最後に一つだけ。「クラッシャー上司のもとで、逃げ場を失っている人」にアドバイスをいただけないでしょうか?

松崎:そうですね。まずは自分が置かれている状況を、誰かに伝えるということですね。友達でもいいでしょうし、話しやすい人でいい。コレね、実は自分自身にも、上司にも効くんですよ。

河合:人に聞いてもらうだけで、本人がちょっとだけスッキリすることはあると思うんですが、上司にも効くというのは?

松崎:これまで説明してきたように、基本的にクラッシャー上司には悪意がないわけです。「部下のため」「会社のため」にやっているという自己解釈なので。ただ、僕のときがそうだったように、それを聞いた誰かが「今のやり方、よくないですよ」と上司に気付きを与える場合がある。

河合:秘書さんが、先生が准教授に厳しく接しているのを見て恐くなって辞めた、という話ですね(「クラッシャー上司、口癖は「お前のため」」参照)。

松崎:そうです。部下もね、スッキリするだけじゃなく、上司の別の側面を知るきっかけになるかもしれない。

河合:確かに。コミュニケーションって受け手がすべてを決めるので、受け手、つまり部下側の認識が変わると受け止め方も変わりますよね。

松崎:部下側から上司にコミュニケーションをとることで、いい意味での化学反応が起こることもありますから。

河合:でも、先生のご著書『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』を読むと、簡単には変わりそうもないクラッシャー上司もいますよね?

松崎:ええ、現実にそうした人はいます。その場合は、社内通報の担当窓口でもいいし、ほかの部署の上司でもいいし、ある程度権限をもった部署や人に相談をしてみる。社内通報の利用は心理的にハードルが高いという場合には、部署内のメンバーでもいいので情報をシェアするといった段取りが大事です。

河合:それでもどうにもならない場合は?

松崎:これは1人の力では絶対どうにもならないので、僕たちみたいな産業医に相談してください。産業医への相談内容は完全に守秘されるので、安心して相談して下さればいいと思います。

河合:アドバイスありがとうございます。ただ、読者の皆さん、産業医の先生に相談してもなかなか状況が改善しないときには、私にご連絡を。どこかとおつなぎいたします。

松崎:ん??? どこかって、もしかして僕のところですか?

河合:もしかしたら、そういう場合もあるかもしれません(笑)

松崎:(苦笑)

河合:冗談はさておき、先生、本日は長時間ありがとうございました。勉強になりました!

松崎:こちらこそありがとうございました。

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ウェビナー開催、「1時間で完全理解 『量子コンピューター』は何がすごいのか」

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■テーマ:1時間で完全理解、「量子コンピューター」は何がすごい?
■講師:寺部雅能氏(住友商事QXプロジェクト代表)、藤吉栄二氏(野村総合研究所IT基盤技術戦略室エキスパート研究員)
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