病欠は人事考査でプラス評価すべき
松崎:是非、お願いします。でも、会社という社会で、ストレスの雨に対峙するために用意されているリソースが上手く使われていないという点は、河合さんと意見が一致してますよね。
河合:外的資源、つまり、会社が社員に提供するリソース。有給休暇のほか、育休や産休といった制度もすべてそうです。例えば、日本の育休制度って、欧米と比べてもかなり恵まれている、とても優しい制度です。でも、そのリソースがうまく使われていない。
松崎:使いにくい空気があるんですよね。有休が代表例です。例えば、メンタル不調を訴える社員に、「1週間ぐらい休んでごらんよ」ってアドバイスするんですね。「うつにはなってはいないけど疲れていて、休息が必要だから診断書を書いてあげようか」って。
すると人事が「まだ有休が残っているから、有休から処理させましょう」となる。「病欠は、人事考査でマイナスになる」って。これ、おかしいでしょ? 誰だって生きてりゃ病気になるのに、人事考査でマイナスになるって考え方。明かにおかしい。
河合:現役バリバリ24時間働きまっせみたいな人が、スタンダードになっちゃってますよね。
松崎:一生懸命働いていれば、ときにちょっと病むことがあるのは当たり前なんですよ。それがマイナスって……。
河合:先生、そういう会社側のスタンスに、産業医として苦言を呈したりしないんですか? 「戦う産業医」って、社員の最強のリソースになると思いますけど。
松崎:僕が文句を言って、会社が変わる可能性があるならば言いますけど、変わらないんですよ、現実には。本当、残念なことに。
だからエビデンスを積み重ねて、ミクロではなくマクロの視点から「ホラ!」ってやるしかないんです。
河合:でも、これまた残念なことに、日本の経営者はエビデンスより、自分たちの成功体験で語りたがりますよね。だから、応急処置にしか過ぎない「バンドエイド治療」ばかりが横行する。自分たちが銃弾を放っているのに「ナニ、どうした? 傷ついちゃったか~。じゃ、バンドエイド貼っておこうね~」みたいな。
松崎:ただ、まあ大きな問題も起きず、それでやっていけちゃうことも多い。だから、「ハードワークによるうつとか体調不良とかがトラブルになるのは、運が悪かっただけ」と思いがちなんです。
河合:大きな事件がおこると、あたかもその会社だけが特別に問題があったような扱われ方しますけど、ほかの会社では「たまたまおきてないだけ」なんですよね。
コレ言うと、中間管理職の方たちから「眠れなくなるから止めて」って言われちゃう。職場において実際に問題が生じるのは、経営幹部と当該社員の間ではなく、直属の上司との間ですから。
松崎:上司の力は大きいですね。うつになった患者さんを職場復帰させるでしょう。上司が「何とかして戻そう」と考えるか、内心「厄介だな」と思うかが、職場復帰の成否を決定していると言っても過言ではありません。
河合:上司って、逆上がりを出来なかった人に限るんですよね。
松崎:どういうことですか?
河合:逆上がりって、最初からできる人はあまり考えずともできる。簡単にできちゃったから「どうやったらできるの?」って聞かれても、答えられない。つまり、上司もちょっとくらい病んだ経験のある人のほうがいいです。病欠は人事考査でマイナスじゃなく、プラスにすべきですね。
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