「自分の実力を過信するな!」って

 「私も驚きました。しかも、彼は長年、私をサポートしてくれていた人で。仕事も教えていただきましたし、部長に昇進するときも、その人が反対派を押しきってくれたからです。

 本人は私が気付いてると思っていないので、表面上はニコニコしているし、人間不信になりました。ただ、その段階ではまだ私も頭にはきたけど、いじめられてヘコむほどじゃなかった」

 「決定打は、会議です。……ああ、これを話すと……うちの会社の恥をさらすようになってしまうんですけど、どこの部署も厳しいし、誰も責任をとりたくないので、会議では足の引っ張り合いみたいなところがあります。それで、あまりにも非生産的な議論ばかりするので、自分の意見を言って、ある役員とちょっとバトルみたいになった。そしたら『自分の実力を過信するな!』って、怒鳴られたんです。最初は何を言われているのか意味がわからなくて……」

 「つまり、女性活用の象徴に過ぎないってことですか?」(河合)

 「まぁ、そういうことです。でも、それだけならまだ、なんとか無視できた。許せなかったのは、私が今まで、いかに独善的にやってきたか、どれだけ周りが感情的な振る舞いに迷惑してきたか、を言い始めて……。『周りを否定ばかりして、どれだけ男性部下たちのプライドを傷つけてるのかわかっているのか』って。そう言われてしまった。しかも、周りは無言で。むしろ、『よくぞ言ってくれた』って感じでした」

「気にしなきゃいいって。でも、倒れてしまった」

 「えっと、それを言った人と、会議の資料をわざと回さなかった人は、同じ人ですか?」(河合)

 「いいえ、違います。それが余計にショックで。つまり、四面楚歌です。そこで私の中の何かが狂い始めた。ナニかが、ブチッと切れたんです。会議のあと、私、部下たちのいる現場で、倒れちゃったんです。

 1週間ほど家で会社を休んで、家にいたんですが、なんか倒れたことで吹っ切れた。もういいかなって。こんなとこにいてどうする、って。だって、今まで散々リーダーシップがあるとか、決断力がある、って評価されてきたのに。それを独善的だの、感情的だの言われて、私はどうすりゃいいんだ?って感じでしょ? なので退職届けを出した。私はずっと女であることを言い訳にしたくないと思ってやってきました。でも、結局最後は、女……。ええ、女。そう女だった。そういうことです」

 最後は、女―――。

 彼女のこの言葉の真意は、何だったのだろう? それを、私は問いただすことができなかった。なんか、その行為自体が彼女を追いつめるような気がして。いや、私自身が、聞くのが恐かっただけかもしれない。立場は違えど、私も、女だから。とにかく、それ以上は突っ込みたくなくて。すみません。相当、情けないですけど、とにかくそれ以上は聞けなかったのである。

 “語り”を紹介するのは辞めたうちのお一人だが、どちらも男女雇用機会均等法世代で、さまざまなハードルを乗り越えてきたパイオニア的存在である。

 現場でひとつひとつ実績を積み上げ、自己啓発にいそしみ、結果的にヒエラルキーを上ってきた有能な人。並大抵の努力ではなかったことは、容易に想像できる。