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「自分の市場価値を見定める自分がいて……」

 「個人的な話をしてもいいでしょうか? すみません。あの……、河合さん、友だちいますか? 私、いないんですよ」

 フィールドインタビューが終わり、世間話になったときこうボソッと話しだしたのは、大手企業に勤める52歳の男性である。

 「若いときはそれなりにいました。でも、30代になって仕事、仕事、ばかりで。休日は休日で、子育てに追われる生活をしているうちに友人とも連絡がなんとなく途絶えてしまいました。で、ふと気づいたんです。『友達いない』って。ひとりもいない。ゼロ。孤独です」

 「もともとあまり群れるのは好きではないし、ゴルフもやりません。ひとりでいるほうが楽。でも、ときおりものすごい孤独を感じることがあるんですね。40代のときはあまり感じたことがなかったので、これって年のせいなんでしょうか?(苦笑)」

 「ただ、孤独は感じるけど、別に寂しいわけじゃないんです。もっと違う感覚で。上手い言葉が見つからないな……。そのなんていうか、『俺、孤独だな』って感じた瞬間、自分の会社での立ち位置とか、この先の自分の状況とか。そういうことをやたらと考えるというか、見えてしまうというか。自分の市場価値を見定める自分がどこからともやってくる。それで、ものすごい不安になるんです。ああ、俺大丈夫かなって」

 「あと20年すれば73歳です。20年前は33歳ですから、結構、すぐですよね。下流老人や孤独死も他人事じゃない。この先、アベノミクスもどうなるかわからないし、会社だっていつなんどきシャープのようになるかわからない。若いときに想像していた将来と全く違いますよね」

 「奥さんに、そういった不安を話したりしないんですか?」(河合)

 「(苦笑)できませんよ。妻は数年前から復職して、バリバリですから。こんなこと妻に話すくらいだったら、死んだほうがマシです(笑)。あっ、すみません。河合さんにこんなこと話すのも失礼ですよね。でも、いろんな方をインタビューしてるって言ってたので、他の人はどうなのかな?って…」

 「同窓会とかないですか? 私はここ数年、中学、高校、大学って同窓会がバッっと増えて。同窓会って行くまでは、なんとなく足がすくむんですけど、行ってみるとものすごい心地よくて。だいたい似たような悩みを抱えてるから、想像以上にホッとできて、同級生っていいなぁって思いましたよ」(河合)

 「ええ、同窓会はあるのはあるんですけど…。なんとなく行きづらいんですよね。女性にはないのかもしれないけど、男ってなんか、あるんですよ。ええ、なんとなくね。あ、こんなこと言ってるから友だちがいなくなるんですよね。……、話を聞いてくれてありがとうございました。元気出ました……」

いますか? 取り立てて用事がなくても連絡できる相手

 もっと「ナニか」を話したいように見えた彼が、「元気になった」とは到底思えなかったけど、「妻に言うくらいなら死んだほうがまし」には、正直笑ってしまった(すみません)。

 私の友人(数少ない一人です!)は、不安ばかりを口にする夫を

「オーラゼロ! っていうか、負のオーラが伝染するんじゃないかっていうくらい冴えない男になった。しけた顔ばかりするなって感じ!」

と憤っていましたから。はい、あいすみません。夫のみなさん。

 ただ、彼の話には、共感する部分が山ほどあった。そう。孤独=寂しさ じゃない。

 特に休日など一人で家でボ~ッとしてると、私も自分の目の前に「自分」が降りてくることが度々あった。「社会的動物」である人間は、常に誰かと関わり、向き合い、つながろうとするが、そのつながる相手が、「自分」になるのである。

 そして、「この先、私は、だ、大丈夫だろうか」と不安になる。

 70歳になってもちゃんと食っていけているか? 70になったとき、一人で寂しくないかな? とか、考えたところでどうしようもない出来事に頭が埋め尽くされ、不安だけが募っていくのである。