増える介護施設での利用者虐待

 実はこの“友人”のメッセージを、他のメディアで取り上げたとき「90歳の方の言うことを鵜呑みにするのか?」「この介護施設だけの話だろ」という意見があった。

 批判を恐れずに言わせていただけば、「90歳を舐めるなよ!」と。“友人”は私よりよほどしっかりしていて、世の中を実に冷静に、客観的に、やさしく、ときに厳しく見つめるまなざしをもっている人生の大先輩だ。

 「うぬぼれかもしれないけど、私はここにいる人たちの代弁者だと思っています」――。 メッセージの最後にはそう加えられていた。

 そもそも介護保険制度は、介護を医療から分離することで始まった制度だ。高齢化が進み、医療の範疇のままでは医療費がかさみすぎるという考えから、医療と介護とに分けられた。専門家の中には、「そもそもこの制度自体、介護にはお金をかけないという視点から始まった経緯がある」と指摘する人もいる。

 人間には限界ってものがありますよね――。

 この言葉の真意を、もっともっと、一人でも多くの人が“我が事”ととして受け止め、考えて欲しくて、“友人”のメッセージをここでも取り上げさせてもらいました。

 厚労省が2月5日に、高齢者虐待防止法に基づき発表したデータによれば、2014年度に特別養護老人ホームなどの介護施設で発覚した職員による高齢者への虐待は300件(前年より35.7%増)で、過去最多を記録した。

 被害の約8割は認知症のお年寄りだった。また、虐待の内容は、殴る蹴るなどの「身体的虐待」が最も多く63.8%。次いで、暴言を吐くなどの「心理的虐待」、「経済的虐待」おむつを替えないなどの「介護放棄」だった。

 また、虐待をした職員の年齢は、「30歳未満」の割合が22%で最も高く、男性の場合は34.4%、女性だと17.3%を占めた。

 虐待の要因は認知症への理解不足といった「教育・知識・介護技術などに関する問題」が6割超と最多で、「職員のストレスや感情コントロールの問題」が約2割だった。

 厚労省の担当者は「知識不足とストレスが合わさって虐待に至ってしまうケースが多いようだ」としているという。

本人が独力で解決できる問題なのか???

 「知識不足とストレス」――か。

 確かにその通りなのだろう。だが、どこか他人事のようで……。もっと環境にスポットを当ててくれよ、と。

なぜ、「虐待」の原因にストレスがなってしまうのか? 
介護の現場の、ナニがストレッサー(ストレスの原因)になっているのか?
そのストレスを軽減するには、どうしたらいいのか? 

 厚労省の役人であればこそ、
「介護の制度やあり方には構造的に問題がある。超高齢化社会に向けて、国は根本的に考え直す必要があるかもしれない」
くらいのことを言ってほしかった。

 いかなる状況であれ、虐待や暴力は許されることじゃない。だが、そこで起こる“事件”は、環境の問題でもあり、心、すなわち感情の問題でもある。お国の“担当者”であれば、それくらいわかるはずだ。 

 批判ついでに言わせてもらえば、「知識習得」っていうけど、物理的にも精神的にもギリギリの状態で働いている介護の現場の人たちに、知識を習得する時間などない。今の状況のままで、たとえ機会を義務付けたところで、本当に効果的な教育が行えるのか?

 「離職者があとを絶たず、その補充もなかなか見つからないので、残ったヘルパー達が、過重労働を強いられているのが現状」(前述の手紙より)で、特に「夜勤」は精神的にも、肉体的にも負担だ。

 虐待が発生している現場では夜勤が月15日以上、勤務時間は280時間にも及ぶ例があり(NPO法人全国抑制廃止研究会調べ)、介護職の方の中には手取りが10万円ちょっとで、生活のためにバイトをしている人もいる。

 2015年12月の介護サービスの有効求人倍率は3.08倍で、全職種平均の1.21倍の2倍超。 14年度の年間離職率は16.5%(介護労働安定センターの調べ)。このうち勤続1年未満で辞めている人が約4割を占めた。約6割が「職員が不足している」と答えた。