ブレグマン氏は「Poverty is not a lack of character. Poverty is a lack of cash(貧困とは人格の欠陥によるものではない。貧困は現金の欠如によるもの)」と説き、ホームレスなどは最初から怠惰だったわけではないし、貧困層が薬物をより頻繁に使用するのは、基本的欲求(寝食住)が満たされていないからとしている。

 私なりの解釈を加えれば、ベーシックインカムの根っこには、働くことは「生きている価値」と「存在意義」をもたらす、とても大切な行為だという思想が存在すると理解している。

 「働く」という行為には、「潜在的影響(latent consequences)」と呼ばれる、経済的利点以外のものが存在する。潜在的影響は、自律性、能力発揮の機会、自由裁量、他人との接触、他人を敬う気持ち、身体及び精神的活動、1日の時間配分、生活の安定などで、この潜在的影響こそが心を元気にし、人に生きる力を与えるリソースである。

 リソースは、専門用語ではGRR(Generalized Resistance Resource=汎抵抗資源)と呼ばれ、世の中にあまねく存在するストレッサー(ストレスの原因)の回避、処理に役立つもののことで、ウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)を高める役目を担っている。

 人は生理的欲求、安全的欲求が満たされれば、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求を満たそうとする。ニーチェが「職業は人生の背骨である」と説き、マズローが「仕事が無意味であれば人生も無意味なものになる」と著したように、人は仕事に自己の存在意義を求める。

 いずれにせよ、ベーシックインカムの導入実験の最大の関心は「お金を配って、人はホントに働くのか?」という点だ。

 ブレグマンは著書でこれまで行なわれた実証研究を紹介しているのだが、その中でもっとも私が「これだよ!」と感動したものを紹介する。

 ミンカム(Mincome)──。1970年代にカナダで行なわれた大規模な社会実験で、舞台は人口1万3000人の小さな町ドーフィン。ミンカムとはプログラムの名称である。

 実験は貧困線より下にいた30%の住民に相当する1000世帯に毎月小切手が送られ(4人家族の場合、現在の価値に換算すると年間1万9000ドル相当)、実験は4年間続けられた。

 子どもが増えれば増えるだけ支給額が多くなるので、実験開始時には「年収が保障されると、人々は働くのやめ、家族を増やすのではないか」と懸念された。

 が、実際には逆の結果になったのである。

  • ・結婚年齢は遅くなり
  • ・出生率は下がり、
  • ・より勉強に励み、学業成績は向上した

 また、

  • ・労働時間は男性で1%、既婚女性3%、未婚女性5%下がっただけで
  • ・現金の補助を受けたことで、新生児を持つ母親は数カ月の育児休暇を取ることが可能となった

 さらに

  • ・学生はより長く、学校にとどまることができ、きちんとした教育を受けるようになった