老害を許してしまう“淡い期待”

 ……実に微妙だ。申し訳ないけど私には、「ああ、ソレは大変ですね!」と男性に100%共感することが出来なかった。が、その一方で、彼が踏み出せないのは、単に「保身」だけはなく、かつてのキラッと光っていた社長への、“忘れられない期待”があるようにも思うのだ。

 ちょっとばかり事情は違うが、私にも似たようなことがあった。ある退官を控えた大学の先生の研究チームでお仕事をさせていただいたときのこと。

 その先生は私が大学院時代にいろいろとお世話になった方で、大学の研究者にありがちな机上の空論がなく、地に足が着いた目線で物ごとを冷静に見られる数少ない方だった。学術的にも、研究手法もすばらしく、実に多くのことを学生時代には学ばせていただいたのだ。

 その先生の“よろしくない噂”を耳にするようになったのが数年前。学生たちを追いつめるような発言をしたり、責任を最後に放棄したりと、私に相談にきた学生もいた。それでも「まぁ、学生も学生かな」と思う節もあり、噂は噂か、と思っていたのである。

 で、先生に頼まれメンバーに加わってみると……、ショッキングなことに、そこにはかつての先生は存在しなかった。「えええ!ここでそれを言うかい!」と驚く言動を連発し、「あんなにピリッと光るもの持ってた先生でも、こんな風になっちゃうんだ」とがっかりしたのである。

 ところが、である。不思議なことに、そんな状況になっても、かつてのピリッと光っていた先生が戻ってくるんじゃないかという期待が、私の中にあって。先生の意味不明な言動と、それに堪えかねてやる気をなくしている学生と、時折顔を出す私の「忘れられない期待」に感情が裂かれ、自分でもどうしていいのかわからず、とんでもなく疲弊した。

普段は意外と好々爺だったりする

 たぶん件の男性も、似たような状況なのかなぁと。なんともややこしいのだが、なかなかコレはコレ!と割り切れないのが、人間の弱さなのかぁと思ったりもする。

 少々話しはずれてしまったが、いずれにせよ、“老害”と皮肉られる言動を取る経営者は、たいていの場合、最後のとどめを刺すことはしない。そうなのだ。混乱させるだけ混乱させて、うやむやにする。件の社長さんも、『キミたちはどう思う?』と問いかけるのではなく、きちんと後継者を指名すれば良かった。それをしなかった、あるいはできなかった時点で、“老害候補”になっていたのだ。

 そして、そこに「保身」という変数が加わることで、

①自分で言ったことを忘れる
②社長交代を発表しながら、いつまでも先延ばしする
③やたらと会議ばかりで、毎度同じ昔話をする
④何かというと、「誰も会社のことを考えていないじゃないか!」と怒り出す
⑤批判ばかりで、前向きなビジョンを一切示さない

といった正真正銘の老害経営者が誕生する。しかもやっかいなことに、そういったトップほど、何にもない時には意外と好々爺だったりもするので、気がついたときには誰1人として「ご隠居ください」と言えず、老害に翻弄されるだけの日々に追いやられるのだ。