「人間の顔をした市場経済」はどこへ?

 今から20年前の1995年。全国の20歳~69歳の約1万人を対象に行われた調査(「1995年SSM調査研究会」東京大学文学部が実施)を分析した社会学者で東京工業大学名誉教授の今田高俊氏は、1980年以降、日本人の意識に二つの大きな変化が起きたことを指摘している。

 そのひとつが、人々の関心がものを「所有すること」から自分の生き方を問う「存在」にシフトしていること。もうひとつが社会的な「序列」から、他者との関係に「地位達成」を求める人が増えたこと。

 つまり、心の豊かさを求める人びとが増え、他者に自分の存在を認めて欲しい、親密な人間関係を持ちたい、時間的余裕が欲しい、といったまさしく「精神的、社会的健康」を人びとは欲するようになったのである。

 ところが今、私たちの社会の人間関係は希薄化し、地域とのつながりは乏しくなり、上司部下関係も関係性をつくること自体が難しくなった。孤独死、引きこもり、自己責任といった20年前にはなかった言葉が生まれ、社会に居場所を得られず、自分の存在意義を見出せない人たちが増えた。

 「非正規雇用」が3人に1人まで増え、賃金格差が生まれ、子どもの相対的貧困率は(17歳以下)は16.3%(2012年国民生活基礎調査)で、6人に1人が貧困とされている。

 真の健康とは「社会の窓」を通じて、そこで暮すひとりひとりを見つめ、社会の仕組みや構造を作っていくこと。「前を向いて歩いて行こう!」と思える心と社会を作る。それは「格差社会の否定」であり、「貧困の撲滅」でもある。

 その健康をもっと真剣に議論し、考え、実行に移すことこそが、成長であり、成熟なんじゃないだろうか?

 2002年に経団連の新会長として就任した奥田碩氏は、これからの日本の経済社会に必要な理念として、「人間の顔をした市場経済」と「多様な選択肢をもった経済社会」を揚げて注目された。

「経営者は人間の顔をした市場経済の実現をめざさなくてはならない。市場の論理、資本の論理を重視しながらも、市場関係者の利益ではなく国民の利益が大切にされるのが人間の顔をした市場経済である。アメリカ流にそのまま合わせる必要はない。この国に最も適した労働市場、雇用慣行の実現に向けて力を尽くし、安易に人員削減にいたるような経営者は、まず自ら退陣すべき」

「これからの我が国に成長と活力をもたらすのは、多様性のダイナミズムだ。国民一人ひとりが、自分なりの価値観を持ち、他人とは違った自分らしい生き方を追求していくことが、こころの世紀にふさわしい精神的な豊かさをもたらす」

(著書『人間を幸福にする経済―豊かさの革命』から抜粋)

 いったい「人間の顔をした市場経済」はどこに行ってしまったんだ?当時拍手喝采を浴びたこの言葉を、今は口にする人もいない。

 あなたは「健康」ですか?今のままでいいのですか?

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