とんだ事態になりまして……

 今回お届けするのはポルシェのオーナーインタビューだ。
 911を所有する友人知人はたくさんいる。古いナローから最新のターボモデルまで、みんな気軽に話を聞かせてくれるだろう。今回の記事は、オーナー探しに苦労することはない(前回のインプレッサでは、期間中に当該オーナーさんを見つけられなかったのだ。面目ありません)。

 せっかくなら最新の、しかも高性能なターボを駆る友人が良いだろう。
 ちょうど昨年の今頃にターボを買った友人の町田君にお願いをしてみよう。彼ならきっと快く対応してくれるだろう。電話をすると、案の定、町田くんは「良いですよ。いつでもどうぞ」、と気持ちよく答えてくれた。

これが問題のポルシェ。

 日時だけ決めていたので、取材の場所を聞かなければいけない。首都高をグルっと回りながら話そうということだったので、恐らくは彼の自宅から出発することになろう。インタビューの前日。町田くんに翌日の約束と場所の確認のために電話を入れた。すると、彼にしては珍しく、いささか沈んだ声が聞こえた。

 「実は、とんだ事態になりまして……今回はご協力するのが難しくなりました」と言う。複数の企業を経営し、義理と人情と適度な浪花節、加えて冷静な計算で生きている彼は、決して約束を一方的に反故にするような男ではない。いったい何があったのだろう。

フェルディナント(以下、F):協力できないって……何かあったの?

町田(以下、町):実は……ブツけてしまったんです……。

F:えぇ?ポルシェを?怪我はないの?

:怪我はありません。というか、自分が運転していたんじゃないんです。

 彼の奥様はクルマを運転しない。息子さんは海外留学中で、この時期日本にはいないはずだ。彼のポルシェを運転する人間は他に思い当たらない。すると、洗車に出したスタンドか、あるいはバレーのあるホテルのパーキングでやられたか……。

これに乗って首都高をカッ飛ぶはずが……。

:12カ月点検にクルマを出していたら、納車の時にポルシェセンターの奴がブツけたんです。

F:ポルシェセンターの人が……。マジ……?

:マジです。そんなに大きくはないんですが、やっぱりブツけたクルマでなんかメディアに出たくありません。縁起が悪いし、そもそもカッコ悪い。だからフェルさん、急で申し訳ないんですが、今回は勘弁してもらえませんか?なんなら僕の友人でポルシェに乗っている奴を紹介します。今日これからでも、フェルさんの家に行かせますから。

 事故が起きたことは仕方がない。古い読者なら覚えておられようが、私も同じ経験をしたことがある。だがなにも、インタビューの直前にブツける事はないじゃないか、ポルシェの人。

:こんなことは初めてです、と言っています。

 当たり前だ。こんなことがしょっちゅうあったら商売になるまい。

:菓子折りを持って謝りに来ましたが、いいから早く直せ!と追い返しました。

 それもまた当然だろう。留学中のご子息はクリスマスに帰省する。彼は男同士でドライブに出かけることを心待ちにしていたのだ。それを台無しにしてしまった罪は深い。

この下の部分をコツンと。本当にコツンなんですが……

 結果、同乗して首都高をグルっと回る計画は諦め、ブツけたリアの部分を撮影せず、また町田くんの顔と実名も出さないことを条件にインタビューに応じてもらうことになった。当初は顔も名前も露出OKで、彼の経営する会社のwebのリンクも貼ることになっていたのだ。

 「“ブツけたクルマの間抜けなオーナー”として出たくないんです」とのことで、全てオジャンになってしまった。別に自分がブツけた訳ではないのだから良いじゃないか、と食い下がったのだが、「勘弁してください。マヌケ過ぎます。良い笑いものです」の一点張りである。確かに彼の商売は、ゲンを担ぐ人が多い。かくして、名出し顔出し事故箇所出しNGのインタビューと相成ったのである。