F:なるほど。そのGT-Rを実際に組み立てている工場の見学に行ったのですが、中間管理職の方も含めて“水野組”とでも言うべき、1つの“ファミリー”のような一種独特の雰囲気がありました。あれはゴーンさんがつくった仕組みなのですか、それとも元々日産にある文化なのですか。

G:その雰囲気は、そのプロジェクトのマネジメントをしている人間、あるいは部署の長がつくるものだと思います。もちろん、そういった信頼関係をつくるように奨励はしていますよ。社員同士の友好関係、そして仲間意識を構築できるようにと言っています。
 しかし、必ずしもうまくいくわけではありません。人間関係は、強制的に作りなさいと言っても簡単に構築できるものではない。ミズノ(水野和敏氏=GT-Rの開発責任者)とそのチームが非常にいい環境、いい雰囲気を持っているのは予想外のことではありません。
 彼らはみんな自分自身の達成感に誇りを持っていますからね。GT-Rは商品としてうまくいっていますし、技術的にも成功しています。達成感を持つということ、成果を出すということで、結果的に理想的な関係がつくれるんです。
 そう、GT-Rが成功したからこそ友好関係とか仲間意識が生まれるんです。達成感がなければ人間関係は悪化します。雰囲気も悪くなるんです。仕事がうまく行かなければフラストレーションが溜まるでしょう。ミズノのチームは、仕事がうまくいっているから雰囲気がよいのだと思います。

ゴーンさんにとって仕事とは何ですか

F:仕事がうまく行っているから。なるほど。ではゴーンさんにとって“仕事”とは何ですか。

G:仕事は“責任”と“タスク”だと思います。つまり自分自身の責任とタスクで、会社から与えられた……あるいは組織から、政府でもNPOでもいいのですが……与えらた課題に対して、自分自身が貢献するものだと思います。

F:責任とタスクに貢献する……。

(写真:陶山 勉)

G:そしてその貢献に対して対価が支払われる、つまり報酬ですね。それが所謂“仕事”だと思います。報酬というのは金銭的なものもあれば……これは企業や政府の場合ですね……あるいはNPOのように“認知”をされることかもしれません。貢献に対して何らかの形で報酬・見返りがある。それが仕事だと思います。

F:すると報酬のないもの、見返りのないものは仕事ではない。

G:報酬がないとなると仕事ではありませんね。それは仕事とは別のものです。仕事と違う“何か”です。ただ、私たちは人生の中で重要だけれども仕事ではないことってたくさんありますよね。

F:ボランティアとかそういうことですか。

G:父親が自分の子供の教育をする場合はどうでしょうか。それは仕事ですか?仕事じゃないでしょう。自分の子供の教育に対して、一切の見返りを求めていない。もちろん愛情とか敬意を求めるとは思います。しかしそれは報酬や見返りとは意味が違う。仕事とは違うじゃないですか。

F:なるほど。それではゴーンさんに取ってクルマとは何ですか。

G:クルマは自主性をもたらすものです。つまりフリーダムです。

F:フリーダム。

G:そう。フリーダム。さらに美的な感覚を満足させる部分もありますし、ステータスシンボルでもある。また非常に実用的なスペースも与えてくれます。今までもそうですが、クルマはこれからますます実用性が高まってきます。電話やコンピューターは使えるし、ビデオも見られる。テレビゲームだってできる。iPhoneやiPadも接続できます。クルマはこれからますます快適で心地よい空間になるんです。音楽を聴いたり、コミュニケーションを取ったり、あるいは映画を見たりもできる。
 そして極めて近い将来に蓄電池の役割も果たせそうですね。EV(電気自動車)のバッテリーが家庭に電力を供給する蓄電池になるんです。クルマはさまざまな側面から成り立っているのだと思います。つまり“情緒”と“理性”。この両方に訴えかけるものなんです。ええ、両方です。ですからクルマは21世紀の人間にとっても極めて重要な商品であり続けます。

F:クルマはそれほど素晴らしいものであるのに、非常に残念なことに日本の若者は興味を喪失しつつあるようです。若い人がクルマに興味を示さないという事実がある。この事実をどうお考えですか。そして、それをどのように解決なさるおつもりでしょう。