定刻ピッタリに、カルロス・ゴーン氏が入室した。

 会議室の空気が一変した。日産を地獄の淵から救い出した救世主か、はたまた情け容赦ないコストカッターの鬼か。“あの”カルロス・ゴーン氏がいま目の前に立っている。ゴーン氏は満面の笑みで、手を差し出してきた。 “オーラ”というとオカルトじみていて笑われそうだが、ゴーン氏はオーラとしか表現しようのない不思議なエネルギーに包まれている。身体の悪いところを摩って貰ったら良くなるかもしれない。
 さあどうぞ、座ってください。着席を促され、45分一本勝負のインタビューが始まった。

      

フェルディナント(以下、F):はじめまして。フェルディナント・ヤマグチと申します。お会いできて光栄です。時間が限られていますので、早速質問をさせて頂きたいと思います。

日産自動車 社長兼CEO カルロス・ゴーン氏(写真:陶山 勉)

ゴーン(以下、G):どうぞ、何なりと聞いてください。

F:今回ゴーンさんからお話を伺うに先立ちまして、日産の代表的な自動車3車種を開発された方々……、「マーチ」の小林(毅)さん「GT-R」の水野(和敏)さん、そして「リーフ」の門田(英稔)さん、それぞれの方からお話を伺いました。お三方とも非常にモチベーションが高く、クルマのことを愛していて、そしてとても個性的です。そういった方々のモチベーションをどのように引き出し、またどのようにマネジメントされているのでしょう。コツのようなものがあれば、教えてください。

権限は委譲、マイクロマネジメントはしない

G:初めに言っておきましょう。自動車メーカーには、クルマが大好きで、クルマに情熱を持っている人がたくさん集まっています。今あなたは“3名”とおっしゃいましたが、実際には日産にそういう人が何百人もいるんです。そして彼らは全員が、いつかはチャンスをつかみ、クルマを開発したいと思っている。
 ですから、情熱を持った人間がたった3名しかいない、などとは思わないで下さい。社員のみんなが情熱を持っている。クルマに対する熱い思いがあるんです。彼らは自動車メーカーに就職する前からそうした情熱を持っていますから、日産、あるいは私自身に何か特別なものがある訳ではないんです。もともと彼らが持っている熱い思いがあるんです。

 ミズノとは既にお話になったんですね。ええ、GT-Rのミズノさん。彼は非常に情熱的な人間です。それは私が彼と初めて会った時にすぐ分かりました。そして、GT-Rを作るならミズノだな、と決めたのです。彼には私にそう思わせる情熱、熱い思いがあったからです。

 さて、ではどうやってマネジメントをするかという質問に答えましょう。
 まずマネジャーに対してパワー、つまり権限を委譲することがとても重要です。そう、権限委譲です。その一方で、決してマイクロマネジメントをしてはいけない。

 まず、権限委譲して、クルマ作りに責任を持ってもらうのです。そして彼らには自分が期待することを正確に伝えなければなりません。「こうしてほしい」ということを明快に伝えるんです。「いつまでに何をどうする」という期待水準を伝えるんですね。
 リーフにしても、GT-Rにしても、マーチにしても同じことです。私が何を求めているかを彼らに明確に伝えました。伝えたことが理解されたらコントラクトを結びます。
 ええそう。“いついつまでにこうします”という、コントラクトを社内で結ぶんです。これは私が議長を務める正式な会議で承認されます。GT-Rもリーフも、もちろんマーチも、全て私が議長を務めた会議で決めました。
 そうした上で彼らにキーを渡します。そうです。鍵を渡したんですよ。あなたが責任者ですよ、あなたがボスでやるんですよ、とね。そして彼らは例えば開発のメンバーとか、商品企画担当者とか、生産部隊とか、営業部門とか、マーケティングのチームと検討しながら仕事を進め、それぞれのポテンシャルを発揮していくのです。