トヨタ86にスペシャルチューニングを施し、100台限定で売り出したモデルが86GRMNだ。ボディを強化する一方で自社製カーボンパネルを多用して徹底した軽量化が図られている。トヨタの元町工場で特別に訓練を受けた匠集団により、ほぼ手作業で組み立てられている。

 86GRMNの開発を監修したのは若きエンジニアでスポーツ車両統括部主幹の野々村真人さんだ。元町工場で取材の際、氏にインタビュー「しかかった」ことがあるのだが、その時は“喋るエンジニア”多田哲哉さんがいらしたので、野々村さんはただ黙って横に座っているしかなく、殆ど出る幕が無かったのだ。

 だから今回のインタビューは、言わば野々村さんのリターンマッチだ。

 場所は千葉県のサーキット「袖ヶ浦フォレスト・レースウェイ」。何とこちらのコースで86GRMNを好き放題に運転させて頂き(20周以上も!)、それからお話を伺うという得難い好機に恵まれたのである。


「トヨタの皆さんに謝って下さい。ほら頭を下げて!」

このクルマで、猿のように連続20周も走らせていただきました。いやぁ、楽しかった。

ADフジノ:フェルさん。あんたいったい何をしているんですか!乗りすぎですよ。何周すれば気が済むんですか!軽く20周はしていますよ。しかも連続で!猿ですか。

F:いやぁ申し訳ない。なんかすごく楽しくって。今日は好きなだけ乗って下さいと言われたから、そのまま連続で走っちゃった。

ADフジノ:。こんなこと絶対に有り得ませんよ。普通なら1メディアの枠は30分。その短い時間で写真を撮って、試乗して、次のメディアに渡すんです。私もこの業界は長いですけどね、こんなムチャな試乗は初めてです。トヨタの皆さんに謝って下さい。ほら頭を下げて!

広報・有田さん:まあまあフジノさん。そう熱くならないで。相手がフェルさんじゃ仕方がないです。今日は我々もそのつもりでお呼びしていますし。

ADフジノ:そうやって甘やかすから付け上がるんですよ。ちゃんと業界のしきたりを教えて躾けなくちゃダメです。動物と一緒です。

F:ど、動物って……。

ADフジノ:フェルさんは猿ですよ、ホント。

野々村(以下、野):ははは。どうですか?楽しかったでしょう(笑)

F:いやぁ楽しかった。最高に良かったです。なんか周回を重ねる毎に、徐々に自分の腕が上がっていくような気がしましてね。タイムを計測しておけば良かったな。

ADフジノ:まあでも、フェルさんのガン踏みでタイヤをギャンギャン鳴らす下手っぴな運転で、最後までタレないでサーキット走行できるんですから、考えてみればすごいクルマですよね……。

F:運転している内に、徐々に気分が高揚してくるんですよ。身体がクルマに馴染んでいくって言うか。短い間だけど、クルマがジワジワっと自分と一体化していく感覚が有りました。

:それは僕ら開発陣にとって最高の褒め言葉です。実際に社内でもそうなんです。テストドライバーを乗せると、サーキットに出たきりずっと帰ってこない(笑)

 実はそんなクルマって他には余り無いんです。テストドライバーだけでなく、試乗する人って、みんなクルマのことを「知っているフリ」をしたいものですから。みんな「俺は分かっている」ってフリをしたがる。クルマなんて、ちょっと乗ればすぐに分かるよね、と。みんな自分は評価する能力が高くありたいと思っている。だからチョイ乗りしてクルマから降りてきて、「これこれココがこうだよね」とか言って、ああだいたい分かったからもう良いわ、みたいな。

 だからフェルさんにみたいに猿みたいに乗ってもらうのは、僕ら本当に嬉しいんです。さすがにコースアウトされた時はビビりましたけど(苦笑)

誠にお恥ずかしい話だが、今回サーキット試乗中に、勢い余ってお尻がズルっと滑り、盛大な“お釣り”をもらってコースアウトをしてしまったのだ。幸いタイヤに泥が付いた程度でどこにもダメージは入らなかったが、みなさん思わず「あー!」っと声を上げたそうだ。