みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話から参りましょう。
なんか毎週集まっていますが、またもやクルマ関係男飲みです。
左から私、渡辺敏史氏、ミシュランを電撃退社した橋本和洋氏、河口まなぶ氏。しっかし色気の無い飲み会だなぁ。誰かカワイイ女子を連れてきてよ!
今回は、東京世田谷区は烏山の厳選赤身肉専門店「牛進」へ行ってきました。大変美味しゅうございました。
こちらのオーナーはトライアスリートの柏崎龍進氏。今シーズンはホノルルと宮崎の大会でご一緒しました。
しかしみんなよく業界ネタに精通してるなぁ……。私ももっと勉強しないと。ここでは書けないことだらけの楽しい夜でした。
烏山は拙宅からバスで15分ほど。都内のバスはルートと時間を調べると本当に便利です。家の近くに良い焼肉屋さんが出来たことは実にめでたいです。
そうそう。大量にたまった写真を整理していたら大変なことに気付きました。
ミシュランのキャラクターであるビヴァンダム君。世界展開する企業のマスコットですから、当然世界統一規格であるのかと思っていたらさにあらん。各国でバラバラにやっておるのですな。
こちらは9月中旬にクレルモン・フェランに訪問した際のビヴァンダム君。顔にご注目。
そしてこちらは10月中旬に富士スピードウェイで開かれたWECでの和製ビヴァンダム君。あれれ、ちょっと顔が違わない?
フランス版は白目が殆ど無く、口角がキュッと上がって微笑んでいます。対して日本版は多少の白目があり、口を開けて笑っている。これはどうしたことでしょう。ミシュラン社の公式見解を伺いたいものです。
まったく取り留めが無く話が飛びますが、こちらは移転問題に揺れる築地市場の場外です。深夜11時にも関わらずこの行列。みなさまご存知「すしざんまい」前です。
ご覧下さいこの行列。夜の11時ですよ。客の多くはチャイニーズの方々のようでした。
24時間365日営業の同店。夜中に寿司を食べる人なんて居るのかしらと……思っていたのですが、こんなにたくさんのお客さんがいるんですね。そう言えば同社の社長は、豊洲の大型施設出店をドタキャンしていたのでした。こうなることを予想されていたのでしょうか。経営者としての野生のカンか、はたまた空自時代に鍛えたインテリジェンスの為せる技か。
さてさて、それでは本編へと参りましょう。
だいぶ間が開いてしまいましたが、トヨタ86GRMNの開発秘話に関してお話を伺っておりました。今回はそちらをお送りいたします。“秘話”ならサッサと書きやがれ、という話なのですが、申し訳ございません。何かと立て込んでおりまして……。
トヨタ86にスペシャルチューニングを施し、100台限定で売り出したモデルが86GRMNだ。ボディを強化する一方で自社製カーボンパネルを多用して徹底した軽量化が図られている。トヨタの元町工場で特別に訓練を受けた匠集団により、ほぼ手作業で組み立てられている。
86GRMNの開発を監修したのは若きエンジニアでスポーツ車両統括部主幹の野々村真人さんだ。元町工場で取材の際、氏にインタビュー「しかかった」ことがあるのだが、その時は“喋るエンジニア”多田哲哉さんがいらしたので、野々村さんはただ黙って横に座っているしかなく、殆ど出る幕が無かったのだ。
だから今回のインタビューは、言わば野々村さんのリターンマッチだ。
場所は千葉県のサーキット「袖ヶ浦フォレスト・レースウェイ」。何とこちらのコースで86GRMNを好き放題に運転させて頂き(20周以上も!)、それからお話を伺うという得難い好機に恵まれたのである。
「トヨタの皆さんに謝って下さい。ほら頭を下げて!」
このクルマで、猿のように連続20周も走らせていただきました。いやぁ、楽しかった。
ADフジノ:フェルさん。あんたいったい何をしているんですか!乗りすぎですよ。何周すれば気が済むんですか!軽く20周はしていますよ。しかも連続で!猿ですか。
F:いやぁ申し訳ない。なんかすごく楽しくって。今日は好きなだけ乗って下さいと言われたから、そのまま連続で走っちゃった。
ADフジノ:。こんなこと絶対に有り得ませんよ。普通なら1メディアの枠は30分。その短い時間で写真を撮って、試乗して、次のメディアに渡すんです。私もこの業界は長いですけどね、こんなムチャな試乗は初めてです。トヨタの皆さんに謝って下さい。ほら頭を下げて!
広報・有田さん:まあまあフジノさん。そう熱くならないで。相手がフェルさんじゃ仕方がないです。今日は我々もそのつもりでお呼びしていますし。
ADフジノ:そうやって甘やかすから付け上がるんですよ。ちゃんと業界のしきたりを教えて躾けなくちゃダメです。動物と一緒です。
F:ど、動物って……。
ADフジノ:フェルさんは猿ですよ、ホント。
野々村(以下、野):ははは。どうですか?楽しかったでしょう(笑)
F:いやぁ楽しかった。最高に良かったです。なんか周回を重ねる毎に、徐々に自分の腕が上がっていくような気がしましてね。タイムを計測しておけば良かったな。
ADフジノ:まあでも、フェルさんのガン踏みでタイヤをギャンギャン鳴らす下手っぴな運転で、最後までタレないでサーキット走行できるんですから、考えてみればすごいクルマですよね……。
F:運転している内に、徐々に気分が高揚してくるんですよ。身体がクルマに馴染んでいくって言うか。短い間だけど、クルマがジワジワっと自分と一体化していく感覚が有りました。
野:それは僕ら開発陣にとって最高の褒め言葉です。実際に社内でもそうなんです。テストドライバーを乗せると、サーキットに出たきりずっと帰ってこない(笑)
実はそんなクルマって他には余り無いんです。テストドライバーだけでなく、試乗する人って、みんなクルマのことを「知っているフリ」をしたいものですから。みんな「俺は分かっている」ってフリをしたがる。クルマなんて、ちょっと乗ればすぐに分かるよね、と。みんな自分は評価する能力が高くありたいと思っている。だからチョイ乗りしてクルマから降りてきて、「これこれココがこうだよね」とか言って、ああだいたい分かったからもう良いわ、みたいな。
だからフェルさんにみたいに猿みたいに乗ってもらうのは、僕ら本当に嬉しいんです。さすがにコースアウトされた時はビビりましたけど(苦笑)
誠にお恥ずかしい話だが、今回サーキット試乗中に、勢い余ってお尻がズルっと滑り、盛大な“お釣り”をもらってコースアウトをしてしまったのだ。幸いタイヤに泥が付いた程度でどこにもダメージは入らなかったが、みなさん思わず「あー!」っと声を上げたそうだ。
「もうこのまま乗って逃げちまおうかな」
「日常生活で普通に使いながら、サーキットでもガンガン走れます」。自慢の86GRMNの前で、胸を張りながら仁王立ちする野々村さん。
F:良かったですよ。本当に良かった。ゲートも開いているし、もうこのまま乗って逃げちまおうかな、なんて本気で思ったほどです。あれ?でも今日は自分のクルマで来てたよな。これで逃げたら、逆に俺のクルマを押さえられちゃうのか、なんて考えながら運転していて(笑)
ADフジノ:そんなことを考えているから滑るんですよ。もっと運転に集中して下さい。
野:テストドライバーの中でも同じように「乗って逃げようかと思った」と言ってくれた人がいました。試乗したら誰も降りて来ないクルマ、もう試乗車を盗んで逃げちゃおうかなんて思ってくれるクルマ。そういうクルマって、トヨタは長いこと作ってこなかったので。
F:新しいプリウスはとてもよく出来ているけど、さすがにここを20周しようとは思わないですものね。サーキット走行なら、5、6周もしたらお腹一杯という感じ。
野:そうでしょうね。3周ぐらいしたら、何となくクルマの挙動も掴めるから、もう分かりました、これで記事も書けます、みたいになるんです。掴めちゃうから、クルマの挙動が、特性が。
F:「最初の1週目はゆっくり走って下さい」、と言われたので、本当に街乗りレベルで流したのですが、その領域でも楽しかった。ここで車庫入れ的な動作をしても、まったく違和感なく、普通のクルマとして使える。そこが凄いですよね。普通に通勤でも使えそうな。まあ勇ましい羽とかが付いているから、近所の人はビックリしてしまうでしょうけど。
野:日常生活で普通に使いながら、サーキットでもガンガン走れますよ、というのがこのクルマのそもそものコンセプトです。フェルさんにはそこを感じ取ってもらえたのだと思います。
F:なるほど。でもサーキットと街乗りの両立って、本当に成り立ち得るのでしょうか。僕みたいなレベルのドライバーが、ひゃー速い速いと喜んでいるレベルなら良いのでしょうが、もっと上のレベルの人が、サーキット走行を十分に楽しめて、その上で街乗りも違和感なく使えるという。そんな高い次元での両立は有り得るのでしょうか。
「両方とも良い」ということはつまり、「両方ともソコソコに良い」ということになりませんか。結局はどっちつかず、ということになる恐れはないでしょうか。
野:今までもそのように両立を自称していたクルマはたくさん有りました。でも実際はそうじゃなかった。看板に偽りアリだった。確かにサーキットでは良いのだけれど、ガチガチに固めちゃっているから、とてもじゃないけど街乗りなんか出来ないようなクルマもたくさん有る。反対に、フラフラしちゃってサーキットではとても怖くて踏めないような自称両立というクルマも過去に何台も有った。
「前へならえ」状況の86GRMN。こんなにあるんだから、やっぱり、乗ったまま逃げればよかったかも。
「サーキットと街乗りを両立できていたクルマとは……」
にこやかな表情で写っている野々村さん(真ん中)だが、私がコースアウトしたときはきっと、「呼ばなきゃよかった」と後悔したに違いない。
F:野々村さんから見て、今までに両立できていたクルマは有りますか?
野:ポルシェぐらいじゃないですか。
F:ポルシェ、なるほど。
野:やっぱりクルマのお手本にはしていますね。ただポルシェはリアエンジンで、そもそもの配置が違う。ベースとしてのクルマの成り立ちが違うから、FRの86で、ポルシェを作ることはそもそも不可能です。
僕らはポルシェの走りをお手本にするけれども、目指してはいません。クルマとしての挙動だったり、味付けという部分は参考にしていますが、決してポルシェになろうとしている訳では無いんです。ポルシェに近付こうと思っている訳ではなく、ポルシェの見ている方向に対して、こう並行に走っているのかも知れません。
交わるのではなく、同じ方向に向かって並行に走る。野々村さんは手をクロスさせ、交点を作って見せてから、今度は両手を並行にして見せた。
F:見ている方向に対して並行。なるほど。
野:近づくなんて、そもそも物理的に不可能ですから。それはBMWも同じですね。BMWのエンジニアと話していて、「あななたちはケイマンみたいなものを作りたいのか?」と聞いても、ケイマンなんてハナから想定していない、と明確に言いますね。だって、ポルシェはエンジンが後ろでしょうと、ウチのは前に有るからさ、と。彼らはポルシェが目標だとかも一切言わないです。もう天地がひっくり返ったって、絶対に言わないです。
F:BMWはあくまでもBMWだと。
野:彼らはFRの持っているポテンシャルの中で、一番いいところを見つけていくのがウチのやり方だと言いますね。そうそう。このクルマを開発したときに、BMWの役員も乗せているんですよ。そういう技術交流会の機会があって、その時に。あーっと。これは話しても良いんだよね。もう発表しているよね。
広報・有田さん:大丈夫です。ていうか、今の話は良いですが、そういうビミョーな話をフェルさんの前で話すのは危険です(笑)。まああれです。FCV(燃料電池車)とかを一緒にやっていきましょうという話です。
野:もっとお互いのクルマを知りましょうという機会があったんですね。向こうにウチの役員が行って、テストコースでi8とかi3とかM235とかに乗せてもらって来たんです。で、その翌年にはBMWの役員さんにウチに来て頂いて。もちろん章男社長と一緒になって、レクサスのRCFとか、このGRMNにも乗っていただいた。そこでは大変高い評価を頂きました。とてもいい。FRの味がよく出ている、と。
「フェルさんのガン踏みでタイヤをギャンギャン鳴らす下手っぴな運転で、最後までタレないでサーキット走行できるんですから、考えてみればすごいクルマです」(ADフジノ氏)。
恐怖の社長命令「俺の横に乗りな」
F:技術交流というと、何かを教えたり教わったりする訳ですよね。このGRMNに、何かBMWから得たエッセンスは入っているのですか。
野:有りません。このクルマは、あくまでもトヨタがニュルブリクリンクの活動などを通して得て来たノウハウを注ぎ込んで実現したクルマです。そうして出来上がったクルマに、BMWさん、ちょっと乗ってみる? とお誘いして乗ってもらっただけの話です。
F:具体的にはどんな話をするのですか、BMWの役員さんとは。表敬訪問的な試乗だと、あまり突っ込んだ話は出ない気がしますが。
野:一番印象に残っているのは重量の話ですね。これは何キロに仕上がってるの?1250キロです。えー?1250キロ?俺は1100キロくらいかと思ってたいた、と。すごく軽く感じると。
彼らと話すと、具体的な数字がスラスラ出て来るんですよね。そしてみなさん運転がものすごく上手い。BMWは運転が上手くないとそもそも役員にはなれないらしいです。みなさんテストドライバー並みに上手いです。
F:トヨタの役員はどうなのですか。トップの章男さんはレースに参加する程ですから世界の自動車メーカーの経営者の中でもトップクラスなのでしょうけど、他の役員さんはどうなのですか。経営は上手いけど運転は下手っぴとか(笑)
野:実はウチの役員も、徐々に上手くなっているんですよ。社長がメチャ上手いから「お前ら、乗っているか?」と役員にハッパをかけているらしくて。
今は新任の役員になると、サーキットに来なさいと社長に呼び出されて、「俺の横に乗りな」と言って、ビャーっとやっているらしいです(笑)
何と、トヨタで役員になると、章男社長のドライブによるサーキットタクシーの洗礼が待っているらしい。レーシングスピードに慣れていない人が乗ると(大抵の人は慣れていないだろう)腰を抜かすほどビビるはずだ。今回私もプロのテストドライバーのヨコに乗せて頂き、サーキットを3周ほど全開走行して頂いたのだが、掌にジンワリと汗をかいたものだ。
トヨタ86GRMNの開発秘話は次号へと続きます。
これ、街中で乗っても楽しいだろうなぁ。広報に交渉してみましょうか。
それではみなさままた来週!
「アクア」の強力なライバル、登場!
読者のみなさんこんにちは。編集担当のY田です。
開発が急速に進む次世代環境車。ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)など様々な種類がありますが、現在、日本で最も普及しているのは、言わずもがなのHVです。その代表とも言えるのはトヨタ自動車のプリウス。今年上半期(4~9月)の新車販売台数(軽自動車を含む)では、他を大きく引き離しての首位でした。
HVにおいては、トヨタやホンダの存在感に比べ、日産自動車の影が薄いのは否めないところ。その日産が、「反撃の狼煙」ともいえる新しい技術を搭載した新型「ノート」を発表しました。同社によれば、最高燃費は37.2km/Lで、トヨタの「アクア」を抜き、小型車セグメントで国産車トップになるとのこと。
低燃費を可能にしたのが、日産が「e-POWER」と名付けた新動力機構。エンジン・モーターの双方を搭載していますが、エンジンの役割は発電に特化し、大出力モーターのみで駆動する仕組みです。HV車に比べるとエンジンが動く時間が約半分になり、燃料消費を抑えられるというのが、同社の説明です。エンジンを積んでいるためEVではありませんが、駆動がモーターに限られる分、HVに比べればEVにより近づいた動力システムだと言っていいでしょう。
初採用の「ワンペダル操作」を含め、挑戦的な技術を盛り込んだノート。駆動はモーターで行うため、乗り味もEV車とほぼ同様となります。HVで先行するトヨタやホンダを脅かす存在となりうるでしょうか?
日経ビジネス11月7日号では、「日産「第2のEV」で狙うブレーキ革命」と題して、ノートに込めた日産のエコカー戦略をリポートしています。ご興味のある方は、ぜひこちらもご覧ください(日経ビジネスオンラインの無料会員の方は、無料ポイントを使ってお読みいただけます)。
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