微小な微小な、ほんのちょびっとの世界なんです
F:でもそれは、ボールペンの細いバネだから……。
井:太いバネでも一緒です(笑)。そこにクルマの荷重がガッとかかれば、必ずどちらかの方向にたわみます。バネってそういう性質があるんです。その向きを、タイヤがクルマの動く向きと相反する方向に向けてやるんです。そうすると、一番初めにタイヤが動き始めるのが早くなる。
F:はー。バネのたわむ向きまで考えて取り付ける……。
井:車両の内側向きにしてやると、車両としては従来曲がり始める前には、さっきの遊びの部分の時間はバネが動いているんですよ。バネが動く方向に逆に行っちゃうとバネに食われてしまうんです。要は左右の後輪が打ち消すように曲がれば良いと。

F:今まではどうだったのですか、たまたまそうなっていたクルマもあるし。
井:あるし、なっていなかったクルマもあります。
F:つまり、バネの向きにアタリとハズレがあったということですか。
井:ええまぁ……バネの向きという意味で、アタリとハズレはありましたね……。でもそれは、クルマの製造上どうしても起こり得ることなんです。微小な微小な、本当にほんのちょびっとの世界なんです。インプレッサを開発する上で、そんな細かい世界にまで踏み込む必要はあるのか、そこまでこだわる必要はあるのか、意味はあるのか、という議論はありました。
F:こだわればこだわるほどコストは跳ね上がる。
井:そうです。でもクルマを造ることって、そもそもが積み重ねなんですよね。「こんな小さなことで何が変わるの?」っていう要素の積み重ねなんです。小さいことをコツコツコツコツ積み上げていく。その集大成がクルマです。それを妥協しないで造ると、違うんですよね。乗ってみると分かりますが、明らかに違う。今回はサスペンション屋の立場から、クルマに対して寄与できるベストの設計をやらせてもらっている。やりたいことをギュッと凝縮している。それがSGPです。
F:なるほど。SGPは、サス屋さんのやりたかったことを全て詰め込んである。
井:あとはリアのスタビライザーですね。普通は足回りにそのまま付いているのですが、今回は車体に直付けしています。そうすることで、旋回時のロールが半分ぐらいに抑えられるんですよ。直接抑えられるので。
F:そんなに良くなる。直付けは。
井:良くなりますね。効果てきめんです。
F:なぜ今までやらなかったのですか。他のメーカーはどうですか?
井:面倒くさいんですよ。組み付けるのがとても面倒くさい。だから工場が嫌がるんです。工数が増えるし、だいたいこんな面倒なことは、どこの会社もやっていないじゃないか、みたいな。文句が出るわけです。だから試作車を作って、直付けがどれだけ効くかということを関係者に体験してもらって、「きっとお客さんも喜ぶよね」と。「だったら工夫してやりましょうよ」という。
ここでも積み重ねです。やっぱり感じない効果を全部排除していたら、進化はできないんです。だけど、少しでも効果を感じることを全部積み上げていったら、それはすごく感じる効果が得られる。それが新しいインプレッサです。
ぎゃー!もうこんな時間!明日は朝イチの飛行機で羽田から飛ばなきゃいけないんです。出張の準備もありますので、今回はこの辺で。それではみなさまごきげんよう。
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