「あれから60年、ミシュランは潰れていない」

デルマス:思い出して下さい。これはミシュランが1950年代にラジアルタイヤを発売したときと同じ議論です。ラジアルタイヤの寿命は、バイアスの倍以上です。うんと長持ちする。全てがラジアルになってしまったら、我々の売り上げは激減して、ミシュランは潰れてしまう。ラジアルタイヤが世の中に出た時に、本当にそんな議論が有ったんです。

 あれから60年たった今はどうでしょう。ミシュランは潰れていない。ご覧の通り、潰れていないでしょう?(笑)

これは貴重品。ビヴァンダムが乗っかったエアポンプ。その昔、販売店向けのノベルティとして作られたものだ。

F:確かに。潰れていませんね(笑)。それどころか、立派な研究所までリニューアルオープンした。

デルマス:1キロメートル物を運ぶのに、燃料をどれくらい消費するか。これは世界中で議論され、研究されています。ではタイヤはどうか。ゴムはどうなのか。燃料と同じように、ゴムも議論されなければいけません。

 だから我々メーカーは、タイヤの性能をもっと上げて、長持ちするプロダクトを作らなければいけないし、ユーザーのみなさんも、溝の残りが1.6ミリになるまでキチンと使い切るようになってほしい。そして使い終わったタイヤは、リトレッドして、新たなタイヤとして再利用されるようにしなければいけない。1キロメートルのモビリティーに、できるだけゴムを使わないという努力が必要です。これからはそこが一番大事だと私は思います。

F:なるほど。ドライバーの意識向上も必要な訳ですね。

デルマス:そう。それはとても重要。とても大きなファクターです。そしてクルマの乗り方も重要です。急加速、急ブレーキ、急ハンドル。これらは全てタイヤの寿命に影響します。スムーズな運転はタイヤを長持ちさせます。

F:クルマの燃費と同じですね。せっかくプリウスを買ったって、ガンガン踏んだら燃費は悪くなる。

グリーンタイヤを展開し始めたころの広告原画。「グリーンタイヤで燃費を良くしましょう」ということなのだが、それにしても石油屋さんがブチ切れそうなイラストだ。

デルマス:そうです。ですがそれをお客さんに言うメーカーは良くないメーカー。やっぱりメーカーは努力をしなければいけない。お客さんの運転に頼るのではなく、技術力で解決しなければいけません。メーカーの技術があった上で、お客さんの運転です。

F:なるほど。

デルマス:私は研究開発畑の人間で、長く開発に係わって来ました。ミシュランの研究開発部門では、入社するとまず初めに「Usage」という言葉を叩き込まれます。Usage。どう使うか。この道具は、どんな客さんが、どのようにして使うのか。開発する人間の間で、それが理解され、共有されなければいけません。Usageが分からないと、開発する意味がありません。ミシュランの全ての開発は、そこから始まります。

F:その道具をどう使うか。どんなお客さんが使うのか。

デルマス:そう。それがミシュランのベースメント。見て、聞いて、話して。分からなければ、何で?どうして?教えて!と質問をします。

 さっき私はフェルディナントさんに聞いたでしょう。「どうしてそのような質問をするのですか?」と聞きました。あれは癖です。ミシュランのエンジニアの癖(笑)。そしてフェルディナントさんは、その理由を明確に答えてくれた。この遣り取りはとても重要です。

 「どうしてそのような質問をするのですか?」 デルマスさんからこう切り返された時、「下らない事を聞くんじゃ無ぇよバーカ」と、気分を害されたかと肝を冷やしたものだが、そうではなかった。「なぜ?なぜ?なぜ?」はミシュランのエンジニアの習い性だったのだ。