「日本では、スリップサインが出る前に車を買い替えてしまう」

「日本は路面が良い、気候もそれほど厳しくない。だから3年以上乗ってもタイヤは大丈夫です」
「日本は路面が良い、気候もそれほど厳しくない。だから3年以上乗ってもタイヤは大丈夫です」

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デルマス氏(以下、デルマス):天然ゴムの問題、合成ゴムの問題。タイヤの原料の問題も有りますが、我々がもっと深く考えなければいけないのは使い方の問題です。タイヤの使い方の問題。

 今まであまり注目されず、また議論もされて来なかったのですが、これからはもっと深く考えなければいけません。みなさん御存知の通り、タイヤには1.6ミリのトレッドウェア、摩耗のインジケーターがありますね。

F:スリップサインのことですね。これが出たら擦り減りすぎて危ないから交換しましょうというサイン。

デルマス:そうそう。でも日本でこれが出るまで使う人は滅多にいない。みんなその前にクルマを買い替えてしまうから(笑)。クルマを買い替えないにしても、日本のユーザーはそれほど長距離を乗らないでしょう、1年で1万キロ以下の人がたくさんいる。

F:スリップサインが出るよりも前に、タイヤの寿命が来てしまう。ゴムの劣化が進んで。

デルマス:そこです。そこをユーザーの皆さんにも知って頂かねばなりません。

F:たとえ擦り減っていなくても、3年経ったら交換しましょう、と聞いています。見た目は良くとも、やはりゴムが劣化しているので危ないと。

デルマス:日本は路面が良い、気候もそれほど厳しくない。だからもっと長く乗っても大丈夫です。もちろんお金持ちの人は経済的に自由だから、クルマを買い替えたり、タイヤを交換したり出来るのだけど、これからの社会、それをみんながやったらどうなりますか。未来のことを考えると、それは良くないことではありませんか。

F:うーん。まだ使えるけれども、経済的に余裕があるから、どんどん新しいのに換えちゃえ、ということでは無いですよね。

タイヤの金型。この型を転写してタイヤのパターンが形成されるのだ。
タイヤの金型。この型を転写してタイヤのパターンが形成されるのだ。

デルマス:ええ、違います。この前我々はシミュレーションをしてみました。世界中のマーケットのタイヤ交換頻度を比較してみたんです。

 そうしたら面白い結果が出てきました。日本はもちろん1.6ミリまで使わない。溝がまだ3.5から4ミリも残っているところで交換してしまう。世界のアベレージがだいたい3ミリくらい。日本は特別に早いけれども、ワールドワイドで見ても、やはり1.6ミリのところまで使っていない。みんなその前に新しいのに交換してしまう。みんなが1.6ミリまで使ってくれたらどうなります。

F:ゴムの使用量は半分になり、当然廃棄物も半分になる。でもそれじゃミシュランが困っちゃいますよね。売り上げが激減してしまう(笑)

デルマス:ミシュランの来季の利益だけを考えたらそうかもしれない。しかし、50年後のミシュランのことを考えたら、それはやったほうがいい。やるべきです。会社のためにもやったほうが良いし、未来の社会のためにもやったほうが良い。

F:うーん……。

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