クラッチを繋ぎ、アクセルを踏み込む。M7は強大なトルクを感じさせる重々しさで、力強く走り出した。

F:しかし広い畑ですね。ここはすべて柏原さんの敷地なのですか。

:いや、ここは人の土地。ウチの畑はほら、向こうの方に見える山のまた向こうにある。

F:牧草の自家生産と、生産の請負の両方をやっていらっしゃる。

:そう。まあ分業化ってヤツだね。もともとはウチも牛を持っていたんだけど、今はこっち(牧草生産)を専業にしている。最近は後継者不足だし、かと言って畑を潰しちゃうわけにもいかないし、他の畑を買ったタイミングで、ウチみたいなところに生産を委託する酪農家が増えているよね。牧草を作る人は集中して作る。乳牛を育てる人はそれに集中する。規模が大きくなってくると、その方がやっぱり効率がいいでしょう。

実際に草を刈らせていただいた。
実際に草を刈らせていただいた。

F:なるほど。私の同級生で50歳で脱サラして、農業研修生になってそのまま旭川で農家になったヤツがいるのですが、酪農でも同じ制度があるのでしょうか。

:似たような制度はあるみたいだけど、あんまり入って来ないみたいだね。酪農は24時間、365日営業で休みがないでしょう。テレビ見て田舎暮らしに憧れて来るような人には、とても務まらないよね。

F:うーん。

:まあでも、酪農の方から見れば、農業のほうが怖いと思うけどね。あれは博打に近いから。

F:農業がバクチ? それはどういう……。

:作物って、何カ月も掛けて丹精込めて作っても市況の変化で値段がコロコロ変わるでしょう。今年みたいに本州の天気が悪い時は比較的いい値段が付くけれども、安い時はもう燃料費も出ないくらいに安くなっちゃう。

F:確かに。その旭川の同級生は、今年はトマトの値段が高いのでかなりの収益が上がったと話していました。

牛は1回のお産で何頭産むか?

:そのトマトも捨てなくちゃいけないくらいに豊作の年もあるわけだからね。それに台風とか来ちゃったら大変でしょう。ハウスが潰れたり、作物が落ちちゃったりしたら、もう利益も何も吹っ飛んじゃうんだから。だから農業はバクチに近いって言うのよ。結果が出るまで半年も待たなくちゃいけないバクチ。

F:なるほど。

:その点酪農はいい。なにせ日銭が入るから。牛乳は毎日搾れるわけだから。

F:1頭の牛から、1日にどれくらいの量の牛乳が取れるものなのですか。

:個体差があるけど、ざっくり1日30リットルくらい。多いのは40リットルくらい出るね。牛って面白くて、第3産目が一番お乳が出るんですよ。初産よりも2産よりも3産目。これが一番出る。4産目になると落ちてきちゃう。

F:ほー! 3産目? 面白い! 牛は1回に何頭の子牛を産むんですか?

:1頭1頭。犬じゃないんだから、そんな一度に何頭も産まない(笑)。そういうこと、東京の人は知らないんだねぇ。

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