今回お話を伺うのは、牧草生産請負業の柏原久徳さんである。

 柏原さんは、ご自身で所有する牧草地の他に、他の酪農家が所有する牧草地でも牧草を生産する、言わば牧草生産のプロフェッショナルである。前回書いたように(こちら)、酪農業は非常に仕事が多い。牧草やトウモロコシを作る「農業」の部分。それらを加工して発酵させ、牛の飼料を作る「(牛の)食品加工業」の部分。そしてもちろん牛を育て、乳を搾り、それを出荷する(我々がイメージする)「酪農」の部分があり、それらをすべて家族で賄わなければならない。

柏原さんとM7の前で。
柏原さんとM7の前で。

 一方で、ご多分に漏れずこの業界も後継者問題に悩んでいる。
 「息子がいない」のではなく、「息子がいても、継いでくれない」家も少なくない。

 広大な牧草地と牛舎。それに付随する立派な生産設備があるにも関わらず、娘は東京に嫁ぎ、息子は札幌へ出て公務員……などというケースも多いのだという。代々続いたファームを潰してしまうのは忍びないから、組合を通じて同業者へ売ることになる。資金の目処のついた酪農家は、近隣の継ぎ手のない農場を買い取って、規模を拡大して経営する。

 そこで進んでいるのが「分業化」だ。柏原さんのような仕事が成り立つのには、こうした背景があるのである。

「坂だけは気をつけてね」

F:こんにちは。今日はお世話になります。

:どうもこんにちは。トラクターに乗るために、わざわざ東京から来たんだって? ご苦労さんだね(笑)。

F:はい、牧草地でトラクターに乗れる機会なんて滅多にありませんから、それはもう大喜びで飛んでまいりました。

:物好きな人もいるもんだ(笑)。まあいいや。せっかく来たんだから、好きなだけ乗ってってください。ただし裏の坂の方だけは気を付けてね。坂でヨコを向くと、重心の高いトラクターは簡単にコロッとひっくり返っちゃうから。ひっくり返ったら外に放り出されて、自分が運転していたトラクターに押しつぶされて、ペシャンコになって死んじゃうから。年に2、3回は横転事故があるからね。

F:コ、コロッとひっくり返ってペシャンコに……。

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