堀井さんがこの辺、と言うのは標茶町のことだ。「しべちゃ」はアイヌ語の「シペッチャ」が語源で、「大きな川の畔」を意味しているそうだ。大きな川とは、もちろん釧路川のことである。

F:そこまで下がると、牛も大変ですね。冬になるとここに暖房を入れるのですか。

:暖房は入れません。外がマイナス30度でも、牛舎の中は牛の体温でそれよりも10度から15度は高いんです。牛は寒さに強いので、それで十分です。

牛舎の中で牛と見つめ合うフェル。極寒期でも暖房は入れない。

F:牛の飼料は、牧草地で刈ってきた草を乾燥させてから与えるのですか。

:いったん乾燥させた上で、発酵させてから与えます。そのまま食べさせることはないですね。

F:放牧とかそういうのは……?

:ないですないです。効率が悪すぎる(笑)。

F:勝手に生えてくる牧草を食べさせるのだから、エサ代無料でずいぶん効率のよい仕事だな、と思っていたのですが。

:牧草は勝手に生えませんよ(笑)。ちゃんと種を蒔いて、肥料もやって、除草もしなければいけません。

F:え、え? 牧草って種を蒔いているのですか。知らなかった……。

牧草にもブランド名がある

:東京の人は意外と知らないんですよね。牧草も植物なんだから、種を蒔かなきゃ生えてきません。雑草を食べさせているわけじゃないので(笑)。

F:なるほど。

:牧草には大きく分けてマメ科とイネ科の2種類があります。マメ科にはクローバーとかアルファルファとかカレガとかの種類があり、さらにその下にたくさんの品種があります。コメにも“コシヒカリ”とか“ゆめぴりか”とかの種類があるでしょう。あれと同じように、牧草にもたくさんの品種があるんですよ。イネ科には「なつぴりか」なんていう品種があります(笑)。

F:なつぴりか。なんか美味しそうですね(笑)。その種を買ってきて、毎年蒔くわけですか。しかもこの広大な土地に。こりゃえらいことですね。

刈ってきた牧草はシートを掛けて乳酸菌により発酵させる。漬物のような軽い発酵臭がする。