戦車のような“その場回転”は出来ない

 落水は既に富郎君が絶妙のタイミングで済ませてくれている。それではいよいよ刈り取り作業に入ろう。運転席に乗り込む。運転席は「コックピット」と呼ぶに相応しく、多くの計器類とスイッチに囲まれている。

男心をくすぐるトラクターの運転席。右のジョイスティックでステアリング操作と前に装着されている刈り取り機の高さ調整を行う。前進後進の加減速は左の大きなレバーで行う。前に倒せば前進し、手前に引けば後進する。ボートのスロットルと同じ仕組みである。運転中はこちらの2つに手を添えていることになる。

 運転は全て手で行い、フットペダルは無い。ジョイスティックを最大限に倒しても、戦車のような“その場回転”は出来ない。最高時速7.2kmは、数字で見るとそれほど俊足に思えないが、圃場の中ではメチャ速く感じる。

北海道クボタの安房さん(イケメン)からインストラクションを受ける。見慣れない名前のスイッチがたくさん並んでいて戸惑うが、最初にセッティングをしてしまえば、後はジョイスティックとスロットルレバーにだけ集中していれば良い。切り替える事は滅多に無いだろうが、左手前には「稲・麦・大豆」を選ぶセレクトスイッチがある。万能機なのだなぁ。

 稲刈りは一番外側から反時計回りで行う。運転席が右側に着いているので、こうすると常に稲のラインの端を見て、ステアリングを微調整しながら走ることが出きる。刈り始めのアライメントがなかなか難しい。私はモタモタと微調整を繰り返すのだが、安房さん(イケメン)はさすがプロ。何度やっても一発でバシッっと決めていた。

恐る恐る走り出してみる。大事な稲を踏み潰しては大変だ。緊張する。緊張の夏、日本の夏。もう秋ですが。

 何往復かして、刈り取って脱穀された籾でグレンタンクが一杯になると、アラームが鳴り、刈取りユニットが自動停止する。ここで籾をトラックに移し替える作業に入る。コンバインからは、生コン打ち出し車のようなパイプが生えている。これを「アンローダ」という。先端には監視カメラと夜間作業用のライトが取り付けられている。

アンローダを操作して、トラックにいま刈り取ったばかりの籾を移し替える。
アンローダは有線のリモコンで操作する(オプションで無線もある)。上下運動に旋回運動。これでトラックとの位置合わせを行う。タンクからの排出速度も変えられる。
もの凄い勢いで籾が排出されてくる。もうもうと埃が舞い上がる。マスクとゴーグルが必要だ。タンク容量は1950リットル。ドラム缶約10個分に相当する。高速モードなら、これをたったの90秒で移し替えてしまうのだ。凄い。

 トラクターの前方にあるカッターで稲を刈り取ると、チェーンベルトに乗せられた稲は、90度角度を変えて、車両の右側にある脱穀機に運ばれていく。このなかで籾だけが選別されてタンクに移し替えられ、藁の部分は粉砕されて圃場に撒かれていく。大型機のER6120は、脱穀機の回転部分が大口径で、しかも長いので、作物の滞留時間が長い。それだけ脱粒を効率よく行うことが出来る。要するに“歩留まり”が良い。コンバインの走行速度をムリヤリ上げても、肝心の脱穀が着いてこなければ話にならない。コンバインの速度は、この脱穀部の性能次第なのである。

コンバイン左側にある脱穀部。この“こぎ胴”がぐわんぐわんと回転し、刈り取った稲を巻き込んでいく。