植えたなら刈り取らなければならない


 記憶の良い読者なら覚えておられよう。

 今年の5月に、当欄で古くからの友人の田中富郎君が、脱サラして経営する「田中農園」で田植え体験をした記事を書いた。事の発端はクボタの取材である。インタビューの終盤に、同社広報の西村さんが、「今度はウチの農機に試乗して下さい。日本全国どこにでもお届けしますから」と(社交辞令で)呟いたことを、私はシツコク覚えていたのだ。

 西村さんも、まさか北海道で田植え機の試乗をさせてくれ、なるムチャを言ってくるとは夢にも思わなかったのだろう。ともかく北海道クボタと、富郎君の尽力で、夢の田植え機試乗が実現したのである(とはいえ、乗ったのは自動運転機だったので、“試乗”と言ってもお猿の電車よろしく運転席に座っているだけだったのだが……)。

 田植えをしたのであれば、自分の植えた稲の分くらいは責任を持って刈り取らねばなるまい。富郎君に、「今度は稲刈りでコンバインの実験をさせてくれ」、と頼むと、またしても「あいよ」と二つ返事で快諾してくれた。ありがたや。持つべきものは良き友である。

 ということで、本編は5月に書いた田中農場奮闘記の続編である。


小学校からの同級生である田中富郎君。我々が通ったホンワカ温室のような坊っちゃん学校は、当時クラス替えが無かったので、彼とは中学も合わせると実に9年間も同じクラスだった。切っても切れないクサレ縁である。

 稲刈りの時期は短い。実るほど頭を垂れる稲穂かな。できるだけ米粒を大きく育て、ギリギリになって刈り取れば収穫量が増えて効率的に思えるのだが、話はそう簡単では無い。コメには刈り取りに最適な時期である、「適期」というものがある。出穂後の積算温度(一日の平均気温に日数をかけた数字)が1000℃前後になるのが適切とされ(平均気温が25℃なら40日必要ということだ)、籾の黄化率で言うとおよそ9割程度ということになる(無論この積算温度と黄化率は、品種と地域により異なる)。

 これより収穫が早いと粒張りに不良が生じたり、青米が多く混じったりする(反面光沢が良いというメリットも有る)。一方これより収穫が遅いと、米粒が割れたり茶米が発生してしまう可能性がある。つまり一面が黄金色に染まった田んぼは、必ずしも刈り取りに最適な時期では無い、ということだ。米粒の出来不出来は農家の利益に直結する。ことほど左様に、稲刈りのタイミングは大切なのである。

稲刈りにはタイミングが重要だ。ご覧の通り、少し青い穂が混じっているくらいが丁度いい。私のマスクを気味悪がって、カラスが寄り付かない。一部の方に不評のマスクだが、たまにはこうして役に立つのである。

 さて、クボタのコンバインである。今回ご用意頂いたのは、クボタのフラッグシップモデルであるER6120である。全長4850mm、全幅2325mm、重量は軽く4トンを超える。水冷4気筒直噴ディーゼルで、もちろんコモンレールを採用。インタークーラターボ装着である。お値段はたったの1690万と2000円。

 道路しか走ることの出来ないフェラーリの半額である。こちとら稲の刈り取りから脱穀、更には選別とタンクからの排出まで出来るのだ(複数の機能をcombine:結合した装置だからコンバインである)。これをお買い得と言わずして、何がお買い得なのか。

クボタの旗艦モデルであるER6120。最高速度は(もちろん刈り取りしながら)秒速2m。時速に直すと7.2kmということになる。フェラーリと比べると最高速度は“やや”劣るが、いったん圃場に入ればこちらの天下である。

 それでは早速マシンに乗って稲刈りに……と慌ててはいけない。慎重にまっすぐ正確に田植えをしたつもりでも、やはりイレギュラーは発生する。この時期になりハッキリするのだが、所々に「はみ出し」が発生してしまう。コンバインを入れる前に、まずはこれらを鎌で刈り取らなければならない。広い圃場の四辺を、自らの手で刈るのである。この作業を「隅刈り」と言う。

稲がイレギュラーに生えているのがお分かりいただけようか。これを鎌でサクサクと根気よく刈り取って行くのだ。
端っこを刈るだけなのに、結構な重労働だ。コンバインができる前は、圃場全体を手作業でやっていたのだ。そう思って田中農園の稲穂を見渡すと気が遠くなる。コメは大事に食べなければいけない。

 このありがたい文明の利器を圃場に入れる前に、下準備が必要だ。コンバインは戦車やブルドーザーと同じ仕組みのクローラ(いわゆるキャタピラーである。キャタピラーは、実はキャタピラー社の商品名で、部品としての名称はクローラ、日本語では無限軌道と言う)で武装されているのだが、これも無敵という訳ではない。下の土が柔らか過ぎると、やはり地面にめり込んでスタックしてしまうのだ。

 スタックしないまでも、刈り取り中に隣のラインの土が盛り上がり、稲株をなぎ倒してしまう可能性もある。だから事前に水を抜き、ある程度地面を乾燥させておく必要がある。田んぼから水を抜くことを「落水」という。早目に水を抜いてしまえば作業効率は良い。しかし十分にコメに栄養を行き渡らせるため、稲刈りギリギリまで水を張っておきたい。落水もタイミングが重要だ。