超高速!時速7.2kmの世界を体験
第403回 【番外編】クボタのコンバインで稲刈り体験
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今回も明るく楽しくヨタ話から参りましょう。
Cakesで絶賛連載中の「フェル先生のさわやか人生相談」。
創刊から書き続けているので、原稿も結構な本数になりました。昨年の夏あたりから書籍化の話が持ち上がっていたのですが、単に過去記事をセレクトして加筆修正しただけでは面白くないよね……と、なかなか前に進まずにいたのでした。が、ここへ来て事態は急展開。橋本マナミさんがリアルでお悩みを抱えておられ、公開問答もOK、という話になり、急遽面会がセッティングされたのです。果たしてお悩みは無事に解決され、めでたく乾杯、と相成りました。
「国民の愛人」などとビミョーなキャッチフレーズで知られる彼女ですが、どうしてどうして。お目に掛かって直接お話をすると、実に真面目で、誠実で、大変な努力家であることが分かります。グラドルからスタートして、今や大河ドラマにまで出演する女優に成長されましたが、人気女優には人気女優なりの人知れぬ悩みがあるようです。予定の時間を大幅にオーバーして、じっくりとお話を伺いました。この問答を余すところなく収録し、さらにcakesで掲載した過去の問答の「その後」を加筆した書籍は、11月中に出版の予定です。お楽しみに!
そうそう。11月25日には、マナミさんが出演する、三浦しをんさん原作の「光」が公開されます。先行して鑑賞させて頂きましたが、彼女の中に共存する清楚さと色気が遺憾なく発揮され、とても良い映画でした。平田満さんの怪演もさすが(尻を出して寝転んで画になる俳優さんなど、そういないでしょう)邦画を観る機会の少ない方もぜひ!
最近はやたらと国内出張が多ございまして、アチコチを飛行機で飛び回っております。
短期間に乗り比べると分かりますが、787は本当に乗り心地が良い。静かで振動が少なくて、機内の湿度も(他の飛行機に比べれば、ですが)快適なレベルに保たれている。これ、機体にカーボンを多用しているから可能なのです。787の機体整備に密着、なんて記事も面白そうです。最近は連続して落とし物をされるなどトラブルが多いようですが、ANAさんここらでひとつ名誉挽回の記事などいかがでしょう?
最終便で飛んでホテルには11時にチェックイン。ANAの機内弁当を持ち帰ってホテルの部屋で一人寂しく夕食….なんてこともあります。サラリーマンは辛いです。
とはいえ出張にも楽しみはあります。こちらは広島空港3階のフードコート。シャビーな場所ですが、結構美味しいお好み焼きが食べられます。ここで生ビールをグイッと行ければ最高なのですが、羽田のパーキングでは愛車が待っている。泣く泣く水で済ませました。
唐揚げにお好み焼きの黄金コンビ。何を食べても太らないのが自慢です。
さてさて、それでは本編へと参りましょう。今回は「走りながら考える」の番外編、友人の田中富郎君が経営する田中農場で、稲刈りを体験して参りました。
植えたなら刈り取らなければならない
記憶の良い読者なら覚えておられよう。
今年の5月に、当欄で古くからの友人の田中富郎君が、脱サラして経営する「田中農園」で田植え体験をした記事を書いた。事の発端はクボタの取材である。インタビューの終盤に、同社広報の西村さんが、「今度はウチの農機に試乗して下さい。日本全国どこにでもお届けしますから」と(社交辞令で)呟いたことを、私はシツコク覚えていたのだ。
西村さんも、まさか北海道で田植え機の試乗をさせてくれ、なるムチャを言ってくるとは夢にも思わなかったのだろう。ともかく北海道クボタと、富郎君の尽力で、夢の田植え機試乗が実現したのである(とはいえ、乗ったのは自動運転機だったので、“試乗”と言ってもお猿の電車よろしく運転席に座っているだけだったのだが……)。
田植えをしたのであれば、自分の植えた稲の分くらいは責任を持って刈り取らねばなるまい。富郎君に、「今度は稲刈りでコンバインの実験をさせてくれ」、と頼むと、またしても「あいよ」と二つ返事で快諾してくれた。ありがたや。持つべきものは良き友である。
ということで、本編は5月に書いた田中農場奮闘記の続編である。
小学校からの同級生である田中富郎君。我々が通ったホンワカ温室のような坊っちゃん学校は、当時クラス替えが無かったので、彼とは中学も合わせると実に9年間も同じクラスだった。切っても切れないクサレ縁である。
稲刈りの時期は短い。実るほど頭を垂れる稲穂かな。できるだけ米粒を大きく育て、ギリギリになって刈り取れば収穫量が増えて効率的に思えるのだが、話はそう簡単では無い。コメには刈り取りに最適な時期である、「適期」というものがある。出穂後の積算温度(一日の平均気温に日数をかけた数字)が1000℃前後になるのが適切とされ(平均気温が25℃なら40日必要ということだ)、籾の黄化率で言うとおよそ9割程度ということになる(無論この積算温度と黄化率は、品種と地域により異なる)。
これより収穫が早いと粒張りに不良が生じたり、青米が多く混じったりする(反面光沢が良いというメリットも有る)。一方これより収穫が遅いと、米粒が割れたり茶米が発生してしまう可能性がある。つまり一面が黄金色に染まった田んぼは、必ずしも刈り取りに最適な時期では無い、ということだ。米粒の出来不出来は農家の利益に直結する。ことほど左様に、稲刈りのタイミングは大切なのである。
稲刈りにはタイミングが重要だ。ご覧の通り、少し青い穂が混じっているくらいが丁度いい。私のマスクを気味悪がって、カラスが寄り付かない。一部の方に不評のマスクだが、たまにはこうして役に立つのである。
さて、クボタのコンバインである。今回ご用意頂いたのは、クボタのフラッグシップモデルであるER6120である。全長4850mm、全幅2325mm、重量は軽く4トンを超える。水冷4気筒直噴ディーゼルで、もちろんコモンレールを採用。インタークーラターボ装着である。お値段はたったの1690万と2000円。
道路しか走ることの出来ないフェラーリの半額である。こちとら稲の刈り取りから脱穀、更には選別とタンクからの排出まで出来るのだ(複数の機能をcombine:結合した装置だからコンバインである)。これをお買い得と言わずして、何がお買い得なのか。
クボタの旗艦モデルであるER6120。最高速度は(もちろん刈り取りしながら)秒速2m。時速に直すと7.2kmということになる。フェラーリと比べると最高速度は“やや”劣るが、いったん圃場に入ればこちらの天下である。
それでは早速マシンに乗って稲刈りに……と慌ててはいけない。慎重にまっすぐ正確に田植えをしたつもりでも、やはりイレギュラーは発生する。この時期になりハッキリするのだが、所々に「はみ出し」が発生してしまう。コンバインを入れる前に、まずはこれらを鎌で刈り取らなければならない。広い圃場の四辺を、自らの手で刈るのである。この作業を「隅刈り」と言う。
稲がイレギュラーに生えているのがお分かりいただけようか。これを鎌でサクサクと根気よく刈り取って行くのだ。
端っこを刈るだけなのに、結構な重労働だ。コンバインができる前は、圃場全体を手作業でやっていたのだ。そう思って田中農園の稲穂を見渡すと気が遠くなる。コメは大事に食べなければいけない。
このありがたい文明の利器を圃場に入れる前に、下準備が必要だ。コンバインは戦車やブルドーザーと同じ仕組みのクローラ(いわゆるキャタピラーである。キャタピラーは、実はキャタピラー社の商品名で、部品としての名称はクローラ、日本語では無限軌道と言う)で武装されているのだが、これも無敵という訳ではない。下の土が柔らか過ぎると、やはり地面にめり込んでスタックしてしまうのだ。
スタックしないまでも、刈り取り中に隣のラインの土が盛り上がり、稲株をなぎ倒してしまう可能性もある。だから事前に水を抜き、ある程度地面を乾燥させておく必要がある。田んぼから水を抜くことを「落水」という。早目に水を抜いてしまえば作業効率は良い。しかし十分にコメに栄養を行き渡らせるため、稲刈りギリギリまで水を張っておきたい。落水もタイミングが重要だ。
戦車のような“その場回転”は出来ない
落水は既に富郎君が絶妙のタイミングで済ませてくれている。それではいよいよ刈り取り作業に入ろう。運転席に乗り込む。運転席は「コックピット」と呼ぶに相応しく、多くの計器類とスイッチに囲まれている。
男心をくすぐるトラクターの運転席。右のジョイスティックでステアリング操作と前に装着されている刈り取り機の高さ調整を行う。前進後進の加減速は左の大きなレバーで行う。前に倒せば前進し、手前に引けば後進する。ボートのスロットルと同じ仕組みである。運転中はこちらの2つに手を添えていることになる。
運転は全て手で行い、フットペダルは無い。ジョイスティックを最大限に倒しても、戦車のような“その場回転”は出来ない。最高時速7.2kmは、数字で見るとそれほど俊足に思えないが、圃場の中ではメチャ速く感じる。
北海道クボタの安房さん(イケメン)からインストラクションを受ける。見慣れない名前のスイッチがたくさん並んでいて戸惑うが、最初にセッティングをしてしまえば、後はジョイスティックとスロットルレバーにだけ集中していれば良い。切り替える事は滅多に無いだろうが、左手前には「稲・麦・大豆」を選ぶセレクトスイッチがある。万能機なのだなぁ。
稲刈りは一番外側から反時計回りで行う。運転席が右側に着いているので、こうすると常に稲のラインの端を見て、ステアリングを微調整しながら走ることが出きる。刈り始めのアライメントがなかなか難しい。私はモタモタと微調整を繰り返すのだが、安房さん(イケメン)はさすがプロ。何度やっても一発でバシッっと決めていた。
恐る恐る走り出してみる。大事な稲を踏み潰しては大変だ。緊張する。緊張の夏、日本の夏。もう秋ですが。
何往復かして、刈り取って脱穀された籾でグレンタンクが一杯になると、アラームが鳴り、刈取りユニットが自動停止する。ここで籾をトラックに移し替える作業に入る。コンバインからは、生コン打ち出し車のようなパイプが生えている。これを「アンローダ」という。先端には監視カメラと夜間作業用のライトが取り付けられている。
アンローダを操作して、トラックにいま刈り取ったばかりの籾を移し替える。
アンローダは有線のリモコンで操作する(オプションで無線もある)。上下運動に旋回運動。これでトラックとの位置合わせを行う。タンクからの排出速度も変えられる。
もの凄い勢いで籾が排出されてくる。もうもうと埃が舞い上がる。マスクとゴーグルが必要だ。タンク容量は1950リットル。ドラム缶約10個分に相当する。高速モードなら、これをたったの90秒で移し替えてしまうのだ。凄い。
トラクターの前方にあるカッターで稲を刈り取ると、チェーンベルトに乗せられた稲は、90度角度を変えて、車両の右側にある脱穀機に運ばれていく。このなかで籾だけが選別されてタンクに移し替えられ、藁の部分は粉砕されて圃場に撒かれていく。大型機のER6120は、脱穀機の回転部分が大口径で、しかも長いので、作物の滞留時間が長い。それだけ脱粒を効率よく行うことが出来る。要するに“歩留まり”が良い。コンバインの走行速度をムリヤリ上げても、肝心の脱穀が着いてこなければ話にならない。コンバインの速度は、この脱穀部の性能次第なのである。
コンバイン左側にある脱穀部。この“こぎ胴”がぐわんぐわんと回転し、刈り取った稲を巻き込んでいく。
走りながら刈り取りをして、脱穀も
コンバインが走りながら刈り取りをし、さらに脱穀を行うプロセスを動画でご覧いただこう。素人がスマホで撮影した拙いもので申し訳ないが、動きのイメージはつかめると思う。時速7.2キロの迫力を堪能されたし。
コンバインの時速7.2キロはこんなに“速い”のだ。田中富郎君をして「ウチの機械の3倍は速い……マジで……」と唸らせた最新鋭機である。
そうそう。忘れてならないのは、このコンバインには、圃場ごとの水分含有量とタンパク質含有量を測定する食味センサが組み込まれていることだ。これは刈り取った籾に光を照射して、透過した光の近赤外域の波長ごとの強さを測定し、水分とタンパク質の含有率を算出するものだ。このデータをリアルタイムで無線LANに乗せて転送し、コメの質を管理することが出きるのだ。
実際に画面を見せてもらったが、同じ圃場でも場所によりコメの質は大きく異なっている。肥料が均一に撒かれていないためにこの差が生じるのだが、土地の“癖”のようなものもある。このデータは、翌年施肥する際の大きな参考となる。今まではカンと経験に頼っていた部分に、クボタは科学のメスを入れようとしているのだ。農業もサイエンスの時代である。
転送されたデータを見るクボタ本社の齋藤さん。自費で農業専門誌を購読する農業オタクのお嬢さん。仙台空港で被災し、津波に押し流されて九死に一生を得、5日間かかって徒歩で帰宅した文字通りのサバイバーである。
かように科学とエンジニアリングの結晶であるコンバインだが、この機械は、年に1回しか使われない、鯉のぼりのような特殊な存在である。しかも使われるシーンは、タイミングが全ての一発勝負。適期を逃せば次はない。結婚適齢期は逃しても、自分の努力と運次第で挽回することも可能だが(挽回できないケースも多くあるが)、コメの適期は絶対に外せない。コンバインの故障は、ヘタをすれば農家の破綻につながるのだ。つまり、コンバインは、農家の生活がかかった、「絶対に故障が許されない」厳しい機械なのである。
無論、農家自身のメインテナンスや、販売店のバックアップ体制も重要だ。しかし元の機械の信頼性が高くなければ、話にもならない。壊れれば「ゴメン」で済むスマホとは大違いなのである。
10月1日に農水省から発表されたばかりの農林水産統計によると、我が国の農業就業人数は概数値で181万6千人。この1年間で10万人以上も減少している。驚くべきはその平均年齢。昨年の2月段階で66.8歳である。実際現在55歳の田中富郎は、地元美瑛町では「若い衆」扱いだ。
就業人数は減る。高齢化は進む。後継するべき人間は家を継がずに街に出る。農業の機械化、IT化は、もはや待ったなしの状況である。
「いろんな乗り物に乗りたい」と面白がって試乗した田植え機とコンバインだが、農業のことを調べてみると、愕然とすることが多い。
我々はこれからどうしたら良いのだろう。美味しく安全な国産のコメを、いつまでも食べ続けることは出来るのだろうか。ガラにもなく(去年田中農園で収穫されたコメでできた)オニギリを食べながら悩んでみたりしたのだった。
今回取材のご協力いただいたクボタの面々。左からクボタの齋藤女史、フェル。北海道クボタの星野さん同じく安房さん。お世話になりました!
次週もクルマでない乗り物の話が続きます。お楽しみに!
自動運転機能付きのアグリロボトラクター
こんにちは、AD高橋です。
以前フェルさんが田植えに挑戦した記事で試乗していたのは、クボタの「EP8D-CY32-GS」という田植え機でした。
我々の仕事は乗用車の試乗が圧倒的に多いため(まれに商用車に乗ることもあります)、フェルさんの記事を読みながら、農機具の進化に驚いておりました。そしてクボタの農機具紹介サイト「クボタ電脳スクエア」を見てみると、今回の記事でフェルさんがレポートしているように、端末で機械の稼働状況や圃場ごとの作物・作業情報を蓄積・分析できる機種、施肥量を圃場ごとに電動で調節できる機種、直進自動操舵を搭載する機種など先進機能を装備した農機が多数掲載されていることに再び驚きました。
何より驚いたのが、クボタが2017年5月31日に出したニュースリリースに掲載されていた新製品です。
アグリロボトラクター「SL60A」のモニター販売を開始するという内容のニュースですが、なんとこの機種には自動運転機能が搭載されているのです。
作業者がトラクターを監視していることが前提ですが、
●圃場周辺から作業者が監視しながら、圃場内側を自動で耕うん、代かき作業
●前方の無人機を後方の有人機に乗車した作業者が監視しながらの自動運転作業(2台協調作業)などができます。
上の写真は、ニュースリリースに掲載されていたもの。奥のトラクターには人が乗っていないの、わかりますか?
まずは近くに作業者がいるところからスタートですが、いずれ完全に無人状態での作業も可能になるのでしょう。無人のトラクターが作業をしている光景、機会があったら見てみたいです!
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この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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