みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今回も明るく楽しくヨタ話からまいりましょう。
3連休は台風一過の沖縄で過ごしていました。今回の沖縄ツアーでは、珍しくゴルフをやりました。
台風が過ぎたとは言え、まだ沖縄本島は強風域。ヤシの木の様子で「強」の強さがお分かり頂けますでしょうか?
クラブを握るのは実に1年ぶりのこと。おまけにこの強風ときては上手くいくはずがありません。たまにいいショットが出ても、バンカーに捕まったりして良いところがありません。
距離ピッタリ、されど方向イマイチでこんな見事な目玉焼きに……。ここでまた反対側のバンカーにブチ込んだりして、初心者のボーリングのようなスコアになりました。辛かった……。
トヨタが新しくスポーツカーのブランド「GR」を立ち上げるというので、見学に行ってきました。GRはもちろん「GAZOO RACING」の略称です。GAZOOはもともと(豊田)章男社長が(社長になる前に)全国のディーラーの業務改善活動を行っていた際にできた言葉で、語源には諸説ありますが、画像(Gazo)の動物園(Zoo)の合成語説が有力です。展示しきれない下取り中古車を、画像化して展示したら販売量が急増し、リードタイムも半分に短縮した、という成功事例があり、それをWEBで展開したのがGAZOOの始まりです。だからこのブランドは、社長の思い入れも特別に高いわけです。
そんなGRのお披露目会。(豊田)章男社長自らも登壇され、その並々ならぬ思い入れをお話されていました。
GRは言うなればトヨタ版AMGというところでしょうか。カリカリチューンのGRMNから、ミニバンまで展開するGR SPORTSまで3つのライン。この日は来週までに発売予定のクルマを含めて11モデルがお披露目されました。
取材に来たマスコミの数もハンパではありませんでした。そりゃそうでしょう。少子化やらカーシェアやらで、国内販売の見通しは決して明るいものではありません。そんな状況を打破すべく、トヨタが打つ国内販売テコ入れ策が、このGRなのですから。
会場は押すな押すなの大騒ぎ。マスコミの注目度高し。AKBの総選挙かと思いました。
当日のトピックは、何と言っても章男社長のドリフト走行でしょう。一緒に見ていた旧AD藤野氏も、「章男さん、メチャ腕が上がってますよ。この狭いスペースであれだけ走らせるのは並大抵の腕じゃない」と嘆息しておられました。
写真じゃよく分からないですね。動画でどうぞ。
ということで本編へと参りましょう。三菱自動車の執行役員で車両技術開発本部長の鳥居 勲氏のインタビューの第3回です。
『信頼性』というものはそれぞれの会社によって違うんです
何とタイムリーな。
当欄で記事を書くと、そのタイミングで当該企業に大きな動きが出ることが多い。ルノーと日産自動車。そして三菱自動車連合は、9月15日に「アライアンス2022」なる新6カ年計画を発表した。これは2022年に年間販売台数を1400万台に、また売上高2400億ドル(約26兆6400億円)を見込む壮大なものだ。
ちなみにこの3社アライアンスは、2017年上半期(1~6月)で、すでに独フォルクスワーゲングループ(VW)を抜いて販売台数が世界一になっている。3社はプラットフォームとパワートレインの共有を進め、電動化や自動運転などの技術を共有して、いわゆるひとつの「シナジー」を創出していくのである。
前号では、この部分までお伝えした。
フェルディナント(以下、F):会社の文化として、まあ少しくらいなら誤魔化しても良いよね、というような雰囲気はありませんでしたか。
鳥居(以下、鳥):ないです。それは絶対にない。断じてないです。
F:それでは今回のことは、社内のごく一部の人が勝手にやった、ということですか。
鳥:そう。そう信じたいです。長年、三菱自動車で仕事をしてきて、そういう雰囲気を感じたことはただの一回もありませんから。みんな真面目に、真剣に、少しでも良いクルマを作ろうと必死になって頑張ってきましたから。
この続きをお伝えしよう。
F:鳥居さんがおっしゃる通り、三菱自動車は外部から見ても「真面目」というイメージがとても強いです。でも、だからこそ今回の事件はショックが大きかった。あの真面目な三菱が……と。ですが一方で「またか……」という思いもある。2000年と2004年に起きたリコール隠し問題です。非常に失礼なことを申し上げますが、こうなるともう三菱には隠ぺい体質があったのではないか、そういう文化があったのではないかと思わざるを得ないんです。そもそも2000年に問題が発覚したのは内部告発がきっかけでしたよね。
鳥:そうですね。
F:当時は一部の良心を持った三菱の方が、「これはもう勘弁ならない」と義憤に駆られて告発をしたということなのでしょうか。うんときれいに解釈をすればですが。
鳥:確かにリコール隠しの時は、そういうことがあったのは事実だと思います。あれだけの大きな話になっていますし、我々も当時その断片には接していましたから。あったのだと思います。
F:あのリコール隠し事件の頃は、鳥居さんはどんな仕事をしていらしたのですか?
鳥:実験ですから、例えばリコールするかしないかジャッジをしろとか、あるいは試験をしろということを頼まれてやっていました。いくつかのリコールに関しては、自分たちも関与しています。
F:なるほど。実験を。
鳥:モノが壊れるとか壊れないとか、三菱自動車としての信頼性の話になってきます。私は実験の車体担当でしたので、そういう仕事が多かったんです。実は「信頼性」というものは、それぞれの会社によって違うんです。それぞれの会社の歴史に応じて変わってくる。逆に言うと、どこまで持てばいいかという明確な共通の線がない。燃費の測り方には国が定めた共通線があって、クリアになっていますが、例えば強度試験なんていうのには共通線がない。
F:へえ。それは意外です。強度の信頼性は各社バラバラで共通線がないんですね。
鳥:ええ、ないんです。そこは各社の長い歴史の基に築き上げてきた経験で固めている領域なんですね。こと強度に関して言えば、国の基準も「堅牢な構造であること」、というくらいの話で。
F:「堅牢な構造であること」、ですか。なんか昔のJALのスチュワーデス(CA)の採用基準みたいですね。「容姿端麗であること」、なんて、今なら大問題になる条件が当たり前のように掲げられていた(笑)。
鳥:え?JALにそんな条件があったのですか?
F:昔の話ですけどね。あの子は何期、何期、と期分けしていた時代の話です。同い年でも期が違うと「セミ同期」なんて言っていました。
鳥:詳しいですね(笑)。
F:私、ソッチ関係はうるさいですよ。多田さんの音楽にも負けません。
担当編集Y崎:ちょ、ちょっとフェルさん……せっかく鳥居さんにお時間を頂いているのですから、クルマの話をして下さい。CAの採用基準じゃなくて、クルマの強度の話でしょう。
F:や、そうでした。
鳥:我々が実験をした領域に関しては、発生率にしろ、実験の条件にしろ、全員が間違いなく「不具合の元」に対して真剣に取り組んでいました。でもその結果を「どう取り扱うか」、という事に関しては、いろいろあったのだと思います。
今はもう透明性がうんと増している
F:いろいろあった……。なるほど。でも当時、三菱はどうしてリコールを隠したのでしょう。メーカーにとって、リコールを出すのは不名誉な事なんですか。リコール発生件数は少ない方が、自動車会社としてはめでたいことなんですか?
鳥:そういう時代がありましたね。昔は。
F:いまはもう各社からポンポン出ますよね。我々もそれに対してあまり驚かなくなった。あ、ワイパーが止まるかも知れないのね。そうなのね、みたいな。
鳥:今はもう透明性がうんと増していて、お客様を第一に考えるようになってきているので、リコールはすぐに出します。当時はやっぱり、最後にリコールを出すと決める人が、会社の経営だとかそういうことを第一に考えると、出せなくなるという雰囲気があったのではないかと思います。それこそ昔は、「これをリコールしたら会社はつぶれちゃうじゃないか」、というような会話も聞いたことがありますので。
F:上の偉い人たちが。
鳥:ええ。でも今は違いますよ。今はそういう(リコールを出すという)判断をする人が決めるようになっていますから。
F:今はどういう仕組みになっているのですか。リコールに関しては、経営者ではない別部隊の人たちが判断するんですか。
鳥:いやいや。品質部門の人ですよ。品質の責任者が判断をして、それを上に上げて、役員会で最終的に判断、という流れになります。そこの善し悪しを判断するのは品質部門です。
F:品質部門がこれはリコールを出しましょうという上申を、役員会でストップできてしまうのですか。構造的にどうですか。
鳥:できないと思います。今はすべてのエビデンスが残りますから。リコールに対する取り組みは、あの事件以降かなり改善されています。いまのウチのリコールの出し方を見ていただければ分かると思うんですけれども……いろいろジャッジするのに時間がかかっているものも中にはありますけれども……真摯に取り組んでやっています。
F:リコールに関しては良く分かりました。では燃費偽装に関してはどうですか。これは直近で起きたことです。
鳥:燃費偽装に関しては、その原因に企業文化というんですかね、あの報告書の中で、企業体質ということが指摘されています。それに対して我々も改善に取り組むということでやっています。あの報告書の中に書いてある内容の通りだと思います。
鳥居さんのおっしゃる「あの報告書」とは、「独立した外部の専門家により構成される特別調査委員会」による、「燃費不正問題に関する調査報告書」である。264ページにも及ぶ膨大なもので(目次だけで17頁もあって萎える)、三菱自動車のホームページにリンクが張られている。サクッと読みたい方はこちらの要約版をどうぞ。たったの42ページだ(目次も3ページである)。
「個人のプライバシー及び当社の営業秘密保護等の観点から、部分的な非公表措置を行っております。」とのことなので、「こいつが偽装の犯人だ!」という話にはなっていない。
要約版の第7章「 本件問題の原因・背景分析」には、
- なぜ、法規に合致しないが構わないという意識を簡単に持ってしまうのか。
- なぜ、長年にわたって、本件問題が是正されなかったのか。
- なぜ、過去の品質関連の不祥事の際に講じた取組が功を奏さなかったのか。
- なぜ、eKワゴン/eKスペースに関して、技術的裏付けが不十分なまま燃費目標の設定がされたのか。
これらの問題の原因・背景分析が記されている。ご興味のある方にはご一読をお勧めする。
三菱自動車は本当に変わるのか
三菱自動車はこの報告書を受領した上で、「三菱自動車が自ら再発防止策を考えるにあたって骨格となるべき指針」として、以下の5項目を挙げている。
- 開発プロセスの見直し
- 屋上屋を重ねる制度、組織、取組の見直し
- 組織の閉鎖性やブラックボックス化を解消するための人事制度
- 法規の趣旨を理解すること
- 不正の発見と是正に向けた幅広い取組
F:これで三菱は変わると思いますか?
鳥:変わります。
F:本当に変わりますか。大丈夫ですか。
鳥:大丈夫です。変えていきます。それは全社員それぞれの意識、それから我々のマインドセットも変えなくちゃいけない。このままでは我々は本当に生き残れない。それは自分たちのためだけはなく、お客様に対しても同じことです。我々はお客様のためにも生き残らなくちゃならない。
それから若い社員に対しても。我々の年代はまだ良いけれど、三菱自動車を慕って、ウチを信じて入ってくれた若い人たちに、そんな悪いままの会社にして残すことになったら、それは申し訳が立ちません。三菱というブランドにしろ、お客様にしろ、企業のサステナビリティーに関して、責任を持ってやらなくちゃいけない。正しい企業体質にして、これから末永くお客様と一緒にずっと長く続けていく会社にしなくちゃいけない。
F:一連の騒動があって、これこれこのように変えていきますと高らかな宣言があって、それから三菱自動車は変わりましたか?鳥居さんからご覧になってどうですか?
鳥:変わりつつあります。もうすでに大きく変わっている部分もあります。これは31項目の中で、国交省に報告していることですが、例えば人を代えたり、組織を変えたりという、即効性のある話と、新しい仕組みを作って、それをみんなで遵守して行きましょう、その成果は3カ月ごと、あるいは半期ごとにモニターして行きましょうとか、そういうことをやっています
F:なるほど。そのモニターは誰がするのですか?
鳥:自分たちです。
F:自分たち。三菱自動車の人ですか。
鳥:それに対しては当然監査も入ります。
F:毎月国交省の人が立入検査に来るとか、そういうことはないのですか?
鳥:毎月ではないのですが、3カ月に1回、報告に行きますね。
F:それは誰が行くのですか?
鳥:前回は益子(修)さんと山下(光彦)さん。社長と副社長が揃って行きました。
F:ひゃあ。社長と副社長が自ら国交省に出向くのですか。
話はいよいよディープになってまいりました。そろそろ会社に行く時間なので、今回はこれでお終いです。それではみなさままた来週。
その後も、お役所体質でしたでしょうか?
こんにちは。担当編集Y崎です。前回の本コラムの記事に関して、三菱自動車の方から下記のようなご連絡をいただきました。フェルさんが同記事で触れた取材までの経緯に関するものです。同社の担当者と相談の上、以下に全文を掲載させていただくことにしました。
「フェルさんの3月のお申し込みについては、燃費不正問題の全容は車種担当のいちエンジニアでは説明しきれない、再発防止・社内改革を含めた燃費不正問題に関する説明会を後に控えていた時期であり、この時点では不十分な内容にとどまることになるため辞退させて頂きたい、きちんとご説明できる段階までお待ち頂けるのであれば、延期とさせて頂きたい旨を申し上げました。また、アウトランダーPHEVを紹介頂ける機会を失ったことに未練はありませんでした。
6月のお申し込みでは、当初、アウトランダーPHEVについては含まれておらず、最初から鳥居をご指名でした。私どもは企画書から企業統治や経営戦略といった部分まで説明を求められていると受け止め、本部長クラスではなく、開発・品質担当の副社長である山下で調整させて頂きたい旨の回答をしました。
アウトランダーPHEVは、仕切り直しにより鳥居で取材することとなった後に出てきた話であり無関係です。また、多田氏がヤマグチ様に鳥居を推薦したタイミングが、事実と異なります。さらに申し上げるなら、こういった経緯はご説明頂くまでもなく、鳥居は多田氏から聞いておりました。
燃費不正問題の後、再発防止と信頼回復に向けて真摯に取り組んできたつもりです。最初のご連絡の際、試乗会期間中であり留守中に対応した担当者が十分な確認をしないままお話が進んでいたため、後に企画書だけでなく想定されるご質問を頂くよう指示したのは事実です。
慎重になりすぎたことが誤解を生んだかもしれませんが、その後は信頼し、心を開いて、対応させて頂いてきたつもりです。その後も、お役所体質でしたでしょうか?」
担当編集としては、いろいろな行き違いがあったものの、「その後」は、三菱自動車の広報の方は取材を実現するために力を尽くして対応していただいたと感じています。それではフェルさんと鳥居さんのお話の続きは、次週までお待ちください。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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