「全てのクルマは血肉を分けた自分の子供」、とサラリと言ってのける章男社長。
 だから全社が一丸となり、受賞に向けて一台のクルマに“のみ”集中して応援するカー・オブ・ザ・イヤーには多少の違和感を覚えるのだと言う。

 無論受賞すること自体は目出度いし、賞そのものはリスペクトする。だが会社として、「一台のクルマ」だけを取り上げて大騒ぎするのは如何なものか。少なくともトヨタの社内では、違う方法で社員のモチベーションを上げていく方法は無いものか。もっとフェアに、もっとイコールにクルマと向き合いたい。

 トヨタ・豊田章男社長インタビュー第三弾。今回は章男社長が編み出した“妙手”の話から始めよう。

社員投票で決めるトヨタ・アワードに加えて「モリゾウ賞」

「最初のモリゾウ賞はタクシーに使われるコンフォート。次の年はカムリ。ハイエースも受賞しています」

豊田社長(以下、豊):トヨタの開発者にとっても、全てのクルマに対してそれぞれの思い入れがある。自分にとっては全部大切な子供です。だからそこにはフェアに、うんとフェアに向き合わなければいけない。そのためにはカー・オブ・ザ・イヤーとは別に、社内でモチベーションを上げる方法を考えました。

F:それはどのような?

:トヨタ・アワードという社内の賞を作りました。

F:トヨタ・アワード、ですか?

:そう。トヨタ・アワード。言うなれば社内のカー・オブ・ザ・イヤーです。始めたのはもう5年ほど前になりますかね。去年はMIRAIが取りました。従業員の投票により選出されます。

F:アワードのクルマは社外にも発表するのですか?

:あれはどうだっけ?発表という形にしていた?

広報室長:社外的にですか?社内報に載せて、皆さんにもお配りするという形にしています。別に隠している訳ではありませんが、積極的にPRしているという姿勢でもありません。

:そしてトヨタ・アワードの中には別枠でモリゾウ賞というのが有ります。トヨタ・アワードは社員みんなの投票だけど、モリゾウ賞はモリゾウが一人で選んじゃう。

モリゾウとは章男社長がレース活動を行う際に使われている名前だ。

トヨタ自動車の社長である“豊田章男”と、レーシングドライバーの“モリゾウ”は完全に別人格という建付けになっている。まあ物書きのフェルディナント・ヤマグチと、しがないサラリーマンの山口某みたいなものでしょうか。え?スケールが違う?

因みにモリゾウ名義のブログも有るのだが、こちらは4カ月も更新されておらず、現在は開店休業のご様子。

:初代のモリゾウ賞はタクシーに使われるコンフォート。次の年はカムリだったかな。

栄えある初代モリゾウ賞を受賞したコンフォート

広報室長:ハイエースも取りましたね。

:ハイエースはもうちょっと後。長期間に渡って確実に売れ続けてきたロングセラー商品としての立ち位置を評価しました。カー・オブ・ザ・イヤーはもちろんクルマから選ばれるのだけど、ウチの社内でやる賞にはその縛りがない。エンジン単体を選んだりもするし、ビジネスの手法が取る事もある。

 86が出た時は車両がトヨタ・アワードを取りましたが、モリゾウ賞ではマーケティング施策が評価された。いろいろな試乗会の方法を試してみたり、ワンメイクレースやってみたり、コマーシャルも変わった物を打ってみたり。86ではいろいろ面白いことをやってくれましたからね。いろいろ変えてくれた。だから“チーム”を評価しました。

F:チームを。

:そう。チームを。クルマはチームで作りますから。チーフエンジニアだけではなく、チーフエンジニアを支えている全ての人、それから関連する様々な部署。そういう人達も評価されなくちゃいけない。チームなんだから。クルマは一人じゃやれないから。絶対に。

F:なるほど。

:あるときはユニット部隊、あるときはマーケティング部隊。全員でもっていいクルマを作っているんだということ。トヨタ・アワードはね、そこを見ます。そしてそれはほぼ定着してきたと思っています。