F:レース好きの社長からすると、F1撤退は正しく断腸の思いだったでしょうね。

:NUMMIだってそうです。何しろ自分のいた会社ですから。ですが会社を生き抜かせるためには止むを得ない決断でした。自分自身が恨まれるとか、自分自身の立場がどうだとかいうことに構っている余裕もなかったのだと思いますね。当時は。

F:そういうことを積み重ねてこられて、「トヨタが変わり始めた」と社長ご自身が実感されたのはいつ頃からですか。ああ、何となくトヨタは自分がイメージする会社になってきたな、と思うようになったのはいつ頃からですか。

:いや、それは今でも別に実感はしていないですけどね(笑)

F:そうですか(笑)

 と、ここまで来てボチボチ会社に行く時間……という言い訳は今回通用しませんね(笑)

 これからロスに移動しますので、そろそろ切り上げないと飛行機の時間に間に合わないのです。何しろアメリカの荷物検査はやたらと時間が掛かりますからね。早めに空港に行かないと。

 今週は速いペースで連続でお届けしようと思います。
 それではみなさまごきげんよう。

「正直に言うと、ほんとどこまでやるのって…。」

こんにちは、ADフジノです

ついに念願かなって、豊田社長のインタビューが実現できました。このような怪しげなコラムが正面きって取材の場を得られるはずもなく、いろいろとあれこれ手をつくし、尽力くださったトヨタ広報部の皆様にこの場を借りて御礼もうしあげます。

ところで、数週間前のあとがきで、日本市場にディーゼル車が増え始めている現状について書いたところ、「欧州ではディーゼルによる大気汚染が問題になっているのに、ディーゼル車を勧めて良いのか?」というご意見をいただきました(詳細はこちらから)。

たしかにディーゼル車の割合が5割を超えるというロンドンやパリなどでは、一部車両の通行制限やロードプライシングなどを実施しています。都市部の渋滞緩和や大気汚染の減少が狙いですが、その理由の1つにはディーゼル車を普及させていくなかで、ガソリン車に比べて排ガスの規制が遅れていたという事実がありました。しかし、2000年以降、欧州の排ガス規制は以下のように変遷しています。

(単位:mg/km)

近年欧州では、ディーゼルの規制が一気に進み、例えばNOx(窒素酸化物)の排出量は15年前のおよそ6分の1にまで規制され、ガソリン車とほぼ同等にまでなっています。日本でも石原都知事時代のディーゼル車の黒鉛、煤に関する問題提起を機に、ディーゼルエンジンはもとより、硫黄分を除去するなど軽油そのもののクリーン化も進み、“クリーンディーゼル”という言葉も生み出されました。

いまや日本のポスト新長期規制は、ある部分ではユーロ6以上に厳しい排ガス規制といいます。したがって、ユーロ4や5までにしか対応していない車両がまだ多く走っている欧州と、現在はポスト新長期をクリアしたディーゼル車のみが販売されている日本とを一緒くたにしてしまうのは、少し事情が異なると思います。

このタイミングでちょうどマツダがアクセラをマイナーチェンジし1.5リッターのディーゼルエンジンを搭載したモデルを設定したというので取材に行ってきました。試乗インプレッションは1.5リッターディーゼルのデミオオーナーであるY田さんの先週のコラムを参考にしていただくとして、マツダのディーゼルエンジン開発のエンジニアにインタビューすることができたので、その模様を少しお届けします。

マイナーチェンジしたアクセラ。フロントやリアバンパーの形状が変更され、モデルチェンジ前よりも洗練された印象に。目力も強くなった
エンジン性能開発部主幹の森恒寛さん

ADフジノ(以下、F) 今度のマツダのディーゼルエンジンには「ナチュラル・サウンド・スムーザー」とか「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」とか、あまり聞いたことない技術が取り込まれているようなのですが、そもそもこれは何なのですか?

森さん(以下、森) ディーゼルエンジンはノック音をはじめ音がうるさいという課題がありました。この問題を解消すればディーゼルエンジンの魅力はもっと高まる。でも、1分間に何千回転もまわっているエンジン内部で、何が要因で音が起きているか当初はわかりませんでした

:そりゃエンジン内部は見えませんよね。でも最近はセンサー類が発達しているから簡単に測定できると思いきや

:いえいえ、そうはいきません。たしかにいろいろと計測していく中で要因は、シリンダー内部ではなく、クランクシャフトでもないとか、おおよその想像はついていたんです。でも決定的な証拠が見つけられない

:それがどうして答えに辿りつけたのですか

:われわれの開発チームに、偶然にも計測技術のプロがやってきたんです。どうにかして、音の原因を見つけられないかと唸っていたら「それなら測れると思いますよ」って、本当にできてしまった(笑)。なんとエンジンが稼働状態でパーツの振動や伸縮を計測できる測定装置を作ってしまった。そして、音の原因がピストン付近の共振にあることを突き止めたんです。

ピストンの横にあるのがピストンとコンロッドをつなぐピストンピン。この内部に入っている部品が「ナチュラル・サウンド・スムーザー」。イメージとしては、ピストンピン内部で鳥の羽のように両サイドが上下に揺れて、ピストンの振動をダンパーの振動で打ち消す制振装置の役割を果たす。これにより共振レベルが最も高い3.5kHz付近の振動が、約半分の数値に下がったという。今回のマイナーチェンジで2.2リッターのディーゼルにもこの機構が搭載されている

:一方の周波数コントロールとはどういうものなんでしょうか

:ノック音が出ている要因を分析していく中で、例えばピストンやコンロッドが共振しているときに、この力の発生源をコントロールできないかと思ったわけです。ディーゼルエンジンというのは3~4回にわけて燃焼しているので、その1つ目の燃焼と2つ目の燃焼の間隔を広げると、周波数の山とか谷の出方が変化することがわかったんです。この燃焼の特性を1つ1つ紐解いていってちょうどいい場所を探しだしたというわけなんです。

:なんとも気の遠くなるような…。欧州のディーゼル車も最近は静かになってきましたけど、彼らは制振材とか防音材とかでなんとかしている気がします。こういう技術って初めて聞いた気がします

:どちらの技術もマツダが特許を申請しています。

:さすがです。スカイアクティブ以降、マツダってエンジンしかり、Gベクタリングコントロールしかり、既存技術を革新するメーカーって感じですね。ところで、ここで少しディーゼルに関する一般的な話を聞かせてください。いまやマツダは日本を代表するディーゼル乗用車メーカーです。一方でディーゼルに対してネガなイメージを抱いている方も多いと思うので、あらためてその良さを教えていただけると。

:現行のユーロ6やポスト新長期規制というのは、いまやガソリンと同等かそれ以上の厳しい規制になっています。ひと昔まえはたしかに煤の問題などもありましたが、いまやDPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)を通り抜けることはありません。それこそガソリンターボ車には、ごくわずかですがまだ煤が出ているものもあります。一方でディーゼル車でマフラーに白いハンカチをかぶせてまったく煤がつかないというデモンストレーションをやりますが、いまのディーゼル車ではそのレベルが当たり前なんです。

:そうなんだ。最新のものはそこまできれいだと。一方でCO2排出の面ではどうなんでしょうか

:CO2は燃焼効率の問題なので、ガソリンと比べてディーゼルのほうが明らかに少ないです。燃費だっていい。日本車では軽油が安いですから経済的なメリットもあります

:例えばDPFの耐用年数はどうなんですか? 10年10万kmくらいは保証されるのでしょうか

:その程度では壊れるようなことはありません。いま細かな数字は手元にありませんが、その倍の20万km以上の走行テストをして性能確認をしています。ちなみに先ほどのナチュラルサウンドスムーザーも、永年保証です

:いま欧州車が尿素SCRやNOx吸蔵還元触媒などを使って、排ガスをクリーンにしている中でマツダだけがデバイスに頼らず圧縮比をさげて規制をクリアしていますが、
今後はどうなっていくのでしょうか

:そうですね、PMには触媒(DPF)を使っていますが、世界一の低圧縮エンジンができたことでデバイスに頼ることなくNOxをクリアすることができました。例えばSCRなどを使うと、それだけで数十万円というコストがかかります。お客様の手元にわたるときにはそれなりの額になってしまう。それでは皆さんに買っていただけないので意味がない。この低圧縮の技術があれば、例えばもっと大排気量でハイパワーなものを作りたいとなっても役に立ちます。そのときにはそういった先の後処置技術の組み合わせも含めて考えていこうと思っています。

:今後はどんどんEV化が進むから、内燃機関の未来は明るくないんじゃないかという声もありますが、それについてはどう思われますか?

:うちは会社の偉い人たちがよくそう言ってますけど(笑)、電池を作ることにだって燃料は必要なわけです。そこからちゃんと効率を比べて見るべきですよねと。もちろん将来的にEVは増えるとは思いますが、でも数年でガラッと変わるものでもなく、内燃機関の効率を高めていくことにだってまだまだ可能性があります。

:確かに人見さん(現常務執行役員、スカイアクティブエンジンの父)もそうおっしゃってました。コロンブスの卵というか、いまのマツダの技術開発には驚かされることが多い。

:いや、ほんといまは、フルモデルチェンジのタイミングで入れるような技術を出し惜しみしないで、できたものはその都度どんどん市場投入しています。正直に言うと、ほんとどこまでやるのって…。

:既存技術の革命児として、今後も大いに期待してます(笑)