頭に「もっと」がつくと、終わりがなくなる

F:それでようやく顧客の方を向くようになった、ということでしょうか。

:いや、今までも顧客の方は向いていますよ。向いていたのだけれど、より向くようになったと言うか……。これはどうなんだろう。会社の中にいると、見えにくい部分もあるので。

F:大変ご無礼を申し上げますが、外から見ていると、今までは余り客の方を向いていなかったように思います。もちろんトヨタのマーケティング部はしっかりしているし、国内の販売店が強いからお客の声は吸い上げていたのでしょうけれども。

何というか、姿勢として。会社の姿勢として客の方を向いていないという印象がありました。

:フェルさんがそう言うなら、今までは向いてなかったんですよ、きっと。

F:それがここ何年かでググッと変わってきた感じがします。風通しが良くなって来たというのかな。広報もガタガタ細かいことを言わなくなったし(笑)

広報:有田さん:(無言で俯く)………。

F:前はうるさかったんだ。もう意地悪な姑みたいに、あれはダメこれもダメと(笑)

広報:有田さん:……ヤメテクダサイ……(小声で)

:中でいろいろ葛藤があったのは事実だと思います。お客様の方を向きたいけれど、向き切れていないという部分は確かに有りました。そうした部分が全て無くなったとは言いません。ですが、「こっちの方向を向いていけばいいんだよ」、と示してくれたのが社長じゃないのかなという風に僕は思っています。

F:なるほど。

:社長の言う「いいクルマ作り」って、前に「もっと」が付くんです。私は前に、その「もっと」が付く理由を聞いたんです。そうしたら、単に「いいクルマ」と言ったら、「いいクルマ」をつくったらもうそれで終わりじゃないか、と。でも「もっといいクルマ」と言えば、それは永遠に続くだろうと。

F:クルマ作りにゴールは無い、と。永遠に走り続けろと。

:そう。ゴールは有りません。永遠に続く。ウチでよく言われるのは「改善後は改善前だ」と言うことです。あるクルマが出来ても、そこをベースに次を改善するんだよねと。これがトヨタ自動車の昔からの姿勢です。それを端的に言い表しているのが「もっといいクルマづくり」というものかなと自分なりに思っています。

「プリウスがなんぼのモンじゃい」

F:なんか無茶をする昔の体育会みたいじゃないですか。お前ら倒れるまで走れ、死ぬまでやれ、みたいな。

:いや、それは違う。僕が、例えばTNGAで性能を少し背伸びして、無理をして頑張った。そうすると、そこがもう既に会社の中では出発点になっている訳じゃないですか。すると同じTNGAでやる次のカローラの人たちがどう考えるか。間違いなくプリウスを超えようとして来る訳です。絶対に。

 何しろ「もっと」が有りますから、次に続く人たちは絶対にプリウスを超えてやろうと思ってやっている。カローラってセグメントで言ったらプリウスよりも下ですよ。別にカローラはプリウスじゃなくてもいいよねと思うのが当たり前じゃないですか。でも今、横でカローラをやっていますけど、カローラのスタッフたちはハッキリと「絶対プリウスを超える」と言っています。「もっといいクルマ作る」、の「もっと」の部分が効いているんです。

F:プリウスがなんぼのモンじゃい、と。いま豊島さんが仰った、「少し背伸びする」という、一回は倒れるまで走ってみるという事は、大事なことなのかも知れませんね。

:大事だと思いますね。ずっと無理すると壊れてしまうけれど、ある時期を徹底的にやるというのは大切だと思いますけどね。

F:「もっと良いクルマを作ろう」か。しかしプリウスにはそんな秘密が隠されていたんですね。勉強になりました。

「プリウスはもっと静かな方がいいよね」

:今までは精神だけでやって来たのですが、今は実際にプロダクトとしてプリウスが世の中に出て、そのフィードバックを頂いている状態にあります。今まで僕らが考えていたものが、本当に正しかったかどうかが、今まさに試されている所なんです。それは良い部分も返ってきていますし、悪い部分も返って来る。

F:プリウスの悪い部分ってどこですか。個性的なデザインで、カッコが良いとか悪いとかは良くよく議論になりますが、それは好き嫌いの問題ですからね。

:悪い部分というのとアレなのですが、例えばプリウスはもっと静かな方がいいよね、という声を頂いています。

F:もう良いじゃないですか。十分静かですよ。穴まで埋めて遮音しているのに。そんなに静かなのが良いのなら、レクサスのLSでも乗っとけという話じゃないですか。ぜいたく言うなと。

:やっぱりお客さんは受け取ったものがすぐに普通になりますので。そうすると、やはり次にこれが欲しいとか、こういう方が良いよねという声は必ず上がってきます。我々はそれを聞くことを本当に楽しみにしています。

F:楽しいですか。これだけやっているのに、もういい加減にしてくんない?とか思いませんか?

:いやいや、思いません(苦笑)。本当に楽しいです。だいたいエンジニアの苦労なんて、お客さんには何の関係も有りませんから(笑)。お客さんは受け取った製品が全てですから。

 お客さんは、自分たちも思っている通りのことを言って下さる部分もありますし、えー、そこ? という事もあります。お客様の声には何としても応えたい。それが技術者の魂です。モノを作る者の心です。

F:なるほど。