「自分の仕事は剪定を行う庭師みたいなもの」

:そう。助かりました。そういう言葉をみんなの前で言ってもらったお陰で、その考え方は社内に広まって行きますから。今までだったら工場だけの効率、作るだけの効率が優先されたんです。そうじゃないよねと。客さんが一番喜ぶ姿はこうだよねという想いが共有できるようになりました。

 そうすれば、一緒になって考えられる。部署が違っても、目指す所が同じですから。今までだったら、「そんな複雑な作業はできねえよ」で終わっていたんです。

F:先ほどの穴埋め一つにしても。こういうのができませんか、と言ってみても。

:うん。穴を埋めたいと言っても、「そんな作業はできねえ」みたいな。

F:現場からすればそうなりますよね。何百もある穴を片端から塞げだなんて、フザケンナと。

:ところが「できねえよ」が「それじゃ一丁やってみるか」に変わってきた。ここをこうしたら早く出来るぞ、いやいやこうした方がもっと効率が良いぞと議論が始まった。

F:トヨタという会社は、章男さんが社長になってから変わった感じがしますか?文化的にと言うのかな。働いていてどうですか。私は外部から見ていると、本当に大きく変わったと感じているのですが。

: いや、実際に変わりましたよ。間違いなく変わっていると思う。社長の言う「もっと良いクルマ造り」という最初のキーワードが有り、そこからTNGAが生まれ、本当に良いクルマを作ろうや、とみんなが一緒に考えるようになった。垣根が取れて会社としての一体感がすごく出るようになった。僕らは「チームプリウス」と言うんですけれど、プリウスをやっている人は3000人ぐらいいて。

F:3000人?3000人ですか。そんなに大勢のスタッフが居るのですか?これはもう一つの会社の規模じゃないですか!

:うん。3000人くらいいます。

F:開発責任者として、チームを仕切るのも大変だ……。

:プリウスというクルマのDNAはとても明確じゃないですか。

F:世界一の燃費。ハイブリッドの盟主。トヨタの金看板。

:そうそう。他の車種だと、ちょっと分かり難いクルマって有るけれどもプリウスは明確です。とても分かり易い。フェルさんの言う通り、まず燃費が来る。だからチームは放っておいても燃費を上げてくれる方向でみんな仕事をしてくれる。ラクといえばラクなんです。幹が決まっていますからね。それに対して、じゃあどういう枝葉にしていくかと。

F:やれドライバビリティだ、居住性だ、デザインだ、と言ってくれる。

:言ってくれます(笑)。言ってくれたところをこうやって裁断するのが僕の役目です。伸ばしたいところは伸ばしていく。切るべき所はチョキチョキ切って行く。プリウスの木というのはそういう風に出来ているんです。

 でもみんなは基本、自分の枝葉は伸ばす方向でガーッと進んで行きますよね。だから切っても切ってもまた違ったところから枝葉が出てくるようになる。

F:そりゃそうですよね。みんな自分がやっているセクションの主張はしたい。少しでも自分の息吹をプリウスに吹き込みたいと思う。その塩梅が難しい所ですね。

:それが出来るようになったのは、やっぱり社長の、「もっと良いクルマを作ろう」という掛け声のお陰だと思います。