みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
8月6日に下北沢B&Bで開催されたcakes連載「フェル先生のさわやか人生相談」の連載200回突破記念トークイベント、無事にしゃべり倒して参りました。ご来場いただいたみなさま。お楽しみいただけましたでしょうか?
肉食系代表の不肖フェルと、草食系代表の林さんがタッグを組んでお届けした異色のトークイベント。そもそも林さんが本当に草食かどうか。これはあくまで自称であり、科学的な検証は一切なされていない訳ですが、まあそこはそれ。ご本人の主張を尊重しましょう(笑)。
ご来場いただいたお客様は、ざっと見渡したところ女性比率が7割くらい。当「走りながら考える」のイベントを開きますと、95%がオッサ……いえあの中高年男性という碁会所のような集会になるわけですが、さすがは女性読者が多いcakesです。今回は圧倒的に女性が(しかもかなりの美人さんが)多かった。会場からのお悩み相談も艶っぽいものが多く、演者の方も十分に楽しませていただきました。
しかしみなさんホレたハレたでお悩みなんですなぁ。切った張ったの殺伐とした日々を送る私としては、心休まる一時でございました。
この3連休は沖縄に来ております。8月末にトライアスロンの大会が控えておりますので、トレーニングのために国道58号線を単独ロングライドに出かけたら、まさかのパンク。モタモタと修理していると、真紅のMINIに乗った青年が寄って来た。そして「大丈夫ですか?ポンプがありますから良かったら使って下さい」と、ありがたいお申し出。
地獄で仏とはこのことです。「ありがとうございます。お借りします」と礼を述べ、再び作業に取り掛かるも、何しろ不慣れなもので手際が悪い。見かねたMINIの青年、「こうやるんですよ」とタイヤを取り、チャチャッと交換して下さった。
地獄で仏。パンクで往生していると、真っ赤なMINIに乗った親切な青年が助けて下さいました。
ものの2分で修理完了です。お見事。あまりの手際の良さに、「凄いですね。自転車屋さんで働いているのですか?」とたずねると、「あの……一応ボク、ロードの選手なんです」と。もしやご高名な方なのでは、とご尊名を尋ねると、「内間康平です」と。
ウ、ウチマコウヘイ!リオ五輪に出場したオリンピアンじゃおまへんか!
大変ご無礼いたしました。オリンピック選手にタイヤ交換をして頂いた上に、自転車屋の兄ちゃん呼ばわりまでしてしまいました。ここでイッキにMINIのユーザーインタビューも……とスケベ心を出したのですが、あいにく内間選手のMINIは前モデルなのでした。
地獄で仏の仏様は、誰あろうオリンピアンの内間康平選手その人なのでありました。愛車はMINIのRです。修理が済むと「それじゃこれで」とサッと手を上げて颯爽と走り去って行きました。カッコ良すぎです。
クルマを売らないジーニアスとは
さてさて、それでは本編へと参りましょう。MINIのインポーターインタビュー第二弾。MINIディビジョン プロダクト・マーケティングマネジャーの生野逸臣さんと製品広報マネージャーの前田雅彦さんのインタビューの続編です。
前号では、MINIの販売店で、「ジーニアス」なる職種が設置されはじめた所までお伝えした。ジーニアスとはどのような仕事なのか。MINIは何のためにこの職種を設けたのか。
フェルディナント(以下、F):ジーニアス。直訳すれば「天才」という意味ですが、その人たちは販売店にいるわけですか?
前田(以下、前):販売店にいます。彼らは営業マンのようにスーツを着てお客さまをお待ちするのではなく、ポロシャツを着て、ある程度ラフな格好でお待ちさせていただいています。お客様が来店されたら、まずはそのジーニアスの者が対応させていただく。そして純粋にクルマの話だけをする訳です。
F:純粋にクルマの話だけをする……。
前:そう。彼らはクルマに関するプロフェッショナルです。ですが、販売することはしません。逆にいうと、売るための知識はまったくない。ゼロなんです。
F:販売の知識がゼロの人が、店に来た客の最初の対応をするのですか。
前:そうです。彼らにはクルマを売る知識もなければ、そもそも売ることが仕事ではない。お店に来るお客様は、少なからず「行ったら買わされるんじゃないか」みたいな恐怖心をお持ちですよね。我々としては、それを払拭していきたいんです。そのために、営業活動を一切しない人間を店に配置している訳です。
F:それは良いですね。だってお店に行ったが最後。ハンコを押すまで帰してくれないんじゃないか。ムリヤリ買わされるんじゃないか。アンケート用紙に住所を書いたら、家に押し掛けて来るんじゃないか、電話がバンバンかかってくるんじゃないか……このような恐怖心は間違いなくありますから。
マンちゃん:フェルさんそれは極端ですよ。いまどきそんなディーラーはないですよ(笑)。
F:いやいや、まだあるって。国産のディーラーとか、今でも根性を付けさせるためにやってるって。前に世田谷通り沿いの某ディーラーで試乗したら、翌日には営業マンが花と洗剤を持って、「これは奥様に」って家に来たもの。ノーアポで(笑)。
マンちゃん:花と洗剤……(笑)。
F:花とワインじゃなくて花と洗剤。そこが妙にリアルでしょう(笑)。向こうはサービスのつもりなんだろうけど、完全に逆効果です。こんなセンスの人とは絶対に付き合いたくないと思ってしまいますもの。しかし「絶対に営業活動をしない」という人が店にいるのはとても良いですよね。良いけれども宣伝不足。私はMINIのお店にそんな人がいるなんて、今日初めて聞きましたもの。せっかくそういう仕組みを作っていても、客が知らなければいないのと一緒です。
前:ですからフェルさんにはぜひアチコチで言って回ってもらいたいな、と(笑)。
当コラムの読者の中で、この「ジーニアス」なる制度をご存じの方はどれくらいおられるのだろう。セールス抜きで純粋にクルマの話だけができるそうです。私は全く知りませんでした。
F:どのような人がジーニアスになるのですか?希望者を募っている?
生野(以下、生):希望者もそうですが、ディーラーさんの方で適性を見て。メカニックだった人がなったり、サービスの人がなったりと様々です。また本当にクルマが好きで、その職種で外部から応募されてくる方もいらっしゃいます。
F:面白いなぁ。これはいつからやっているのですか?
生:2015年からです。いまMINIのディーラーは全国で60社ほどあるのですが、ジーニアスのいるディーラーは40社です。およそ3分の2になります。
やるかやらないかはディーラーの自由
F:お客にとっては実にめでたい話ですが、ディーラーとしては完全なコスト部門ですものね。これをやるやらないはディーラーの自由ですか。
生:我々としては、今後もっと積極的に増やしていこうとしています。ですがディーラーさんに対する強制力はありませんので、そこのご判断はディーラーさんのご意志になります。
前:フェルさんの言う通り、採用すると人件費も発生しますので。何だかんだいって、労務費等々も込みでいったら、年間500万円じゃたぶん収まらないでしょうし。2人入れたら1000万円になっちゃいますから、なかなか……。
F:ディーラーとしてはなかなか踏み出せない。人件費を掛けた分、ちゃんと売れるのか、となるとね。しかしこれ。どうせ行くならジーニアスのいる店に絶対行きたいですよね。MINIの話だけして帰ってきちゃっても良い訳でしょう?
前:もちろんです。そのためのジーニアスです。お客さまが「具体的に値段の話をしたいのだけど」とおっしゃったら、その段階で初めてセールスを呼ぶ訳です。
F:これは良い。本当に良い。そもそもMINIのお店って、カッコは良いけど、何となく入り辛い印象があるもの。黒基調でカッコは良いんだけど。ブラっと入る雰囲気じゃない。
生:今はもう怖くありません。安心してブラっと話だけしに来ていただければと(笑)。
F:宣伝不足だなぁ。もったいない。前田さん、これは明らかに宣伝不足ですよ。なっとらんな(笑)。
前:申し訳ない。フェルさん宣伝お願いします(苦笑)。
F:いまMINIはどれくらい売れているのですか?
生:年間で2万5000台弱です。8年連続で増加しています。BMWが5万台くらい。
F:BMWとMINIを合わせると7万5000台。これ(メルセデス・)ベンツやフォルクスワーゲン(VW)よりも多いですよね。インポーター一法人としては日本一じゃないですか。
生:一法人としてそうなりますね。販売台数ということでお話しすると、MINIはアウディさんと拮抗しています。今年半期、6月まで1000台差とかそのぐらいです。まだちょっとアウディさんの方が多い。
F:日本ではMINIとアウディがほぼほぼ同じ台数売れている。へー。
前:車種別で言うと、去年は初めてVWのゴルフを抜きました。ゴルフが、今まで、JAIA(日本自動車輸入組合)の発表している車名別の輸入車ナンバーワンだったんです。去年初めてMINIがそれを抜いて、車名別でトップになりました。今の1~6月の数字を見ても、まだトップを維持しています。
F:ほー。車種別ではついに王者ゴルフを抜いた。勢いありますね。いまMINIはBMWの傘下になってから第三世代に当たります。前の世代と比べると、クルマ自体はどれくらい変わっているんですか?
生:何もかも違います。プラットフォームも新設計ですし、エンジンも新しい。
前:ウチはクルマを社内コードで呼ぶのですが、前までのMINIはローバー時代の「R」を引きずっていて、「Rナントカ」というモデルコードだったんですね。社内では「Rの何々」って言っていたんです。それがこの3代目からは「F」に変わったんです。「Rナントカ」が「Fナントカ」と呼ぶようになった。それがここへ来て、クラブマンとクロスオーバーもFの世代になったので、これでもう本当に全部きれいに新しくなったという訳です。今のMINIは全てが新しい、新世代のクルマです。
生:それに伴ってCI(コーポレート・アイデンティティー)も変えています。今までのMINIのお店は、黒が基調で、ネオン感のある、ちょっとクラブっぽい感じでした。今はもっとしっとりと、お台場のMINIのショールームが最新なんですが、ちょっと大人なイメージを出して、カタログも白を基調に変えています。ロゴも2Dに変更しました。
ロゴのデザインも3Dから2Dに変わった
F:うーん気が付かなかった……。お恥ずかしい。なるほど。言われてみれば。
生:前のは、ちょっと光が当たって、ギラっと輝いているような、ああいう感じのロゴのデザインでした。それを今はこの2Dのものに変えています。
F:はー……。
生:実はこれ、デザインの世界では世界的な潮流なんですよ。グーグルも3Dのロゴだったのを、今2Dにしましたよね。スマホのアイコンなんかが最たる例です。昔のアプリのアイコンって立体的でしたよね、浮き上がって見えるような。それがいま、アップデートするとみんな平面になっています。
F:ほー……。
前:MINIも、お店でクルマのライトアップを見直して、高級感のあるMINIのラインナップをつくりつつも、ブランド自体のCIを変えて、お店の雰囲気を変えていっているんです。MINIのカタログ一つとっても、前のと今のとでは雰囲気がぜんぜん違います。前はニューヨークの夜の写真だったり、ロンドンの夜の街だったり、といった写真が多かったんですけれども、今はもう光の中、明るい中で、トーンが全然違います。
F:カタログも全取っ替えした?
前:そうです。ぜんぶ新しいデザインに変えました。
F:おカネかかりますね。古いのがきれいサッパリはけてから入れ替えられるわけじゃ無いだろうし……。
前:ええ、それはまあ結構なコストです……。ディーラーさんにご負担もお願いするわけですし。
F:え?カタログってディーラーが買うんですか?タダじゃないの?
前:タダじゃありません。我々が作って、ディーラーさんに買っていただくんです。
F:げー!
前:これはウチだけじゃなくて、どこのインポーターでも同じことです。というか、国産のメーカーさんも同じことです。ディーラーさんに買っていただくんです。
F:で、デザインを変えるから前のは全部捨ててね、と。
前:捨ててねとは言いません。それをご利用になるかどうかは、それぞれのディーラーさんのご判断です。
F:それじゃお店のデザインを、クラブっぽいものからシックなものに変更していくというのも……。
生:ジーニアスにしても、お店のデザインにしても、我々に強制力はありません。「こうしていきましょう」とご提案する立場です。でも、それは変えていかないとですね……。
F:え?どうなるんですか?変えていかないとどうなるの?
生:お店もカタログも変えていかないと……
と、いいところで時間切れです。今回のインタビューは2回で終わるつもりだったのですが、テープ起こしを読み返してみると、まだまだお伝えしたいことがゴッソリ残っていました。
お話は次号に続きます。お盆休みをはさんで延び延びになってしまいますが(本稿は入稿して10日後に掲載される長期熟成品です(笑))、どうか気長にお待ちくださいませ。
それではみなさまごきげんよう。
クラシックMINIってどういうクルマだった?
こんにちは。AD高橋です。
BMWが手掛ける現代版MINIは、クラシックMINIをモチーフにしたプレミアムブランドという位置付けに。ではクラシックMINIとはどのようなクルマだったのでしょう。
1956年に勃発したスエズ危機でヨーロッパへの石油の供給が減少し、人々は燃費のいいクルマを求めるようになります。そして1959年に登場したのがモーリス・MINI・マイナーとオースチン・セブンでした。
1962年には、F1でコンストラクターズ・チャンピオンに輝いたクーパー・カー・カンパニーが手掛けたオースチン・MINI・クーパー、モーリス・MINI・クーパーが登場。そしてMINIはモンテカルロ・ラリーにおいて、1964年から68年まで4年連続優勝を果たします。
クラシックMINIは、デビューから生産終了となる2000年10月までに製造する会社が複数回変わっています。1959年の発売開始時はBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)、1968年にはBMCがレイランド・モーターズと合併し、BLMC(ブリティッシュ・レイランド・モーター・カンパニー)となります。1982年にはメーカーがオースチン・ローバーに変更、そして1989年にはローバー・カーズとなりました。
クラシックMINIは日本での人気が群を抜いて高く、モデル末期は製造されたミニの多くが日本に入ってきていたと言われています。そしてクラシックMINIは現在でも人気。MINIを専門に扱う中古車販売店もたくさんあります。
ただ、製造中止になってからかなりの年月が経ち、状態のいいMINIが市場に出てくることが少なくなりました。そのため、クラシックMINIの中古車相場はかなり上がってきています。これが値落ちに転じることはほぼないと思われるので、「いつかクラシックMINIに乗ってみたい」と考えている人はなるべく早くその夢を実現させることをお勧めします。
ちなみにMINIのディーラーにいるジーニアスの方々は、BMWのMINIに関することはもちろん、お客さんからこのような「MINIの歴史」について聞かれることも多いそうです。こういう質問にもしっかり答える。すごいですよね。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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