あれが欲しいこれも必要と、アレコレ積み重ねていく内に、収拾がつかなくなってしまった4代目プリウス。官庁のようにビシっと統制の取れたイメージの有るトヨタの内部で、しかも世界に冠たる“あの”プリウスの開発で、かような混乱が生じていたとは驚きだ。

 前任者から引き継いだ段階では、まさしく“大炎上”の状態だったプリウスの開発。「火消し」から始まった豊島さんの大仕事は、はてさてどのように進められて行ったのか。

「メチャクチャなお願いです。自分でもそう思います」

「結局、軽くするつもりだった車両重量は、元の重さに戻りました」

豊島さん(以下、豊):前任者からプリウス開発のバトンを受け取ってから、それこそ謝罪の毎日です。あちこちから「豊島呼んでこい!」の声が上がり、その部署に出かけては、いやいやどーもスミマセンと頭を下げる。

 でも、謝ってばかりじゃダメですよね。それだけじゃ仕事は進まない。だからなぜモメているのか、どうして炎上しているのかを考えました。もともと4代目のプリウスは、「軽量化をこれだけやります」と約束をして始めた訳です。それで合意を得て、その上でみなさんに仕事をしてもらっていたんです。でもそれができませんでしたと。だからモメる訳です。

F:なるほど。

:さっき言ったカバーレンジの話。先代のプリウスは、このくらいの重さでしたと。で、新しいのは前よりもあれを付けたいこれも付けたい、この部分はもっと強化したいとやっていくと、どんどん重くなっていくわけです。クルマは放っておくと重くなります。いろんな機能を付けたくなるから。

 でもプリウスは燃費のクルマです。装備や走りも大事ですが、やはり車重は軽くしなくちゃならん。新しいプリウスは前のより軽くしますと最初は言っていたのに、どうしても軽く出来なかった。クルマの設計をしていく時、すべての基本になるのは質量です。エンジンも足回りも、どこでどうやって線を引くか、全ては質量で決まる。

 で、今までは前モデルよりも軽くなるはずで全部計画をしていましたと。強化も含めて全部やっていましたと。そこを根本からやり直そうと言うのですから……。

F:そりゃモメますよね……炎上するのも当然です。で、結局新しいプリウスは前のよりも重くなってしまった訳ですか。それとも謝って謝って謝り倒して軽くなった?

:そのどちらでもありません。元の重さに戻っただけです。

F:なるほど。ですがパワートレインの担当の方は、前のよりも軽くなるつもりで計画されていた。ということは、豊島さんがバトンを受け取ってからは、よりハイパワーなユニットを要求したということですね。より重い質量に対応できるよう。例えば1トンのつもりで開発していたはずだったのが、結局1.2トンになるのですから。

:結局1.2トンになりました、となると燃費は出ないですよ。でもプリウスの場合、燃費は譲れない。燃費は絶対に譲れないんです。それにパワーも基本は譲らないですね。だから最初にニギッた通りにやってよと。パワーも含めて、事前に決めてあった条件をすべて譲らないまま、燃費をよくしたいからカバーレンジを広げてねと。

F:それで重さは増えるんでヨロシクと。メチャクチャなお願いじゃないですか。

:メチャクチャなお願いです。自分でもそう思います。でもそれを笑いながら言えるのが僕だったんでしょうね、きっと(笑)

F:怒りますよねぇ、普通は。

:怒っていましたねぇ。みんな。