「当時、プリウスの開発は“大炎上”していました」
F:どうして自分なのかと聞かれましたか?
豊:うん、それは後で聞きました。どうして僕がプリウスなのかと聞きに行った。そうしたら、「新しい血を入れたいからだ」と言われました。
F:新しい血。それはつまり、ハイブリッド畑を歩いて来なかった、先入観の無い人に任せたかったという事でしょうか。
豊:僕に期待されたことは、プリウスのリセットをすることです。だからまずはじめに僕がやったのは、プチッとリセットボタンを押すことでした。
F:プリウスのリセット。それは初代から3代目までのプリウスを引きずるな、或いは否定しろ、という意味でしょうか。まったく新しい仕組みのハイブリッドをやれ、と。
豊:いや、違うんです。この4代目。新型のプリウスには、既に企画の種があったんです。4代目には前任の開発責任者がいて、もう種が蒔かれていた。蒔かれていて、そしてそれが大炎上していた。
F:大炎上……。
豊:新しいプリウスには、TNGAという新しいプラットフォームが採用されました。これは剛性を上げ、操縦性能を高め、衝突安全性も向上するという、これからのトヨタのクルマの基礎となる、まったく新しいタイプの、完全に新設計のプラットフォームです。
F:TNGA。名前はビミョー過ぎますが、社運を賭した、大変な力作であると聞いています。
豊:新しいプリウスは、あれもやりたい、これも入れよう、と期待とともに、どんどん膨らんでいってしまった。だけどその一方で、それにかかわるお金、質量がありますよね。乗り心地を良くしたい、操縦性能を上げたい。でもそれらを全部飲み込んでいくと、クルマの質量、つまり重さは、どんどん増えていってしまう。
クルマの質量は軽くしなければいけません。でも燃費は、もっともっと良くしなければならない。クルマを良くしたい、すると重くなる。燃費を良くしたい、それじゃ軽くしよう。さらにコストの問題もある。基本的に重くなればコストは上がります。
F:あちらを立てればこちらが立たず……まさしく炎上寸前。
豊:炎上寸前じゃなくて、もう既に炎上していました。いろんな意味で、このクルマもう成り立たないよねと。そんな時に僕に話が来て……。だから最初は火消し役です。こいつなら炎上の現場に突っ込んでも倒れないだろう、みたいな(笑)
「最初の3カ月間は、ずっと頭を下げに行くだけの仕事でした」
F:なるほど、こうなるとデストロイヤー豊島の面目躍如だ(笑)。つまりプリウスの開発責任者拝命は、豊島さんのタフさを買われたと。
豊:たぶんそうですね。ネガティブ、ポジティブで言うと、自分はポジティブですから。血液型がB型なので。B型って基本的には臆病ですが、イヤなことが有っても、すぐにスッと忘れるでしょう。
F:私もB型なんですけど……。
担当編集Y田:えぇ!フェルさん、あんたB型!
ADフジノ:どうりで……
F:B型牡牛座二黒土星。誕生石はダイヤモンドです。それが何か。
豊:やっぱりフェルさんもB型ですか。B型は忘れますよ。忘れるので、たぶんこの炎上もこいつならなんとか収められるんじゃないかと思われたのかな、という気がします。リセットボタンを押すということは、今までの企画を一回ゼロにさせてね、ということですから……。
F:そりゃ今までやっていた人たちとは軋轢が生まれますよね。何を今さら言うてんねん、と。
豊:その通りです。僕、だから最初の3カ月間は、ずっと頭を下げに行くだけの仕事でした。
F:いったんやめるのでよろしくね、と。
豊:いや、やめるのでよろしくじゃ通りません。だって今までそれで仕事をしてきて、掛けたお金も時間もある訳ですから。特にパワトレに関してが厳しい。なぜなら開発要件に車両重量が有るからです。
F:パワートレイン。プリウスの心臓部分。
豊:そう、まさしくプリウスの心臓部分。パワトレは、これくらいの重さのクルマだから、これくらいの性能が必要ですよねと言って彼らは開発している訳です。そこに「重さを変えます」と言うのだから……。
F:パワトレの開発陣からすれば、「はぁ?」という話ですね。
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