クルマに名前を付けるのは実は大変骨の折れる作業だと聞いた。それはそうだろう。人でもモノでもクルマでも、付けられた名前でそのイメージは大きく変わってくる。

 声に出した時の音感。ローマ字で表記した際の見た目感。

 今は亡き「ソアラ」なんて、ふわっと空に飛んで行きそうな、実にいい響きがする。アイシスはローマ字表記にすると、残虐な人殺し集団の名前と同じになってしまい、ちょっと残念だったりする。

 「PRIUS」はラテン語で「~に先駆けて、~に先立って」という意味なのだそうだ。

 トヨタはエンジンとモーターを併用して動力源とする量販型「ハイブリッドカー」を、世界に先駆けて販売することを強くアピールするために、PRIUSと命名した。誕生以来四半世紀。より進化し、より洗練されたこのクルマは、どのような思いで作られたのか。詳しくお話を伺っていこう。


“ミソ付き”の豊島さんがなんで開発責任者に?

F:プリウスは日本で一番売れている乗用車です。また世界的に見ても、ハイブリッド車として他の追従を許さない、圧倒的、絶対的な王者です。世界一の自動車メーカーの、世界一のクルマのチーフエンジニア。そうなると、ピカピカの経歴の方が任命されて然りです。

 ですが、豊島さんのお話を伺うと……何と言いますかその……結構やらかしていらっしゃる。サラリーマンとしては、かなりの遠回りをされているし、いろんなミソも付けてしまっている。

「“ミソ”? う~ん…結果的にはそうかな?」
「“ミソ”? う~ん…結果的にはそうかな?」

豊島さん(以下、豊):正直な話“ミソを付けちゃった感”というのは有りますよね(苦笑)

 まあ、リーマン・ショックなど時代の流れも有って、自分自身の失敗でミソを付けたのかというと、そこはいろいろ言いたい部分も有るのですが、結果としては間違いなく経歴にミソは付いている。チーフエンジニアとして、漸く車両の企画ができるよう立場になってきたのに、このままモタモタしていたらすぐに定年になってしまう。ああ、俺はこのまま何のクルマも立ち上げずに、定年退職してしまうんじゃないか……こんな恐怖感は確かに有りました。このままで自分のキャリア終わってしまうのか、そんな危惧も。

F:そんな時にトイレ専務から声を掛けられて…….。

広報有田さん:トイレ専務じゃありません!トイレで声をかけた吉田専務です!

担当編集Y田:ダメですよ有田さん。この男は人が嫌がると喜んで更に付け込んで来ますから。根性が曲がっているんです。いちいち反応しない方が良い。流すのがコツです。

広報有田さん:でもこのまま定着しちゃったら、私、本当に困るんですよ。

ADフジノ:そういうことも言わないほうが良いです。弱味を見せたら終わりです。

:ともかくですね、トイレで「お前、いま何をしているんだ」と声をかけられて、プリウスの開発責任者を任命されて。

F:つまりトヨタ版カングーの開発頓挫と、EV開発スタディーの早期撤退は、実はミソでも何でも無かったと。トヨタ的には。

:そうなんでしょうね。その2回は、会社から実はミソとは見られていなかったようです。

F:それにしても、どうして豊島さんがこの大役に選ばれたのでしょう。

:どうなんだろう。それは分からない、僕に聞かれても(笑)

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