みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
ここしばらく、人の本ばかりを紹介していたので、今回は自分の記事をご紹介。以前もチラっとお話ししましたが、プレジデント社が出すグルメ雑誌、dancyuに寄稿いたしました。
他誌なんかに書きやがって!美味礼賛はどうなっておるのだ!と日経ビジネス編集部から罵声が飛んできそうです。しかもこの場で宣伝するなんて。担当編集者がよく代わるのは、こんなところに原因があるのかも知れません。
日頃の善行の賜物でしょうか。大会直前までの長雨はピタリと止み、当日はカラリと晴れ上がりました。天気は良いがタイムは悪い……。
トライアスロンのレースが続いております。先週末は、香川県は高松市で開かれた、サンポート高松トライアスロンに出場して参りました。
今回で第7回となるこの大会。私は3度目の出場なのですが、運営が年々洗練されていくのが分かります。トライアスロンを通じて高松の街を盛り上げていこうという、スタッフ諸侯の熱い思いが我々参加者にもヒシヒシと伝わって来る。
せっかく四国に来たのですから、ただ走るだけではつまらない。今回は金曜の最終便で高松入りし、土曜は朝から高松の街を楽しみました。
こちらは前夜祭で披露された高松商業高校書道部のお嬢様方による書道パフォーマンス。いや、お見事でした。ずいぶん練習されたのでしょうね。彼女たちは翌日のレース中も、声を枯らして応援して下さいました。
こちらは栗林公園の中にある美しい東屋。予約をしておくと、ここで朝粥を楽しめるのです。これは価値があります。
しかしどこに行っても中国人観光客が多いですね。栗林公園も例外ではありませんで、庭内を散策していると、方々から大音量のチャイニーズが聞こえて来る。彼らはほぼ例外なく立派な一眼レフを首から下げています。(ミラーレスではない)キヤノンの一眼レフが「富の象徴」であるようです。
栗林公園はミシュラン・グリーン・ガイド・ジャポンで「わざわざ訪れる価値のある場所」として三菱……じゃなくて三つ星を獲得しています。朝からお付き合い頂き、街をご案内頂いた大会エヴァンジェリストの梅田智子嬢ご一行様と。
大会エヴァンジェリスト(言い出しっ屁)の梅田智子女史。何の躊躇もなく、うどんを二玉注文なさいました。女は弱し、されど母は強し。
夜はカタマランを出して女木島に渡り、極上のシーフードを堪能してきました。ここの料理は本当に素晴らしかった。改めて開店休業状態の「美味礼賛」で書かなければなりますまい。しかし世の中には美味しいものが有るものです。地元の人の紹介が無ければ、一生知ることは無かったでしょう。
ということで楽しゅうございました。来週は宮崎の大会に出て来ます。
さてさて、それでは本編へと参りましょう。
今週からお届けするのは「日本で一番売れているクルマ」トヨタのプリウスです。
何ともタイムリーなことに、本稿執筆中に2016年上期(1~6月)の新車乗用車販売台数が発表された。1位はもちろん(と言っていいだろう)プリウスで、その数、実に14万2562台。6年ぶりのモデルチェンジが済み、売り出されたばかりのクルマだから所謂“新車効果”も効いているのだが、それにしても凄い。前年比は199.7%で、ざっくり前年同期の倍も売れている。
以下、2位はホンダのN-BOXで約9万6千台。3位は「ちっちゃいプリウス」トヨタのアクアが入り8万9千台。4位は、僅差でダイハツのタントとなっている。
もう日本で売れるクルマは、ハイブリッドか軽しか無い、という様相である。中でもプリウスは際立っていて、この上半期で10万台を超えたのは、唯一プリウス“だけ”という状態である。
プリウスの、何がそんなに凄いのか。他にもハイブリッド車はたくさん有るのに、プリウスばかりがなぜ売れるのか。
世界一の自動車メーカーが出した、世界一のハイブリッドカー、新型プリウスの人気の秘密を探るべく、ジックリたっぷり試乗してきた。
ハイブリッドが“苦手”な高速を中心に2000キロ
新型プリウスが標榜する驚愕の高燃費、「リッター40キロ超え」は、実は“燃費スペシャル”と揶揄される最廉価版の(つまり装備がショボくて重量が軽くて燃費タイヤを履いた)Eグレードだけである。
それ以外のグレードはリッターあたり37.2キロで、これが四駆(プリウスはこの4台目から遂に四駆のモデルも始めたのだ)のモデルになると、34キロにまで下落する。
それにしてもこの数字だ。三菱自動車のイカサマ騒動以降、消費者は“燃費”という言葉そのものに懐疑的になったとの報道が有ったが、なに、もともと消費者はメーカーの発表する燃費なぞ話半分にしか聞いていなかった。数字の半分も走ればマアマアで、7割も走れば万々歳、と言うのが正直なところではなかったか。
さすればこのプリウスも、25キロも走れば「プリウスを買って良かった」と薄く納得もできるのではなかろうか。
新型プリウス。しかしスゲー顔つきをしていますなぁ。「好き嫌いが別れる」なんてモノじゃないですよこれ。
試乗はイキナリのロングドライブから始まった。
前日にトヨタから広報車を借りてきてくれたADフジノ氏と、早朝に拙宅のある世田谷からトヨタの元町工場へ向かう。こちらで86GRMNの取材を行い、それから名古屋市内でフジノ氏を降ろして知人宅で一泊し、翌日は一路広島へと向かう。廿日市市で開かれるトライアスロンの大会に出場した後、今度は岡山の牛窓町へと向かう。牛窓は日本のエーゲ海とも呼ばれる風光明媚な土地だ。こちらで二泊ほどして、姫路城などを見学して東京へ帰る。走行距離は2000キロ余り。ハイブリッド車は“苦手”とされる、高速道路が中心の行程である。
早朝6時、律儀なフジノ氏は、約束の時間よりも10分も早く拙宅の前にクルマを停めて待っていてくれた。早速後部座席を倒し、トライアスロン用のバイクを荷室に積み込む。プリウスのラゲッジルームは広大だ。パンク修理キット装着車(つまりスペアタイヤを載せていない)だと、5名乗車時で502リットル。リアシートの背もたれを倒せば1558リットルもの容量がある。
シートを倒してバイクを搭載する。前輪を外しただけで、ポンと載せられた。
フジノ氏は結構横着な人間なのかも知れない
今回は満タン方式で燃費を正確に計測しようと思う。そのため、用賀から東名高速に乗る前に、近所のスタンドで満タンにして行った。プリウスの燃料タンク容量は、燃費スペシャルのEグレードが38リットル。その他のモデルが43リットルである。
今回の試乗車はA“ツーリングセレクション”だから、標榜数値の通りに走れるのであれば、満タンで1600キロ近くも走れることになる。満タンで1600キロ!これがホントなら、まさしく夢の自動車だ。
念のため近所のスタンドで満タンに。ガソリンは3リットルしか入らなかった。
コンビニでコーヒーを買い、東名高速へ向かう。名古屋まではフジノ氏がハンドルを握る。
彼は高速に乗るとすぐに、レーダークルーズコントロールに切り替えた。これは従来のオートクルーズとは異なり、単眼のカメラとミリ波レーダーを併用して先行車を認識し、設定車速に応じて車間距離を調整しつつ、自動的に加減速してくれる仕組みになっている。
フジノ氏は、「もう僕は、これが無いと高速を走れません」とまで言う。
「ほら、見てください。アクセルから足を離しても自動で前のクルマを追従してくれます。ラクですよぉ。フェルさんも後でぜひ試してみてください」
彼はこう言って熱心に勧めるのだが、私はこれを使うのが正直怖い。何かの間違いでドカンとカマを掘ったりしないだろうか。そもそもアクセル動作とブレーキ動作など、殆ど無意識に行えるので、これが省略できたところでそんなに運転がラクになるとも思えない。フジノ氏は几帳面に見えて実は結構横着な人間なのかも知れない。
レーダークルーズコントロールで楽勝運転をする横着者のADフジノ氏。
あの“カックン”ブレーキが、フツーになっている
しかしこのプリウスの静かさと言ったらどうだ。バッテリー走行からエンジンが回り始めても、「ピキューン」というセル音こそ響くものの、エンジン音は静寂そのものだ。ムリに抑え込んでいるのではなく、もともとエンジンが静かでおとなしい、そんな印象だ。
100km/hで走っていても、風切り音は皆無と言って良い。上質の防音材、防振材をふんだんに使っていることもあるのだろうが、計算されつくされた空力ボディによる影響が大きいのだろう。室内の静かさは従来モデルよりも2段階ほど向上している。屋根の一番高い部分、即ちルーフピークは従来モデルに比べて170mmも前に出ている。それだけ後ろの坂が長くなだらかになっているという事だ。この形状がCD値(空気抵抗係数)向上に一役買っているのだ。
ルーフピークは前モデルから170mmも前に出ている。しかし凄い色ですなぁ。(ADフジノ注:プリウスの専用色であるサーモテクトライムグリーン。その名の通り塗料にチタンを配合し、赤外線を反射して車体表面および車内の温度上昇を抑制する効果があるという)
愛知県の元町工場で取材を済ませ、いよいよ私がハンドルを握る番だ。総距離300キロも横に乗ってきたクルマを、今度は自分が運転するのだ。否が応でも期待は高まる。
シートに座る。前後を調整し、ステアリングの高さを少し落とす。運転席に座って、改めて感じたのだが、プリウスは着座位置が低い。そして手足を伸ばした位置がとても良い。「収まりが良い」という表現がピッタリ来る。
エンジンを始動し、アクセルを踏み込む。50km/hまで加速したところで、すぐに信号が赤になった。さぁ、問題の街中ブレーキだ。従来モデルまでの、ヘタクソなオバサンが運転するようなカックンブレーキはどこまで改善されているのだろうか。
これが全くフツーなのだ。ハイブリッドでも何でも無いクルマのように、何事もなくスッと止まる。これでホントにエネルギーを回生出来てるの~と訝しく思ってしまうほどに繋目がなく自然なのだ。ホントに回生してるんスか?
低重心がもたらす安定性は本当に素晴らしく、プワプワした腰高感も無い。市街地走行は快適そのもので、走行中にエンジンが始動する、例の「ピキューン」音さえ響いてこなければ、このクルマがハイブリッドであるとは気付かないかも知れない。それほど自然に仕上がっている。
この日は市内の知人宅に泊めてもらい、名古屋の繁華街で夜中までドンチャン騒ぎを繰り広げたのであった。八丁味噌で煮込んだ牛スジの“どて煮”があれほど旨い物だとは知らなかった。私はこの日、3回もどて煮のお代わりを所望した。
「レーダークルーズコントロール」なしではいられない
さて、肝心の高速走行である。名古屋から広島まで1人で一気に飛ばさなければならないのだ。燃費を計測しているのでバカ飛ばしは出来ない。フジノ氏に教わった通りに、恐々とレーダークルーズコントロールのセットをしてみる。すると……
これがすこぶる快適なのだ。アクセルワークから解放されるのが、これほどラクだとは思わなかった。いやもう運転の労力は三分の一以下。問題はヒマだからやたらと眠くなってしまうことだ。アクセルとブレーキ作業が無くなるだけで、こんなにヒマになってしまうのだ。これでステアリングワークまで自動でやってくれたら、本当に寝てしまうなぁ。
プリウスのレーダークルーズコントロールは本当に賢くて頼り甲斐が有る。これに慣れてしまったら、後戻りができなくなりそうだ。それが逆に怖い。初めからこれに慣れた人ばかりが路上に溢れたら、将来の道路はどうなるのだろう。少し怖い感じもする。
なんて事を考えながら運転していたら、ガソリンが殆どカラになっていた。
えー?残り2キロ?一番近い出口まではまだ30キロ以上もある。ヤバし。
しかしプリウスの残量計は、どこかの編集者みたいに大変なサバ読み野郎なのであった。
残量計はすぐにゼロになり、横棒が表示されるのみとなったのだが、這々の体で辿り着いたスタンドで満タンにすると、ガソリンはピッタリ36リットルしか入らなないのだった。
焦ってソンした。ここまでの走行距離は名古屋市内での市街地走行約40キロを含めて、東京から930キロ。リッターあたり26キロ走った事になる。高速の苦手なハイブリッド車からすれば、これは素晴らしい数値だろう。東京から広島まで、無給油で走れてしまう。凄い。
止まるぞ止まるぞと散々クルマに脅かされたが、実際には36リットルしか入らなかった。サバ読みが非道い。
燃費が良いのは最早アタリマエとなり、プリウスはハイブリッドと意識せずに乗れる、フツーの乗用車になった。剛性は間違いなく良い。重心が低いのもよく分かる。ブレーキのマナーも上々だ。
それよりも何よりも、プリウスは4代目にして、漸く意識せずに乗れるフツーの乗用車になったのだと思う。それがプリウスの進化の証であるし、トヨタが目指してきたことでもあるのだろう。「フツーに凄い」。これが4代目プリウス開発陣への最大の賛辞となるのではあるまいか。
それではプリウスの「◯」と「×」を。
プリウスの「◯」
1:優れた高剛性
TNGAって言うんですか?間にEの字が入るとアレなのだが、ともかく新世代のプラットフォームは良く出来ている。剛性が高いカッチリ感は、素人が乗ってもすぐに分かる。
2:話半分でも凄い高燃費
いやぁよく走ります。本当によく走る。高速主体だと26キロだったが、帰京して街中主体で測り直したら28キロまで行った。30の大台には残念ながら届かなかった。
3:妙な色の凄い効果
大昔のトレノにあったような黄緑色の妙な塗装色。これは車内の温度上昇を抑える効果があるそうで、確かに炎天下に置いておいてもバカみたいに暑くはならなかった。広島で同道した白のメルセデスと比べても、その差は歴然だったので、一定の効果は有るようだ。
プリウスの「×」
1:気になるタイヤ音
風切り音もエンジン音もピシャっと遮断されると、次に気になるのがタイヤから生まれるロードノイズだ。まあこれが気になるならレクサスLSに乗れという話なのですが。
2:サバを読み過ぎる燃料残量計
心臓に悪い。私には本当のことを言って欲しい。
3:それでもやっぱりカックンブレーキ
ある速度領域では、やはり「おや?」という部分が有る。
停止直前の15km/hからそれ以下の領域だ。ただこれは、かなり注意深く、且つイジワルに見た時の話だ。無意識に乗っているときは気にならない。
ということで、次号から皆様お待ちかねの開発者インタビューに入ります。
お楽しみに!
*7/18(月)が祝日のため、次回は7/19(火)の公開予定です。
ここまで違うとは…20年前の新車売れ筋はこうだった!
先にフェルさんが、2016年上期の新車販売におけるプリウスの"圧勝"を紹介していましたが、ちなみにベスト10のランキングは以下のようになります。
一目でわかるように、軽自動車とコンパクトカーの強さが目立ちます。その中で、2位以下を大きく引き離して首位を獲得したプリウスは、驚異の存在と言うしかありません。好き嫌いがはっきり分かれそうな外見にもかかわらず…。
で、ちょっと気になって、20年前のランキングがどうだったのか、検索してみました。日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)のサイト上では、1996年のデータは掲載されていません。ですので、1996年の数字は、総合ランキングnetから転載いたしました。
1996年のデータは上期ではなく通期ですので単純には比較できませんが、いやぁ、驚くような変わりぶり。1996年のランキングに入っている車種名は、ただの一つも、2016年上期ランキングには見当たりません。ランキングの対象を乗用車だけに絞ってやっと、カローラが登場するのみ。自動車に対するニーズ変化の激しさがうかがわれます。
1996年のランキングを見ると、生産中止になってしまったクルマも多くあります。この頃はRVがブームで、当時の新聞を調べると、「CR-Vの生産が追いつかない」といった記述も。オデッセイやエスティマもランクインしていますから、ミニバンもまたブームだったわけです。
驚きだったのが2位のクラウン。まだまだ、「いつかはクラウン」の存在だったんですね。
ちなみに、当時、私は三菱のパジェロに乗っていました。もちろん、燃費のことなんてまったく気にせず…。まぁ、1人暮らしの気楽な身でしたので。いいクルマでしたよ。山道とかで軽くぶつかった程度じゃ凹まないところとか。
(編集担当:Y田)
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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