M:その通り。OMG! です(苦笑)。それが2007年時点での、この国におけるSUBARUの認知だったのです。

A:ショックでしたよ。売れない理由が「SUBARUなんて知らない」なんですから。知っていても、ほとんど知識がなくて、SUBARUというブランドに対する意見など何も持っていない。そんな人が大多数だったのですから。知らないのだから売れるはずがありません。それがシェア1%、販売台数18万5000台のブランドの現実だったのです。

M:「SUBARUって何?」というアイデンティティーがない状態が長らく続いていました。一方で、SUBARUが大好きで、買い続けてくださる方々も少数ですが存在した。こんなマイナーなクルマを(笑)、いったいどんな人達が買ってくれているのだろう。それを紐解いていきました。そうしたら、高い教育を受けて、高い収入を得て、長くクルマを所有してくれる人達が浮かび上がってきたんです。SUBARUはあまり知られていないブランドだけれども、こういう特徴のある人達が買ってくれているブランドでもあるのだな、こんなことが見えてきました。

F:長期間の所有とおっしゃいましたが、アメリカでは1台のクルマをどれくらいの期間所有するものなのですか。そして高所得、というのは年収どれくらいの層を指しているのですか。

A:市場平均でいうと4年以下。SUBARUに限って言うと、6年から7年です。高所得に関しては、具体的な年収ではなく、ローンではなくキャッシュで買われる層を意味しています。収入のレベルでいうと、SUBARUよりももっと高い価格帯のクルマを買える方々なのに、敢えてSUBARUを選んでいただいている。そんな人達です。

M:自分の人生に対してすごく情熱的で、いろいろなことにチャレンジして、アドベンチャーを人生の中に持ちたいと思っている人たちがSUBARUのオーナー像です。

「LOVE」はユーザーから生まれてきた

 「高所得」の定義に関しては言及を避けた、という印象だ。まあここはあまり突っ込んでも意味がないだろう。「もっと高いクルマを買えるのに、敢えてSUBARUを選んでいる」という点が興味深い。

A:同じくSUBARUを所有しているユーザーのアンケート結果には、大勢の人が「LOVE」という言葉を使っているという特徴がありました。

F:アンケートに「LOVE」という選択肢があったのですか?

A:ありません。自由記述の部分です。我々メーカー側から「LOVE」と言い出したのではなく、お客様ご自身が表現として使われたのです。そのキーワードを、我々が自社のマーケティングに取り入れて展開したのが「LOVEキャンペーン」です。

F:それが2008年にスタートで。

M:そうです。2008年。いまから10年前です。

F:具体的にはどのような展開をしたのですか。CMでラブラブ言うんですか。

A:それは映像をご覧になったほうが良いでしょう。YouTubeにいくつも上がっていますから、代表的なものをお送りしましょう。

SUBARUのLOVEキャンペーン

F:「LOVE」というキーワードはアメリカのCMにはとっくに溢れていて、それこそハンバーガーでも紙オムツでも使うじゃないですか。マクドナルドは「I’m loving it.」でしたっけ。それらとはどう違うのですか。SUBARUだけが際立つとは思えないのですが。勝因はどこにあるのですか。

A:メーカーからの押し付けではない、お客様が実際に使っていた言葉を真実として取り入れた、自発的な言葉だからです。

M:それと、我々はハンバーガーや紙オムツの会社とは違う。自動車メーカーだからです。自動車メーカーは、本来数字で表せるものを、性能や燃費や安全性を、More More More! もっともっとアピールしたいものなんです。

F:あー! なるほど。ハンバーガーや紙オムツは性能を数字でアピールしにくいから、エモーショナルな部分に訴えるしかないわけだ。

A:ご名答! 我々は数字で言いたい部分を抑えて、敢えてエモーショナルなアプローチにしたわけです。それでお客様が実際に使われている「LOVE」という表現を取り入れた。そこが彼らとの大きな違いです。

F:なるほど。これは面白い。いや大変よく分かりました。しかし2008年にはずいぶん難しい判断をなさいましたね。SUBARUであれば、水平対向エンジンとか、それがもたらす低重心とか、先進のAWDとかをアピールしたいじゃないですか。そこをグッと抑えてLOVEだ何だと言うのは結構な覚悟が要りますよね。

M:そうですね。販売がずっとフラットな状態が続く中、どうしたらもっとSUBARUの認知度を上げていけるのか。意見のぶつかり合いはたくさんありました。しかし「このままではいけない」という強い意識もありました。だから、まったく新しいアイデアを、今まで誰もやったことがないようなことをやらなければいけない、と。

A:だからヤマグチさんが「難しい判断」とおっしゃったのは、本当にその通りなんです。いま考えても、それは非常に難しい判断でした。

F:しかも2008年はリーマンショックですものね。世界同時不況へ突入した年です。

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