無資格検査の発覚により、国内では評判ガタ落ちのSUBARUだが、“メインマーケット”である米国(以下、アメリカ)における勢いは留まるところを知らない。
SUBARUの米国法人であるスバルオブアメリカ(SOA)は、先日2018年上半期販売セールス結果を発表した。総販売台数は32万2860台。これは前年同時期を5.9%も上回る好結果で、上半期に限って言えば、SOA史上最高の数字である。販売の主役はSUVで、新型の発売を控えるフォレスターは7万9277台。次のモデルを待とうと買い控えが起きていたので、前年同期比で1割近くもダウンしているのだが、それでも依然としてアウトバック(9万978台)と並び、販売を牽引している。以降、クロストレックの7万4475台、インプレッサの3万7814台と続く。この調子で行けば、SUBARUのアメリカ販売台数は11年連続で伸び続けることになる。まさに「アメリカあってのSUBARU」である。
このアメリカに於ける絶好調は、「LOVE」をキーワードにしたキャンペーンが奏効した、と言われている。実際のところはどうなのだろう。SUBARUはアメリカの市場でどのように理解され、どのように売れてきたのだろう。
SOAの副社長とコーポレート・コミュニケーションを担当するディレクターにお話を伺った。
インタビューはニューヨーク国際オートショー2018でアンヴェールされた新型フォレスターの記者会見直後に会場地下にある会議室で行われた。
お話を伺うのは、SOAのsenior vice president of marketing(マーケティング担当上級副社長)の Alan Bethke氏と、director of corporate communications(コーポレート・コミュニケーション担当部長)のMichael Mchale氏である。

F:はじめまして。フェルディナント・ヤマグチと申します。記者会見直後のお忙しい中にお時間をいただき恐縮です。
M:はじめまして……ていうかあの……そのマスクは何なのですか……?
F:私は日本のコラムニストです。企業にとって都合の良くない記事を書くことも多いので、命を狙われる危険性があるのです。それで公の場に出るときやメディアに出るときはこうして顔を隠しているのです。
A、M:はー……。
SUBARU広報K原氏:ちょ、ちょっと、フェルさん。ウチの人間に変なことを言わないでくださいよ。思い切り怪訝な顔をしているじゃないですか。
こう言うと彼は、「彼は日本の企業に勤務するビジネスマンで、本業バレを防ぐためにマスクを被っている」と説明をした。
F:SUBARUは「LOVE」をキーワードとしたキャンペーンを展開して大成功したと伺っています。実際にどのような効果があったのか。LOVE前とLOVE後で何が起きたのか。そのあたりを教えてください。
A:アメリカの自動車マーケットは、非常にタフなことで知られています。アメリカは、40前後のブランドから約265モデルが売り出されている、超過密市場です。とても混雑している。たくさんのブランド、たくさんのモデルが溢れている競争の激しいマーケットです。
F:40ブランド、265モデル。そんなに……。
A:これだけたくさんのモデル、ブランドがあって、それぞれのブランドが他との「差別化」を意識しています。
2008年までシェア1%。誰もSUBARUを知らないぞ
F:「ウチのクルマはひと味違いますよ」と。
A:そう。みんながみんな、「他とは違いますよ、我々は特別ですよ」とアピールしている。そうした背景を理解したうえで広告宣伝に目を向けると、それほど違いのない、同じようなところにフォーカスした広告宣伝ばかりが目立ちます。それは機能だったりスペックだったり、あるいは比較広告であったり。ええ、値引きや保証の期間も重要なアピールのポイントです。「私たちは他と違う」と言いながら、実はどこのメーカーも共通した広告を打ってきたのです。
お恥ずかしい話ですが、SUBARUも同じでした。SUBARUはアメリカに来て今年で50年になりますが、その多くの期間を、他の会社と同じように「ウチは違う」と言いながら、機能だったりスペックだったり他社との比較広告を打ったりしていたのです。その結果はどうだったか。アメリカにおけるシェアはわずか1%。販売台数は18万5000台程度で頭打ち、という状態がずっと続いていたのです。
M:今のは過去の話。“LOVEキャンペーン”を始める2008年以前の話です。私達は調査をしました。なぜSUBARUは売れないのか。そもそもなぜお客様が我々SUBARUを購入検討の対象にすら入れてくださらないのか。すると我々にとって、とてもショッキングな結果が出てきました。それは我々の予想とは大きくかけ離れたものでした。
A:例えばSUBARUのデザインが好きでないとか、SUBARUは燃費が悪いとか、そういうことではなかったのです。買わない理由。検討対象に挙がらない理由はそこではなかった。
F:売れない理由が、デザインでもない、燃費でもない。となると……?
A:もちろん燃費やデザインを「買わない理由」として挙げる人もいました、でもそれは少数派でした。多くのお客さんの答えは、「SUBARUというブランド自体を知らなかった」。そして「イメージを持つほどの認知がなかった」というものでした。
F:OMG! 多くの人の答えが、「SUBARUって何?」。あるいは「聞いたことあるけど。ようワカラン」という答えだったと。
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