F:まるで整体の先生みたいじゃないですか(笑)。

じっとしていられない虫谷氏はすぐ席を立ち「このあたりが何番です」と。
じっとしていられない虫谷氏はすぐ席を立ち「このあたりが何番です」と。

虫谷:そして千葉さんと「脊柱の何番をこう動かそうか? 頸椎の何番はどうする?」と話しています。

F:2人の会話を知らない人が聞いたら、かなり怖いと思うなあ(笑)。

松本:でもこういう会話があるので、シートの設計者がきちんと設計できるようになるのです。人間の潜在能力を高めるためにはシートで骨盤をきちんと立ててあげることが大切ですからね。

F:あれ? でもシートで姿勢をつくろうとしたって、身長差などが影響してくるんじゃないですか?

松本:面白いことが分かっていまして、いろいろな背の高さの方がいらっしゃいますけれど、骨盤から首までの間は、ほとんど一緒なんです。

D:ええ?? 身長が全然違うのにそんなことあるんですか? 逆に言えば足の長さが違う? そんなわけないでしょう。

人間と機械の世界をつなげる

松本:言葉が足りませんでしたね。ほとんど形が一緒なんです。なので、そこについては同じ考え方でいけるとわれわれは考えています。ただ、太ももから足に関しては個人差があります。なので今回試乗してもらったクルマのシートもそうだったと思いますが……。

F:座面の前端を持ちあげて調整する機能がついていました。

松本:はい、前部をチルトして変動できるようにしています。本質的に同じ部分は共通でいいのですが、どうしても変えないといけない部分には、あえて機構を設けています。

虫谷:こういう発想は、これまでヨーロッパのほうが先行していました。

F:いくらヨーロッパが先行していても、さすがに脊柱の何番なんて話はしていないんじゃないですか?

虫谷:それはわかりませんが(笑)。ただ、間違いなくヨーロッパのほうが車速が高いですし、長時間移動も当たり前です。日本だと1時間走ったら休憩しようという話になりますが、ヨーロッパでは4時間とは普通に走ってしまいます。フランクフルトからバルセロナまで、1300キロの移動は普通の感覚ですからね。私はドイツ駐在中、ミーティングに出席するために片道700キロ、往復1400キロを日帰りで移動したことがありました。これだけの距離を普通に走るということは、必然的に平均スピードも速くなります。明け方のアウトバック、夜中のアウトバーンは凄いですよ。

マイトのY:高速・長距離・長時間移動が普通の国のメーカーだったら、シートと身体と運転しやすさの関係に気づかないわけはないと。

F:私、ビジョンクーペが発売になったら本当に広島の工場まで取りに行きたいと思っているのですが、東京へ帰るときは大阪辺りで1泊しようと考えていたんですが……。

虫谷:ヨーロッパでは余裕で日帰りの距離です(笑)。だからこそ長時間運転しても疲れないことが大事になるのでしょう。

松本:ヨーロッパの自動車メーカーがどのような開発をしているかは分かりませんが、おそらく虫谷のように“感じる”ことを大切にしているエンジニアが昔からたくさんいるのではないかと思います。今回我々がトライしたのは、人間の研究を徹底的に行うことでした。そして規範とするべき車両運動をつくるにはどうしたらいいかを導き出しました。理想とする規範運動を定めたことにより、人間の世界と機械の世界が繋がって、設計者が機械の世界に没頭でき、クルマ全体であるべき姿を実現するための仕事ができるようになりました。言葉を変えるなら、理想を追求をするための技術力というか、下地ができた。虫谷の世界と千葉の世界、そして設計者の世界を繋げた開発ができるようになったのです。

フェル、直言す

F:なるほど。では、今回試作車に試乗させていただいた感想を正直に述べさせていただきます。もしかしたら「出ていけ!」と言われてしまうかもしれませんが。

マイトのY:ちょっと……変なこというのはやめてくださいよ!

F:いろいろと説明を伺い、期待に胸を膨らませていたのですが、乗ってみたら、思ったほど変わっていないじゃないかと思ったんです。まず現行アクセラのAT車に乗せていただき、改めて、よくできたクルマだと感じました。

 そして試作車に乗りかえて……。エンジンは違いがとても分かりやすかった。でもボディやシャシーのほうは……。30~40キロくらいでゆっくり走っていても、「違うと言われれば違うのかな……」という感じでした。それでも我々は以前に虫谷さんの“骨太講座”を短時間ながら受講して、事前に勉強もしているから「なるほど、自然な動きというのはこういうことか」と思いましたが、一般のドライバーが実感するのはなかなか大変じゃないかと思いました。

 ただ、何というんだろう……。重いクルマ、大きなクルマに乗ったときの安定感みたいな、そういうものはすごく感じました。たとえばマークIIからクラウンに乗り換えたような。タイヤの幅が1個分くらい外へ出たみたいというか。今回のテストコースでは、サーキットに出る前のサービスロードで途中ちょっと荒れた路面がありましたよね。あそこをアクセルを踏みながら40キロ弱で曲がって行くときにそれを強く感じたんですよね。もちろん実際にはそんなに重くなっていないだろうし、大きくもなっていないのだけれど……。

虫谷:フェルさん、私は今のコメントを聞けてとても嬉しく思っています。まさに私の狙い通りです。

F:狙い通り? 「この素人め……」と呆れられるのを覚悟でお話ししたのですが……。

 私が正直な感想を述べると、ムッシーはいかにも嬉しそうに微笑んで、「狙い通り」と言うのだった。ムッシーの「狙い」とは何か。微笑んだ理由はどこにあるのか。
 いいところでまた来週。

 それではみなさまごきげんよう。

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