虫谷:そうです。衝撃が来ることを予測して身構え、フロントタイヤが越えたときに「トンという感じか」と思い、リアタイヤが突起を越える前にまた身構えるんです。その状態で“ドン”という大きな衝撃が来たら、身構えた状態が破たんします。

F:クルマに自分の予想が裏切られてしまう。だから同じ“トン”じゃないといけない。

虫谷:その通りです。逆に言えば、同じ“トン”で合わせると、ある程度入力が大きい状態でも人間は自然にバランスを取る機能が備わっているんです。

F:つまり、前後の衝撃が3:7より5:5のほうがいいと。

虫谷:そうです。そしてもう少し深くエンジニアリング的な話をすると、“コンプライアンス”というブッシュを使うことで衝撃を吸収するという考え方があります。従来は操縦性を考えれば硬く、乗り心地を考えると柔らかくだったので、コンプライアンスを積極的に使っていました。これで衝撃を逃がしていたんです。

F:虫谷さんはそれを“いなす”と表現していましたね。

虫谷:人間は走行中のホイールセンターの微妙な動きも感知できます。それくらいすごい感度を持っているのです。しかも動きがシンプルになるほど、人間はそこに自分から「合わせにいく」ことができます。揺れていても人間側が無意識のうちにバランスを取る。今回のクルマはまさにその能力を使っています。

人間が「無意識に合わせやすい」クルマ

F:だから人間の“潜在能力”を使う、と表現するのですね。

虫谷:今回、現行車(アクセラ)と次世代モデルを同じ18インチのタイヤで乗り比べていただきました。おそらく次世代のほうが乗り心地がよくなったと感じられたと思います。でも実は、データを取ってみると入力のレベルというか、刺激のレベルはむちゃくちゃ大きいんです。

F:新しいほうが、ですか?

虫谷:はい。でも人間はそれを感じないでしょう? 先ほども話した通り、人間はクルマが20ミリの突起を越えるときはこのくらいの衝撃が来るだろうと身構えています。突起を越えるときの衝撃はちょうどブレーキをかけたような感じで人間の体に伝わります。そして人間は前のめりにならないよう、体を引いて衝撃に備えています。そして衝撃が思っていた通り――衝撃と入力のベクトルが同じならバランスがしっかり取れる。すると何かガツンときたように感じたけど、やわらかい感じだったな、収まりがいいなとなるのです。

F:人間の体って、そこまで敏感なものですか? 個人差はないのですか? 僕には分かるけれど、マイトのYにはわからないとか。そういうことはありませんか?

マイトのY:……(ムカッ)。

虫谷:もちろん個人差はあります。でも社内でいろいろ実験しましたが、普通に歩ける人なら感じ方がまったく違うという状態にはなっていません。

マイトのY:……あのね、フェルさん。感覚の個人差については、あんた、虫谷さんにまったく同じことを3年半前にも聞いているから! で、同じお答えをいただいていますよ。

F:え? そうだっけ……。

マイトのY:あとで3年半前のシリーズを読み返してください。あのとき、僕は「フェルディナント・ヤマグチという男はなかなか鋭いことを聞く」と感心したのに、どんだけ鋭くてもすぐ忘れたら意味ないでしょうが!

F:昨日の昼メシも覚えていないのに、3年半前の質問なんて覚えているわけないじゃん(笑)。

松本:ただ、虫谷が話したことをきちんと運転中に実現するためには、歩行中と同じような姿勢で座り、骨盤が衝撃を受け止め、吸収できるようにしなければなりません。

 人が歩いているとき、身体にはさまざまな衝撃が入ってきています。でも普通は何も感じないじゃないですか。それは骨盤があって、その上にある脊柱がS字になっていてそこでダンピングして衝撃を吸収し、頭に衝撃が伝わらないようにしているからなんです。

F:そういう仕組みだったんですね。試乗前のプレゼンテーションで「人間の潜在能力が……」という話になったときは、ついにマツダはオカルトに走ったか……と思いましたが(笑)。

マイトのY:よしなさいよ……。

F:マツダのクルマに乗ったら宝くじが当たりましたとか、彼女ができましたとか、実話系雑誌に出ている開運財布の広告みたいに(笑)。

マイトのY:だから、よしなさいっての!

F:真面目に言えば、だからこそ社内向けに「虫谷骨太講座」を始めたわけですね。

虫谷:その通りです。いくらプレゼンをやっても何もない状態から理解してもらうのは無理だと思ったので。渡辺明さん流で「人体はこうなっている、目線はこうだ、神経回路はこういう仕組みだ」と話していましたからね。最近は千葉さんといろいろ話しながら私も勉強して、こういう資料を読みこんでいます(渡辺さんについては「虫谷講座2018」その1、千葉さんについてはその1と、その2をご参照ください)。

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