ムッシー虫谷氏が初代ロードスターの予約会に並んだ話を始めたあたりから、なにやらマイトのYが感傷的になっているが、冒頭に述べたように我々は、試作車の印象を通してこれからのマツダのクルマ造りの方向性を聞き出さねばならない。

やりたかったことはキリがないけれど

F:ところで本日試乗させていただいた試作車は、虫谷さんもたっぷり走り込んでいるんですよね?

虫谷:もちろん。

F:虫谷さんがやりたいことは、すべて表現できているのですか?

虫谷:すべて、と言いますと……?

F:本当はまだこれがあるんだけど、予算の関係で載せられなかったとか、「そうは言っても日本のクルマはこう造らなきゃダメだ」という圧力が上の方からかかるとか。「俺が社長だったらこうするのになぁ……」というような思いが虫谷さんの中にあったりはしないのですか?

虫谷:まあ、それは……。

F:やっぱりあるんですか。

虫谷:あるというか、それを言い出したらキリがないですから。

F:キリがない。

虫谷:だと思います。たとえば「カーボンケブラーを使ってもいいよ」とか言ってくれたらここまでできる、とか、材料置換すれば良くなるというベクトルはあると思います。でもそれを言い出したらキリがありません。

F:たとえば、屋根とエンジンフードをカーボンにすれば軽くなって走りが良くなる。でもマツダが500万円以上するクルマを造ってどうするの? という話ですね。

虫谷:そうですね。だから我々は今あるリソースを使ってクルマ造りをしています。

F:では、カーボンなどを使うという話は脇に置いて、常識の範囲内ではどうですか?

虫谷:今、我々が考えていることはすべて入っています。ただ、それは今まで右の方向を目指していたけれど、次の世代から左を向こうというものではありません。我々が目指していた方向の延長線上で、たとえばこれまで我々が行きたいゾーンが右上だったとしたら、そこは変えずに。ただ、これまではエンジニアリング的なアプローチで進んでいたのを、「人間を中心に置いたアプローチなら、こういうやり方もあるんじゃないか」ということをやっています。

マイトのY:人間を中心に置く、とは?

人の潜在能力を侮るなかれ

松本:いわば、人が自覚しないまま使っている「潜在能力」を活かす、と言いますか。

F:先ほど松本さんがおっしゃっていた、「感じることから始めるクルマ造り」ですね(前回参照)。

虫谷:それが具体的にどのようなことかと言うと、たとえば乗り心地の領域と操縦性の領域は、これまでは相反する性能として捉えられていました。

F:そうですね。速くしたければガチガチに硬くする、でも乗り心地は悪くなる、と。

虫谷:簡単に言えばそういう世界です。それが原因で、これまではブレークスルーができなかったのです。今回の試作車ではそこを突破できたと思っています。そのキーになるのが“骨盤”です。

F:第1回目で話を聞いた、モトクロス世界チャンピオンである渡辺さんのライディングスクールのお話ですね。

虫谷:人間は自らに、高度なバランス保持機能が備わっていて、それを使う上で避けては通れないのが骨盤なんです。

 たとえば道路に何か突起があって、クルマでそこを通過するとします。まずフロントタイヤがドンと突起を乗り越え、次にリアタイヤがドンと乗り越える。そのとき、乗り心地を考えたら柔らかいほうがいい。

F:ですよね。だって突き上げが少なくなるのだから。

虫谷:突き上げがないほうが確かにいいのですが、柔らかいと一口に言ってもいろいろあります。たとえばフロントが突起を越えるときは刺激があまりなくて“トン”という感じだったとします。でもリアが“ドン”となったら、これはダメなんですよ。なぜならフロントタイヤが突起を越える前にドライバーは突起を見て……。

F:衝撃が来ると身構えるわけですね。

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