クルマの設計は、言わば陣取り合戦である。
 エンジン、居室、荷室。各分野の担当が、少しでも自分の陣地を拡大すべくしのぎを削る。
 だから開発主査をしても、「使わせて“もらっています”」という言葉が出るのである。

F:たった3センチで居住性とか変わるものなのですか?

:……は……?

F:いやだから、たったの3センチくらいでは、素人は差なんか分からないのじゃないのかな、と。SUBARUの開発陣のようにプロ中のプロなら分かるのでしょうが。普通にクルマを買う人に、果たしてその差が理解できるものなのでしょうか。

 私がそう言うと、布目さんの表情はにわかに険しくなった。
 そして「ちょっとこっちへ来てください」と私の腕を引き、後部座席の方へ連行した。

:30mmの差はとてつもなく違います。明らかに違う。誰が乗ってもすぐに分かります。今日はショーなのでディスプレイ用に旧型も置いてある。いまここで乗り比べてみてください。

 布目さんは新型のドアを開けて後部座席に座るよう促した。

F:確かに広くて快適です。でもこれ、前部座席の位置によってスペースが変わっちゃいますよね。

:そうですね。では運転席に座って、フェルさんに快適なドライビングポジションを取ってみてください。それから運転席の後ろに座ってください。

びっくりするほどの3センチ

 言われた通りに新型の運転席に座り、ドライビングポジションを取る。前に誰が乗ったのだろう。運転席はかなり前に寄せてある。10センチほど後部にスライドさせる。ブレーキペダルを踏み、ステアリングに手を乗せる。

F:うん。この位置ですね。

:それではそのまま運転席の後ろに座ってみてください。

F:なるほど。これくらいの感じですか。うん、確かに広くて快適です。前方の見通しもいい。

:それでは同じことを先代でやってみましょう。まず運転席に座ってもらってドラポジを取る。そうですそうです。シートを合わせて。はい、ではそのまま後部座席に移動しましょう。さあ、どうですか。

F:あー!

:どうですか。30mmの差が体感できるでしょう。

F:違う違う。確かに違う。こんなに違うものなんですか。別にこっちが狭くて不快というわけではないのですが、乗り比べると確かに違う。足元が広がると、こんなに乗車感覚が変わるものなんですね。すげー。

:違うでしょう。そんなに感激してもらえると私も嬉しいです(笑)。

F:いや、恐れ入りやした。

:座ったときだけでなく、乗るときも新型の方がラクだったでしょう。サイドシルを下げて、足の通過性を上げたんです。人が乗り降りするときは、ピラーとシートの間の空間や、頭の通過点が重要になります。頭がスッと通過できて、足も同じようにスッと入る。この乗り降りで、クルマの印象は大きく変わってくる。実は新型は全高寸法を5mm下げているんですが、内寸は先代と同じにしています。さらにドアを大きくガッと開くようにしています。

高さが抑えられ、通過性が向上した新型のサイドシル。
こちらは旧型のサイドシル。こうして見ると、確かに段差が大きい。

ドアがガパッと開く理由

F:新型はドアが旧型よりも大きく開く。

:はい。この角度を広げることによって、今お話しした乗降時の通過性も良くなるし、お子さんをチャイルドシートに乗せるときや脱着時の作業性が向上する。あと、ルーフの上に物を載せるときは、リアステップに足を掛けて上られる方がいらっしゃるので、ドアが大きく開くと腰が当たらない。これ、細かいことなんですけど、フォレスターにはとても大事なことなんです。

F:フォレスターはやはりアウトドア愛好家が多いでしょうからね。屋根に物を積む人が多いことは容易に想像できます。

:ここまで大きく開かなくても、リアステップに足を掛けて上に物を載せることはできます。でも、立ったときに腰の部分にドアが当たると変な姿勢になってしまう。フォレスターである限り、荷室も屋根の上も使いやすいアプローチができなくてはいけません。だからドアが広く開くようにして、後席の乗降性を良くしているし、屋根へのアプローチも良くしている。

F:先代はここまで開かなかった。

:先代も大きく開きましたが、ここまでではありませんでした。今度はちょっと立って比べてみましょうか。ほら、ほら。分かりますか。旧型は上に重い物を、例えば自転車などを載せようとするとドアが邪魔をしてちょっと力が入れにくい。新型ならグッと力が入れられる。

「ここに立ってルーフに荷物を載せる人もいるわけです。よっこらせ、と」
「ね。ここまでドアが開くと荷物の積み降ろしがうんとラクになる。旧型は75度。新型は80度開きます。この5度の差が大きいんです」。開発主査自らの実演、恐縮至極であります。