「でもこれはもの凄くヤバい事です」

F:ニュル風味とかニュル風、という訳ではないんですね。

:違います違います(苦笑)。日本でもサーキットを走り込んでシェイクダウンしていって、ある程度まで煮詰めて、最後にニュルで仕上げると言った感じです。

 あそこの路面は本当に世界一番厳しいので、ニュルでちゃんと走れれば、もう日本のどの道でも怖くない。ニュルでしなやかに足が動いて、吸収できていれば、怖いものなしで走れるので。

F:86GRMNを仕上げていく上で、一番気を使ったことは何ですか?

:意識合わせですね。そもそもみんな量産のマスのクルマしか造ってない訳だから、これを変えていくのが大変でした。トヨタはやはり大きな会社なので、自分では前向きなつもりで仕事をしていても、どうしても保守的なところが有ったわけです、正直な話。

 会議室だけで仕事をしていて、これはちょっと難しいと思わない?まあこんなもんじゃないの?というような雰囲気が有ったんです。

F:官僚化というか大企業化というか。まあでも仕方がないですよね、実際にトヨタは世界屈指の大企業なんだから。

:そうなんです。これくらいだよね、と勝手に線を引いてしまうのが、ある意味当たり前でした。そんな雰囲気の中でみんな育って来たのだから、みんながみんな、それが悪いことだとは思ってない。でもこれはもの凄くヤバい事です。

F:それをトヨタの人が言うところが凄いと思います。しかも私のインタビューで(笑)。これ、フツーに書きますよ。

:ああもう全然構いません。フツーに書いて下さい。

 ここ最近、インタビューの度に「トヨタは変わったなぁ」と思う。

 ほんの5、6年前まで、インタビューでこのテの話が出ることは絶対に絶対に絶対に無かったのだ。私の話に乗せられて、開発主査がポロッとオイシイ話をしてくれたところで、同席した広報担当者はピシャリと話をシャットダウンしたものだ。

 ところが最近はどうだ。多田さんのハジケ振りは言うに及ばず、MIRAIの田中さんは組合時代の話を延々とし、野々村さんは大企業病を堂々と憂いて見せるではないか。毎度同席する広報担当の有田氏にしても、インタビューの時間こそ気にしているが、内容に関して注文を付けることなど殆ど無い。

「サスペンション屋って何やねん」

:市販車ってね、千人ぐらいの人数が寄ってたかって開発するんです。パートパートに別れていて、僕はサスペンションのここ、私はステアリングのこの部分、というふうに役割が分担されている。

F:それはそうですよね。役割分担をして効率化を図る。

:ところがモータースポーツの世界に行くと、それが通用しないんです。僕はシャーシの開発担当だったのですが、サスペンションの事しか分からない所謂サス屋さんです。逆にサスに関しては誰にも負けないプロだという自信が有る。

 それで開発の現場に行ったら、お前、クルマはサスだけじゃ無いんだぞと。俺らが開発しているクルマだぞと、お前何屋なんだ。お前はクルマ屋だろうと。サスペンション屋って何やねん、という話になるんです。

F:お前はクルマ屋だろう、と。最大の褒め言葉だけど、これは厳しい。

:初っ端からガツンと喰らいました。衝撃を受けましたよ。レースの現場で仕事を進めていく上で、「今の段階ではここまでが限界です。これ以上やるには、これとこれが不足です」と上司に持って行くと、「お前何言ってんの」と。できない理由ばかり並べやがって、お前はその程度の人間か?甘ったれるんじゃ無ぇ、と。

F:キビシー

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