みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
夏を前に、ポコったお腹を気にされている方に朗報です。
トライアスロン仲間の村山彩嬢が、労せずして痩せられるという夢の本を出版されたのです。
何しろこの本、冷蔵庫の中身を栄養素ごとに分けて置くだけで、運動もせず食事制限もせず、さらにリバウンドも起きないでスッキリ痩せられるという夢の様な内容なのです。読後に改めて拙宅の冷蔵庫を眺めてみますと、いやぁ酷い酷い。
ビールと炭酸水が容量の3分の1を占め、他にはジャムが6種類10本とか(私、ジャムが大好きなんです)、羊羹とか月餅とか焼きチーズケーキとか、デブ直結の甘味がギッシリと……。さらに賞味期限を3年も経過した味醂干し等も発掘され、痩せる以前に生活を見つめ直せという話なのでありました。
とまれ、全国を講演活動で忙しく飛び回る実践派食欲コンサルタント彩嬢の理論に間違いはございますまい。実践派肉欲コンサルタントとして推奨申し上げます。
佐賀県は虹の松原に出張りまして、トライアスロンの大会に出場して参りました。
手作り感溢れる非常に気持ちの良い大会でした。ゴール後に頂いた名物の唐津バーガーも美味しかったな。
今回で17回目を迎える本大会。さすがに運営は手慣れたものでスムーズでしたが、開会式は頂けませんでした。ダラダラと内輪ネタで局所的に盛り上がり、壇上の役員がケータイで話し始める等、当事者意識が激しく欠落した、村の寄り合いのようなものでした。
今までたくさんの大会に出場して来ましたが、開会式がここまで酷いのは初めてです。大会会長の誕生日が金正日と同じとか、壇上で自慢気に言うことじゃないでしょう。家に帰って仏壇に向かって言って下さい。とまれ、川添会長。還暦おめでとうございます。
人間は短期間でここまでダメになるものなのです。ホノトラ以来のブタ生活が祟り、結果は惨憺たるものでした。遅ぇ……。話になりません。
そうそう。大会前日には船で松島という人口約60人の小さな島に渡り、極上の魚料理を堪能してきました。ここは素晴らしかった。詳しく書かねば。開店休業状態の「美味礼賛」も再スタートしなければならんなぁ……。
松島に在る秘密レストラン。食材は野菜を含めて全て島で取れたものだそうです。シェフの父上は素潜りの漁師さんで、最長4分も潜っていられるのだとか。
世の中には凄い人がいるものです。こうしたプロの漁師さんが本気で鍛えれば、先に更新された素潜り世界記録など簡単に塗り替えてしまうのかも知れません。
さてさて、それではボチボチ本編へと参りましょう。トヨタがホワイトボディをスバルから持ち出して、ジックリ作り上げた極上スポーツカー、86GRMN秘話の続編です。
引き続き登場していただくのは、スポーツ車両統括部ZRチーフエンジニアの多田哲哉さんと、86GRMNの開発を担当されたスポーツ車両統括部主幹の野々村真人さんである。
時間との戦いとなった本インタビュー。
多田さんのご厚意で20分の延長となったが、話は章男社長からレースまで横道に逸れまくる。ロングインタビューの(とりあえず)最終回は、86GRMNとレースからのフィードバックなどについてお届けする。
トヨタの辞書に不可能の文字はない
多田さん(以下、多):フェルさんにも日経ビジネスオンラインの読者の方にも本当に分かって頂きたいのは、トヨタ生産方式の精神の部分です。確かに生産性を上げ、無駄を省き、効率化を突き詰めるということはやりますよ。ウチは徹底してやります。さっきフェルさんが言った、作業時の歩数管理というのも間違いじゃありません。
でもあれは、究極的な効率を求めて行った道中で出てきたノウハウの集合体の中の一つ。たった一つの要素でしか無いんです。トヨタの生産方式は、そんな歩き方をいちいち細かく指図するためにやっている訳じゃない。それが目的じゃ無いんです。
F:ではその根底に流れる精神というのは何でしょう。
多:何事にも不可能は無い、ということです。いろいろな観点から考えて行けば、必ず答えは見つかるということです。
F:不可能はない。それはまたナポレオンのような。「予の辞書に不可能の文字はない」ならぬ「トヨタの辞書に不可能の文字はない」。
多:僕らトヨタの人間は、簡単にあきらめるなということを、新入社員の頃から徹底して叩き込まれています。その精神の伝道師たる人間が、ここの工場長の二之夕です。
F:なるほど。だからこそ二之夕さんはGRMNの組み立て、しかも限定生産僅か100台というヤヤコシイ案件を受けて下さった。いくら章男社長が熱望されたって、スバルが「そんなものは出せない」と言ったらオシマイだし、また肝心のトヨタの生産工場が「そんな非効率な仕事は受けられない」と言い始めたらどうにもならない訳で。
多:そうなんです。だから元町工場でやってみるか?と言われた時は逆にびっくりしてしまって。こっちはもうバカ言ってんじゃ無ぇよと怒鳴られるかと思ってビクビクしながら聞いたわけで(苦笑)
もしスバルさんからホワイトボディを出すことを断られ、ウチの工場がどこも受けてくれなかったら、今までのGRMN同様に、完成車をバラバラにバラして上で、イチから組み立て直すということをしなければならなかった訳ですから。
「多田さん。もう本当に時間いっぱいです」
F:そういう手作り感覚で組み上げたら確かに良いクルマは出来るのだろうけれど……。
多:そう。出来るのだろうけど、それじゃ昔と何も変わらない。前に進めない。やはり、工場のラインに載せるやり方で作らなければ、僕らが考えるこれからのスポーツカーとしての意味が無い。
広報有田さん(以下、有):あの、多田さん。もう本当に時間いっぱいです。次のメディアの方は電車でいらしていて、その時間も有るので。
多:そろそろ行かんとまずいかね。
F:それじゃこうしましょう。多田さんにはまた場所を改めて時間を作って頂いて。
多:そうだね。東京でも良いよ。東京に行って話をしようや。
有:そ、そんな勝手に……。
F:東京にいらっしゃるのが難しければ、我々が改めて名古屋に参上します。楽勝ですよ。ねえY田さん。
編集担当Y田:そ、そんな勝手に……。予算が……。
時間いっぱいにより、ここで多田さんは退席された。続きのインタビューはまた別口で実現しよう。Y田さん。宿題がいっぱいですね。
以降は実際に86GRMNの開発を担当された野々村さんからお話を伺うこととなった。
その心は、「お前ら、分かってるだろうな」
F:それじゃ野々村さん。引き続きお願いします。野々村さんはこの86GRMNの開発に際し、どのような指示を受けていたのですか。
野々村さん(以下、野):これはもう単純明快です。市販車で86のレーシングカーと同じクルマを作れ!以上(笑)。
F:そんな……(笑)。そこからブレイクダウンしていくと。
野:GRMNのシリーズはiQ、ヴィッツ、マークXと86の前に既に3台出ています。トヨタはニュルブルクリンクのレース活動を何年も続けてきて、その乗り味を市販車にフィードバックしましょうと言ってGRMNを作って来たのだけれど、我々の問い掛けは果たしてお客様に伝わっていたのかどうか、と言う疑問があった。
豊田社長は決してダメと言わないのですが、「本当にお客さまに伝わってる?」とは言われました。こう言われたた時点で、僕らとしては「お前ら、分かってるだろうな」と解釈したわけで。
F:なるほど。
野:今までのGRMNはiQにしてもヴィッツにしても、全てレースを担当している人たちが開発に携わっていたのだから、存分にレースのノウハウは注入されてはいたのだけれど……。
F:いたのだけれど、でも実際にレースに出たクルマではなかった。ところが今度の86は実際にニュルのレースに出て実戦経験がある。そこは買うお客の側としても大きく意味が違ってきますよね。ストーリー性があるもの。そもそも今までのGRMNって実際にニュルブルクリンクを走っているんですか。
野:それはもちろん走っています。実際に車両をニュルに持ち込んで、向こうでセッティングをしています。看板に偽りはありません。
「でもこれはもの凄くヤバい事です」
F:ニュル風味とかニュル風、という訳ではないんですね。
野:違います違います(苦笑)。日本でもサーキットを走り込んでシェイクダウンしていって、ある程度まで煮詰めて、最後にニュルで仕上げると言った感じです。
あそこの路面は本当に世界一番厳しいので、ニュルでちゃんと走れれば、もう日本のどの道でも怖くない。ニュルでしなやかに足が動いて、吸収できていれば、怖いものなしで走れるので。
F:86GRMNを仕上げていく上で、一番気を使ったことは何ですか?
野:意識合わせですね。そもそもみんな量産のマスのクルマしか造ってない訳だから、これを変えていくのが大変でした。トヨタはやはり大きな会社なので、自分では前向きなつもりで仕事をしていても、どうしても保守的なところが有ったわけです、正直な話。
会議室だけで仕事をしていて、これはちょっと難しいと思わない?まあこんなもんじゃないの?というような雰囲気が有ったんです。
F:官僚化というか大企業化というか。まあでも仕方がないですよね、実際にトヨタは世界屈指の大企業なんだから。
野:そうなんです。これくらいだよね、と勝手に線を引いてしまうのが、ある意味当たり前でした。そんな雰囲気の中でみんな育って来たのだから、みんながみんな、それが悪いことだとは思ってない。でもこれはもの凄くヤバい事です。
F:それをトヨタの人が言うところが凄いと思います。しかも私のインタビューで(笑)。これ、フツーに書きますよ。
野:ああもう全然構いません。フツーに書いて下さい。
ここ最近、インタビューの度に「トヨタは変わったなぁ」と思う。
ほんの5、6年前まで、インタビューでこのテの話が出ることは絶対に絶対に絶対に無かったのだ。私の話に乗せられて、開発主査がポロッとオイシイ話をしてくれたところで、同席した広報担当者はピシャリと話をシャットダウンしたものだ。
ところが最近はどうだ。多田さんのハジケ振りは言うに及ばず、MIRAIの田中さんは組合時代の話を延々とし、野々村さんは大企業病を堂々と憂いて見せるではないか。毎度同席する広報担当の有田氏にしても、インタビューの時間こそ気にしているが、内容に関して注文を付けることなど殆ど無い。
「サスペンション屋って何やねん」
野:市販車ってね、千人ぐらいの人数が寄ってたかって開発するんです。パートパートに別れていて、僕はサスペンションのここ、私はステアリングのこの部分、というふうに役割が分担されている。
F:それはそうですよね。役割分担をして効率化を図る。
野:ところがモータースポーツの世界に行くと、それが通用しないんです。僕はシャーシの開発担当だったのですが、サスペンションの事しか分からない所謂サス屋さんです。逆にサスに関しては誰にも負けないプロだという自信が有る。
それで開発の現場に行ったら、お前、クルマはサスだけじゃ無いんだぞと。俺らが開発しているクルマだぞと、お前何屋なんだ。お前はクルマ屋だろうと。サスペンション屋って何やねん、という話になるんです。
F:お前はクルマ屋だろう、と。最大の褒め言葉だけど、これは厳しい。
野:初っ端からガツンと喰らいました。衝撃を受けましたよ。レースの現場で仕事を進めていく上で、「今の段階ではここまでが限界です。これ以上やるには、これとこれが不足です」と上司に持って行くと、「お前何言ってんの」と。できない理由ばかり並べやがって、お前はその程度の人間か?甘ったれるんじゃ無ぇ、と。
F:キビシー
後でボコられたのは僕ですよ
野:出来ない理由を100コ並べるヒマが有るのなら、どうやったらできるかを100コ考えて来い、と。量産車の常識が一切通用しないんです。
レースって目の前ですぐに結果が出ちゃうでしょう。練習走行の時から時間との戦いですから。前にオートポリスを借りきって極秘のテストをやっている時に、ECB(エレクトリック・コントロール・ブレーキ)の担当をやっていたのですが。
F:ECB、ル・マンに出るレースカーにも採用されているハイブリッドのためのエネルギー回生装置ですね。ブレーキペダルを踏むと、ブレーキの代わりにモーターにトルクを掛けて減速する。
野:そうです、そうです。モーターにトルクを掛けて減速するのですが、モーターのトルクって、低回転では高いのですが、高回転になるとトルクが落ちてくる。モーターの減速だけでは足らなくなるから、ディスクとパッドのブレーキと併用することになる。
ドライバーがコーナーに進入する際に減速しようとブレーキを踏む。速度は刻々と変わりますから、ブレーキのトルクもそれに併せて刻々と変わる。その分を油圧制御で補わなければならない。モーター回生のトルクブレーキと、油圧ブレーキでうまく協調させる必要があるんです。
その制御をやるわけですね。たくさんのセンサーで監視しながら、今モーターがこれだけ回生しているから、油圧をこれだけかけてあげようと。コンピューターが判断して、アクチュエータに指令を送って、ピピっとやる訳です。
F:なるほど。その塩梅が難しい。
野:まさに塩梅です。で、そのオートポリスの実験の時、そこのパーツでトラブルが有って、貴重なテストがムダになってしまった。テストを一回やるのに1000万円とか軽くかかっているので…。
F:一回のテストで1000万!どわー!
野:サーキットの使用料だけではなく、ロジスティクスやスタッフの人件費なども入っているので、すぐにそれくらいは行きます。そこで失敗すればもう針の筵です。みんなの冷たい視線がバシバシ突き刺さる(苦笑)
翻って86のGRMNです。ベースとなるノーマルの86は5人で開発したのですが、今回のGRMNは殆ど全てを1人でやりました。性能とか製造も含めて、とりまとめていたのは自分一人です。だから今日も僕1人しかいないんです。
F:じゃあスバルと交渉して向こうに散々ボコられたのは……。
野:最初のコンタクトは多田さんでしたが、後でボコられたのは僕ですよ。二回目以降、富士重さんに「はぁ?」と言われたのは僕だったんです(苦笑)
尻切れトンボで本当に申し訳ありませんが、会場の都合もあり、インタビューはここで強制終了と相成った。続きはご両人とのスケジュールが調整され次第実施します。
で、お詫びというわけではありませんが、先日、86GRMNのエンジン製造工程を探りにトヨタテクノクラフト横浜本社にある、通常は非公開のエンジン組み立て工場に潜入してきましたので、次号はそのリポートをお届けしたいと思います。
そういえば、豊田章男社長のインタビュー交渉は進んでいるのでしょうか?原稿の催促ばかりが飛んできますが、こちらもお願いしますよホント。このままやっぱりダメでしたー」じゃ日経ビジネスオンラインの股間に関わりますよ。あ、估券ですか。そりゃ失礼。
それではみなさままた来週―!
英国EU離脱と自動車メーカー
日本時間の6月24日、英国がEUからの離脱を決断しました。想定される影響については、当サイトを含めて多くのメディアでさまざまに言及されていますが、自動車メーカーも、大きな困難に直面することになりそうです。
短期的に最も懸念されるのは、円高株安のダメージです。輸出・国内販売の双方で、重い足かせになります。
皆さんもご存知の通り、クルマの国内販売はもともと低調な状態が続いています。乗用車8社が4月下旬にまとめた2015年度の国内生産台数は14年度比4.1%減。前年度実績を下回るのは2年連続で、900万台を割り込むのは東日本大震災の影響を受けた11年度以来です。ハイブリッド車などの国内販売は堅調だった一方で、軽自動車の増税が響いた格好です。
足元がおぼつかない中で、円高株安が基調となってしまえば、その影響は軽微にはとどまらないでしょう。
また、英国が実際にEUから離脱するのは2年後とされていますが、英国をEU市場進出の拠点としている自動車メーカーは、生産拠点の移転などを検討せざるを得ないかもしれません。関税引き上げなどにより、英国からの輸出条件が悪化する可能性が否定できないからです。
世界を舞台にした大混乱の中で、日本の自動車メーカーがどう動くか。しばらく、試練の時が続きそうです。
(編集担当:Y田)
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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