虫谷:1995年のムックですね。ここに出ているのは、渡辺明さんというモトクロスのレーサーです。1978年にモトクロス世界選手権GP125でチャンピオンになった方です。実はモトクロスで世界チャンピオンになった日本人は、いまだに渡辺さんただ一人なんですよ。

F:1978年って……もう40年も前じゃないですか! いまだにこの方だけなんですか?

虫谷:はい。渡辺さんは昨年までスズキのワークスの監督をやられていましたが、スズキがワークスから撤退し、渡辺さんも今はどこにも所属していません。さて、フェルさんはスキーをやるからお分かりになると思いますが、スポーツではどの競技でも“骨盤を立てる”ことが重要になりますよね。

F:はい。スキーでもロードレーサーでも、骨盤の角度はとても重要です。

虫谷:私は2006年にヨーロッパ駐在から日本に戻り、何か趣味を始めたいなと思ってモトクロスのレースをやるようになりました。もちろんこれまでもバイクには乗っていましたが、レースを始めてみると、オフロードだと意識しちゃって体に余計な力が入ってしまうんです。例えば「バイクはニーグリップが大切だ」と言いますよね。そこで、膝をギュッとすると、よけいに全身に力が入って。

F:自分が思うように体を動かせないわけですね。

虫谷:当時はJNCC(全日本クロスカントリー選手権)というレースに出場していましたが、最初はなかなか結果が出ませんでした。そこで、ある方から渡辺さんが主宰するライディングスクールを紹介されて、入ったんですよ。参加者は15人ほどでしたが、「どこかで見たことがある人だな」と思ったら、実は世界選手権に出場しているライダーだったりしました。そして私もこのスクールで学んだら、2年で結果が出て……。

F:おお! 速くなったんですか!

虫谷:2012年に、全日本クラスの一番下のカテゴリーですが、一応、1位になりました。

F:1位! すごい!

虫谷:スクールで何度も言われたのは、「バイクを遊ばせろ」ということでした。自分で軸をつくり、その軸の上でバランスを取れと。そのために骨盤を立てろと。「人間はバランスを取るという能力を持ち合わせているのだ」ということを渡辺さんから学びました。

F:なるほど。この雑誌にも“骨盤を立てる”ということが書かれていますね。

虫谷:骨盤を立てるとなぜいいのかということが延々と書かれています。そして実際にバイクに乗ってそれを実感し、「ああ、このことか」と。

 渡辺さんは「バイクは何も変わらない。ライダーがどう乗るかで変わる」と主張しています。確かに、乗り方が変わると全然疲れないんですよ。前にフェルさんにお伝えした「目線がぶれない」ことの重要性もここから学んだものです。バイクの世界では、先ほど申し上げたように「ニーグリップ」が常識なんですが……。

F:あっ、ニーグリップなんかしたら骨盤が立たないし、バイクと人間が一緒になって、バイクが遊べなくなるからダメだと。ひえー。スクールではどんなふうにそれを教わるんですか。

半日、バイクにまたがっているだけ

虫谷:スクールは最初、1日コースに入りました。ところが半日間はバイクにまたがっているだけなんですよ。

F:え? 動かないバイクにですか?

虫谷:そう。エンジンをかけていないバイクにまたがっているだけです。そして「はい、加速!」と言われるとそのまま加速姿勢をとるんです。するとここがダメ、ここがダメ、と指摘される。

F:停まったバイクの上で。

マイトのY:なんだか虫谷骨太講座と似ていますね(笑)。停まったクルマの中で延々とレクチャー。

虫谷:実はあの講座は、このスクールでの経験から生まれた部分もかなりあるんです(笑)。そもそも、私が「人間はこういう骨格でこう動く」と話すのは渡辺さんから学んでいるところがかなりあります。

F:現在のマツダのしなやかな乗り味の裏には、二輪での経験があるんだ。面白いなあ。

虫谷:実は渡辺さんが出ているこの雑誌を教えてくれたのは、リハビリの先生だったんですよね。

F:リハビリ? 虫谷さん、怪我をされたのですか?