賢明なる読者諸兄は覚えておられよう。今から3年半ほど前、マツダ社内で極秘裏に行われている「骨太講座」への潜入レポートを行った。マツダのクルマの味付けや快適な乗り心地などを探求する、「マツダが良しとするクルマの走り」を社長から社員にいたるまで教え込む趣旨の社内講座である。

 そんな極秘講座で、マツダが標榜する「人馬一体」の走りの味を決め、守り、伝えているのが車両開発本部操安性能開発部走安性能開発グループ 兼 統合制御システム開発本部 上席エンジニア(名刺の肩書きをそのまま書きました。長い!)の虫谷泰典氏、通称ムッシーである。我々も実際にクルマに乗りながら、「マツダの走り」の真髄を伺った。これは本当に貴重な経験だった。

 それから3年が経った昨年末。間もなくマツダの代表取締役副社長執行役員になられる“藤原大明神”こと藤原清志氏へのインタビューを行ったとき、帰り際にこんな話になった。

 「そういえばフェルさん。虫谷の講座を受けていましたよね?」

 「はい、広報の方々に無理を言って、3年前に三次のテストコースで受講させていただきました。ダッシュボードに置いたボールの動きを見ながらクルマのミリ単位の挙動について教わり、そこから感じるGの違いについて解説していただいたりして、すごく面白かったです」

 「それなら、近いうちにまた虫谷の話を聞いてくださいよ。新たな次元に進化していますから。それが“次のマツダの乗り味”になるんです」

 そして半年、マツダの「次世代技術説明会」が、山口県は美祢試験場(旧MINEサーキット)で開催され、大明神がおっしゃった「新たな次元」の足回りを、新型エンジン「SKYACTIV-X」を搭載した試作車で体験できるという話が来た。しかも、頼み込んでみたら、試乗後にムッシー虫谷氏に取材もできるという。いわば“NEW虫谷骨太講座”の受講とも言うべき機会。逃すわけにはいかない。通常連載に並行してもお伝えせねばなるまいと、担当編集マイトのYともども、長駆山口へと飛んだのである。まずはムッシー虫谷氏との久しぶりの対面シーンから。

 と、その前に言い訳を少々……。

 虫谷氏の話は長い。しかもその話がしょっちゅう“あらぬ方向”に脱線する(その脱線がまた非常にオモロイから困る)。もともと話がアサッテの方向に飛んで行くことで有名な不肖フェルが、“マツダの脱線大将”虫谷氏にインタビューするのである。間違いなく話は脱線し、限りなくアサッテの方向に飛んで行く。なるたけコンパクトにまとめるつもりではいるのだが、それでも長くなる可能性があることをお断りしておく。

 今回お話を伺うのは、虫谷氏と執行役員・車両開発本部長の松本浩幸氏である。

虫谷上席エンジニア(左)と松本執行役員(右)

虫谷:フェルさん、ご無沙汰しています。あのときは寒い中お付き合いいただきありがとうございました。

F:ご無沙汰しています。今回もよろしくお願いいたします。今回は逆にえらく暑いですね。クーラーもっと利かないのかな……。

マイトのY:ああ……またそんなワガママ言わない!

松本:……フェルさんはあのとき、プレマシーにお乗りいただいたのですよね?

F:ええ。試乗させていただいたのが2014年の12月。当時現行型だったプレマシーと一世代前のプレマシーを比較させていただきました。わずかな味付けの違いで、クルマの挙動はこうも変わるのかと感嘆いたしました。虫谷さんの話も面白くて、気づけば当時最長となる全7回の長期連載になりましたから。

虫谷:実はあれでも全部をお伝えしきれなかったのですが……。

松本:今回乗っていただくクルマは、そこから繋がっているものです。

F:虫谷さんがずっと考えていたことがすべて、ようやくマツダの商品として形になる、ということですか?

虫谷氏に通訳が現れた!

松本:考えていたというよりも、感じていたことを形にしたと言ったほうが適切でしょう。虫谷は“感性で生きている男”ですから。そんな虫谷が「マツダ車はこうあるべきだ」と感じていたことを、別の角度から「それはこういうことだよね」と言える男が現れたのです。2人がタッグを組むことでマツダ車の乗り味を別次元へと昇華させることができた、と言っても過言ではありません。

F:ほお。それは社内の方ですか?

松本:ええ、千葉(千葉正基氏)と言いまして、社内の人間です。

虫谷:統合制御システム開発本部のプリンシパルエンジニア(Principal Engineer、上席研究員)です。私が兼務しているところですね。

松本:千葉はもともとは技術研究所で人間の研究をやっていたんですよ。

F:「人間の研究」、ですか。千葉さんはエンジニアなんですか。それともメディカル系の方?

松本:エンジニアです。千葉は、虫谷が事あるごとに“感じる”ことを「それは人間はこういうメカニズムで動くからですね」と、解き明かすプロなんですよ。千葉が現れたことで、虫谷が言っていることを他の社員が……。

F:理解できるようになった。千葉さんが宇宙人虫谷さんの言葉を人間の言葉に翻訳してくれる(笑)。

松本:翻訳というか、通訳ですね(笑)。マツダ社内にはシート、ボディ、サスペンション、タイヤ……ものづくりのプロがたくさんいますので、通訳が現れたことで彼らが虫谷の言葉を理解して、虫谷が感じたことを実現できるような、ものづくりの体制がやっと整ったのです。